「黒の騎士団」と聞いて、誰しもがまず真っ先に思い出すことは、ブリタニアを苦しめた武装組織だということ。 そして「正義の味方」と名乗り、確かにそれを実行していた集団だということ。 そして、今その象徴である一人の男のことを、誰もが知っている。 <きみとともに> 「ルルーシュ。支度できたか・・・って」 東京租界の外れにある、屋敷とも言えず、家とも呼べない大きさの建物に、僕たちは暮らしていた。 ルルーシュと僕とC.Cの三人で。 ナナリーは一緒には暮らせず、今もまだアッシュフォード家に預けている。 本当は一緒に暮らそうと言ったのだけど、ナナリーは「お邪魔虫は退散します」と含み笑って辞退したからだ。 僕は一体何のことか分からなくて首を捻ったけど、他のみんなも、僕からはしり聞いたルルーシュすら分かったようで、ニヤニヤ笑われたり溜息を吐かれたり。蚊帳の外にされた。 どういうことかルルーシュに聞いても、答えてくれなかったから知らないままなんだけど。 なぜ移動したのかと言えば、ルルーシュのギアスが暴走して一般人と生活できなくなってしまったからで。なるべく人と係わらないようにとあまり人の来ない場所に移住した。 徹底的にしたいなら東京から離れた方がいいのだろうけど、僕たちの存在はまだまだここに必要で、どうしても留まらざるおえなかったからだった。 未だ新しい「特区日本」は、まだまだ問題は山済みで、政治参加をしている黒の騎士団も、てんやわんやしている。 それでも、一体いつまでかかるか分からない状態だったのを、ハイスピードで収めているのは「ゼロ」のお陰なんだろう。 彼はあらゆる「奇跡」を起こして、事件を解決させていく。 そして僕は、その手伝いをする。 ずっと傍にいると誓った、彼の。 全てを失う怖さを知って、誰よりも強くなった彼の。 「まだ寝てるのか・・・・」 その彼は、僕の前で寝息を立てていた。 一人で使うにはあんまりにも贅沢すぎるほど馬鹿でかいベットの中央に陣取って、微動だにせず眠っている。 生きていると分かるのは胸が上下に動いているのと、眉間に皺がよっているから。 昨日も激務だったからな・・・・ そう考えながらベットの端に座ってルルーシュの顔を覗き込んだ。 一体どんな夢を見ていればこんなに眉間を歪ませられるのか・・・・ ついいたずらしたくなって、くいっと指でその皺を伸ばした。 「!」 と、その手が誰かに取られる。 「何をしているんだ・・・おまえは」 寝ていたと思っていたルルーシュが、僕を見上げてにらみつけた。 「いや・・・なんとなく・・・?」 そう言うと溜息を吐かれた。ルルーシュは僕の手首を離さないまま起き上がり、小さくあくびをした。 「なんとなくでおかしな起こし方をするな。まったく・・・」 そう言うルルーシュの声音はまったく怒ってはいない。 しょうがない奴だとでも言うかのような、苦笑の混じった声音だった。 今のは起こそうとしてやった行動じゃないんだけどな。とは言わないでおこう。 「ルルーシュそろそろ出る時間だ。支度をしないと」 「・・・もうそんな時間か。まったく・・・一日一日が速すぎる」 「はは。ほんと、ルルーシュには寝る暇がないな」 今日も朝日が昇りそうな頃に帰ってこれて、やっとできた睡眠だったんだ。 僕も似たようなものだけど、少なくともルルーシュよりは仕事が楽だと自覚している。 「良い人材だろうと育っていなければ使い物にならないからな。まったく・・・」 「ぼやくなよ。誰もがルルーシュのようにはならないんだから」 「まあそうだがな・・・せめて生徒会くらいの力があれば・・・・」 ぶつぶつ言うルルーシュに苦笑して、ベットからおりようとしたとき、それに気付いた。 「ルルーシュ」 「なんだ?」 「そろそろ手、離してくれないか?」 「は?