そんな訳であたしは、万事屋の一員になりました。 ・・・まあどっちかって言うと、居候かな。 主な収入源は、拝み倒して雇って貰ったコンビニとファミレスのアルバイト。 ・・・・時々万事屋の家賃請求で消えるけど、まあ一定額は部屋代だと思えば苦にはならない。 一番の問題は―――――― 「ちゃーん!俺とパフェでも食わない?」 「申し訳ありませんお客様。職務中でございますので」 坂田銀時―――通称銀ちゃんが、あたしによく絡んでくること。位だろうか。 <とある天パのコイモヨウ> 「くん。また君の彼氏きてるねぇ」 「彼氏じゃないですって」 何度目か分からない問答を店長と交わして、使っていたトレーをカウンターに置いた。 気分的にはガツンとやりたいがそこはあくまで丁寧に。お客様に怪訝にされたくはないですから。 ああまったくもう。何度も何度も違うと繰り返しているのに修正されないということは、絶対からかうために言ってるんだろう。 もしかしたら名称として定着しているのかも。 すごい不本意… ひっそりため息吐いていると、キッチンから注文のメニューがでてきた。テーブル番号を確認して持っていく。 フロアに出ると、ずっと出てくるのを待っていたのか、銀ちゃんと目が合った。 死んだ魚の目と評されるその目に熱いものを感じて、あたしはぷい。と目を逸らす。 「お食事をお持ちしました。天人サンドご注文の方はどちらでしょうか?」 極力銀ちゃんの方を見ないで、銀ちゃんにだけは笑顔を向けない。 あたしの笑顔はお客様が気持ち良く過ごすための、単なる営業なんだから。変な勘違いする人になんか向けませんよーだ。 ひしひしと感じる視線を全部無視して、店員としての仕事を全うする。 銀色天パの人に関してあたしが関わらないのはいつもの事。その点は他のスタッフが対応してくれるから、バイト中に困ることは殆どない。 あたしがバイトを始めてからこれまで、銀ちゃんはよく迎えに来ている。 特に夕方以降の帰りは絶対に迎えに来てくれる。 特別頼んだわけではないのだけど、物騒だから、とか色々理由をつけてくれて、殆ど通い。常連さんと同じ状態になっていた。 それだけいると、時々起こる困った客の対応なんかに、助け船を出してくれることもあって。 他の職場だと、あたし出勤時限定の用心棒みたいな扱いになっていた。 正直に言うなら、すごい嬉しいけど。こんなこと付き合ってきた彼氏にもされたことないけど。 ・・・・・・ちょっとウザイ。 「ねぇ銀ちゃん。もういいよ?迎えにこなくても」 帰り道は必ず銀ちゃんと一緒になる。なぜなら裏口で銀ちゃんが待っているから。 毎度毎度あたしを追っかけまわしてるおかげで銀ちゃんの「あたしスケジュール」は完璧だ。 どっから探りいれているんだか。 この一緒に帰宅をするようになってから何回もしてきた討論を、今日もしてみる。 しかしやっぱり銀ちゃんには無意味だった。 「はぁ!?なんだまたそれかよ。銀さんが好きにやってんだから、気にすんなって言ってんだろ」 「いや、うっかりするとストーカー行為だけどねこれ」 捕まっても文句言えないからね。これ。 あたしは責任持ちませんから。警告はしましたから!! 「それに、銀ちゃん、糖尿間近で甘いもの止められてるんじゃなかった?」 いつもお店に入ってくるときは、銀ちゃんは律義に注文してくる。 まあ、そうじゃなかったらただの迷惑野郎だけど。 お金のない時は一番安いバニラアイス。そうじゃないときはパフェとかケーキとか。 食事系は一切なしの甘味オンリーですが。 「安心しろ。俺の血液は既に糖だ」 「えっ、手遅れ?! 本当やめてよっ?あたし生活週間病で死ぬ人見るのやだよ!?」 「だーいじょうぶだって。最近は誰かさんのおかげで食生活に偏りがないし」 「それとこれとは話が別です!」 一緒に暮らしてるから食生活は熟知しているとはいえ、そんな注文ばっかりだとこの人は大丈夫だろうかと心配になる。 よし。今日は野菜炒めにしよう。緑と赤と黄色の黄金比率でビタミンがっつり! 肉がないと嘆く人がいるからウィンナーでもつけてあげましょうか。 「銀ちゃんスーパー寄ってこう!今日の夕飯買わなきゃ」 スーパーで銀ちゃんを荷物持ちにして野菜を物色する。 いかにして値段を安く、かつ多く購入するかはもはや命題だ。 ミリグラム単位での違いを手にとって確認し、かごに入れていくこと数分。 ふと、銀ちゃんが何事かを呟いた。 「なんかこういうの好いよな。新婚さんみたいってか」 「あ!お魚安い!!行くよ銀ちゃんっ」 「・・・・ちゃん、お菓子買っていい?」 「甘いものは1日ひとつ!!」 それよりも何よりも安いものに意識は飛んでいく。 明日の献立予定へ向かって足を速め、別の所に行こうとする大きな子供に釘を刺した。 