・・・ああ」 ルルーシュもようやくそれに気付いて、下を見た。 でも、その手は外されない。 「・・・ルルーシュ?」 しまいには掴む力を強められて、僕は小首を傾げた。 ルルーシュは掴んでいる手を上げて、もう片方の手も重ねて僕の手を包む。 「ルルーシュ?」 一体何がしたいのかまったくわからない。 ルルーシュを促すと、ルルーシュは何も言わずに小さく笑んだ。 とても楽しそうに。ほんの少し自分を自嘲するように。 「いい手だな」 「・・・そうか?」 僕の手を撫でさするルルーシュ。 優しく優しく、大切に扱うその手が触れるたびに、なんだかむず痒くなる。 でも、引っ込めたいとは思わない。 「ああ。いい手だ」 どんな、と言わないルルーシュ。 必ず理屈を並べてどこが良くてどこが悪いか言うルルーシュにしては珍しく、ただいいとしか言わない。 僕にはその、包まれている自分の手を撫でるルルーシュの手の方が、何倍も綺麗に見えた。 節のない綺麗な長い指先も、滑らかな肌も、男性と女性の中間にある様なその手はとても綺麗で。 ルルーシュが自分の方に寄せる時も、気にもかけずに見入ってしまうくらい。 そして僕の手の平に、ルルーシュの唇が触れてきた。 「ルッ、ルルーシュ!!??」 さすがのことに、僕は我に返って声を上げた。 突拍子もないその行動にあんまりびっくりし過ぎたせいか、手を引っ込めることも考え付かず、未だ手はルルーシュの両手と、唇に触れているけど。 「ルルーシュ・・離してくれ・・・」 唇が付けられるたびに、さっきの撫でられていたことなんてなんでもないくらい背筋がゾクゾクする。 嫌悪感ならいいのに、そんな感じがしない。頭が酩酊するその感覚は自分を見失ってしまいそうで、僕はルルーシュに懇願した。 けど、ルルーシュはそんな僕を一度見て笑みを浮かべ、結局手を離さなかった。 それどころか、生暖かな濡れた感触が触れて、僕は肩をびくりと震わせた。 ・・・・今、舐められたのか・・・?・・ 自覚して、顔に血がのぼる。一体どうしてしまったんだ、僕は。 「どうした?顔が赤いぞ」 「・・・・・誰のせいだ」 ニヤニヤと笑うルルーシュを睨む。 悔しくなった僕はルルーシュの手を逆に取って、その甲に口付けた。 「!」 「おかえしだ」 そう言って舌を出す。 驚いたルルーシュの顔に満足して、僕はその手を放してベッドから降りて立ち上がった。 「おまえ・・・・わかっててやったのか?」 続いてベッドから立ち上がったルルーシュは、手を撫でてじっと僕を見てきた。 「え?・・・・・・・ああ」 言われて気がつく。僕がさっきやった行為は確かに迂闊にはできない代物かもしれない。 でも、別に構わない。 「いいんじゃないか?気にしなくても」 「気にしなくてもって、おまえな・・・・」 脱力するルルーシュの手をもう一度とって、引き上げる。 そして僕は、ルルーシュを真っ直ぐ見て微笑んだ。 「僕は君の傍にいる。君を守る。だから、これは許される行為だ」 そう言って、もう一度手の甲に口付けた。 主に忠誠を誓う騎士のように。 今度はルルーシュの目は見開かれず、苦笑される。なんとも不遜な笑みだった。 「・・・おまえが俺の騎士か?」 「不服ですか?我が君」 その手を掴んだまま項を垂れる。 「いいや。最高の騎士だ」 そう言って僕の肩を交互に叩いた。 「ずっと、傍にいてくれ」 「イエス、ユア・ハイネス」 傍にいるよ。 どんなことになろうと。 だからどうか君も。 僕から離れていかないで。 そしてまた、僕の手の甲に君のそれが重なった。 お互いが主 お互いが騎士 そんな関係。 対等な関係。 ・・・・・・・・・・・やっべ。萌えるwwwww
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