「ほんっと、なびかない子」 お菓子コーナーには行かないできちんとついてきた銀ちゃんが呟いた言葉は、はっきり聞き取れたけど、聞こえないふりをした。 初めて会ってからというもの、銀ちゃんのこの手の呟きなのかアタックなのかは続いている。 そしてあたしはそれをすべてスルー。もはやマスタークラスだ。 まだまだあたしには銀ちゃんの気持ちを受けとめられない。 だって、ホントに本気なのかわからないし。 あの死んだ目で言われても本気だと思えない。 それに、あたし自身が割り切れない。なんとなくなんかじゃ付き合えないもん。 一応、帰りたいって、思ってるし。 帰れる気、しないけどさ・・・・・・ もうちょっと。もうちょっと、って。 この曖昧で緩い関係が終わらないで欲しいなって思う。 「ただいま〜」 「!!早く飯作るアル!!腹が減って背中がお腹になりそうネ。あとおかえりなさい」 「はいはい。お米は炊いてある?」 「バッチリよ!炊飯器の女王とはあたしのことネ」 「さっすが神楽ちゃん。そんないい子にはおばちゃんお菓子あげちゃうわ〜」 「酢昆布!!今日で切れてたネ! 愛してるぞ〜!!この女〜っ!!」 「ぐふっ・・・・ベアハッグはやめて。息苦しくて死ねる」 買い物をすませて帰ってきた万事屋銀ちゃんでは、お腹をすかせた胃袋が待っていて、早速食事の準備にとりかかることになった。 熱烈な抱擁を神楽ちゃんから貰って、離れてくれるのを待ってから、台所に向かった。 やれやれ、怪力さんは普通のハグでもプロレス技になるわ〜 台所では荷物を持ってくれていた銀ちゃんが、こっちをじぃっと見ていた。 「神楽にはご褒美があって、俺にはなしなの?」 「銀ちゃんはもう食べたでしょ?」 なんだか恨めしそうなその目をすりぬけて、今日使うものを出し、明日の分はさっさと冷蔵庫にいれてしまう。 銀さんは銀さんで、まだまだむくれて不満を漏らしていた。 「あれはお前からのじゃねーじゃん!自腹じゃんっ 銀さんの自分自身のごほーびじゃんっ!」 「じゃあウィンナーおまけしてあげるから、むくれないの」 「銀さん食べ物じゃないほうがいい」 「はいはい後で聞いてあげるから。後で」 あーあ。こんなお母さんみたいなセリフを言う日が来るとはな〜。こういうのは新八くんの役目のはずなんだけどな〜。 なんてことを考えて、あたしは完全に油断していた。 いつもいちご牛乳で終わらせられたし、駄々こねても結局は折れてくれることが多かったから。 敵に背後を見せて、あたしは今日一番の後悔をした。 「―――っ!」 ぐっと、お腹周りに太い頑丈な腕が回される。 吸い寄せられて、背中に堅くて温かい何かが当たる。 全身がすっぽりと包みこまれるような感覚だった。 「うわ・・・・お前、なんでこんな気持ちいいんだ?」 ぐあっと、胸の奥からこみ上げて全身を巡った感覚と、いいようのない感情は、まず目にキた。 気付いた時には我慢しなければならない。 今瞼を閉じればこぼれてしまう。 銀ちゃんに抱きしめられた時の状態のままフリーズしたあたしは、しばらくの間平静を保つための再起動が必要だった。 「―――――包丁を握る前でよかったねえぇ。でなきゃ刺してるとこだったわー」 手の震えも、声の震えも、全部怒りでカモフラージュして、あたしは呪いの言葉を吐いた。 ゆっくりと、顔を後ろへ巡らせて、そして前髪の陰から真っ白な髪を見上げる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・申し訳ございませんでしたっ」 びくっ、と動作を凍らせた銀ちゃんは、ゆっくりと、そして流れるように私から離れ、1歩、2歩、3歩と後ろに歩き、最後には項垂れ、跪いて、土下座した。 そしてそのまま、ササササササカサカサカサカ・・・・・と、器用に土下座のままで廊下の向こうへと消えていった。 なんだか息がうまく吸えない。 とたんに動揺しだした心臓が大音量を奏でて、息切れしてしまう。 ああもう!!なんでっ、どーしてそういうことをするのかなぁ!! いくらあたしでも、女の子なんですから抱きしめられたら動揺するわ!!! 抱きしめ、と無意識に反芻してしまい、体に残る感触にぶわーーーーーーー!!!っと叫び出したくなる。 ええい消えろこんなもん!!忘れてしまえ!あたしは今から家政婦モードになるのだ!! 野菜をざばざばと乱暴に洗って、精神統一。 顔が赤いって? 何を言ってるんだいそんなのワタクシは見えておりませんよ。 莫迦なこと謂うんじゃありやせんやぁははは。 その日の夕飯は、銀ちゃんにだけ野菜の野菜による野菜のための野菜炒めをモリモリにして出してやった。 ウィンナーは神楽ちゃんとあたしだけで美味しく頂いた。 タコとカニにしたウィンナーは実に美味しかったですよ。 銀ちゃんの・・・・・・・・・・・・・・・っバカ!! |