「うあっつー!」

クラブハウス内にある生徒会室。そこで今夏に決定していた盆踊りイベントの最終確認をしていたルルーシュの元に、シャツ一枚で入って来たのはリヴァルだった。
入って早々、リヴァルは冷蔵庫からお茶を取り出し、ガバガバ飲み干した。

「ぶはーっ 生き返るー」

誰に聞かせる訳でもなく大声で言うリヴァル。ひょっとしたら、暗にルルーシュに嫌味を言っているのかもしれないが、そんなことでルルーシュが外に出るなんて事はありえない。

「あーあ。ここはこんなに涼しくて気持ちいいのに、なんで外は無駄に暑いんだか・・・」
「夏だからだろう」

ルルーシュはしれっと返した。
今日の気温は最高40℃の猛暑だと予想されている。朝の気温は24℃と比較的涼しかったのに、うなぎのぼりに温度計が上がっていっていた。
さすがにそんな中ではもう昼前から室内にいるだけでも参るので、クラブハウス内の人が在室しているところでは空調を効かせている。そんな訳で、この生徒会室はとても快適だ。
そして朝からここで仕事をしているルルーシュは、だくだくと汗を流しているリヴァルとは対照的に、汗1つ掻いていなかった。

「俺は今日ほどお前が頭脳班であることを恨んだ日はない」
「残念だったな。俺より頭が悪くて」
「ううう。言い返せないところがさらにムカつくな〜」

たとえそういう役割ではなくても、外には絶対に行かないだろうな。とルルーシュは思う。
決して暑さに体性がないとは言わないが、エリア11特有の湿気の混じった暑さだけはどうにも苦手だ。
実際の気温よりもはるかに高く感じられ、身体に熱が密着しているような不快感は体力を削ぎ、少年時代はスザクに連れまわされて日射病・熱中症を起こしたことは少なくない。

「それで?やぐらの設営は終わったのか?」
「ん?ああ。後は知ってる本人たちが調整するって、スザクとライが残ってる」
「で、お前は先に帰ってきたのか」
「だってさ〜、先に休んでいいって二人が言ってくれたから〜」
「まったく・・・お前は」

いひひと笑うリヴァルに嘆息を付くが、自分も言えた義理ではないのでそれ以上言わないが。
ルルーシュは窓の外を見た。白い石畳の道は陽炎が漂っている。日も真上にあり、ささやかな影がさらに小さくなっていた。
これでは外にいる二人も相当きついだろう。

「二人が戻ったら労ってやらないとな」

咲世子が作った冷たい氷菓子がまだあるのを思い出して、ルルーシュは立ち上がった。

「あ!俺も俺もーっ」
「お前の分はないぞ」
「なんでー!」

そうやってルルーシュとリヴァルが漫才を繰り広げているうちに。

「ただいまー」

スザクとライが戻ってきた。

「お、おつかれさーん」
「疲れただろう。ちょうど入れたところだ」
「うわ。ありがとうルルーシュ」

冷えたお茶を渡されたスザクは、汗を滝のように滴らせて笑う。首にかけていたタオルで拭う様は、なぜか土木工事の人間を思い起こした。・・・似合いすぎだ。

「ほら、ライ。お前も喉が渇いているだろう?」

傍に寄ったライに水を向けると、こちらは汗を掻かずに平然としていた。
あの暑さの中で大したものだ。

「ああ。ありがとう」

ルルーシュを見て、ライは笑い、コップを手にとって。

「ライ!?」

ルルーシュの身体へ倒れこんだ。









「熱射病だ。この馬鹿」
「すまない・・・」

生徒会室の隅に横たえ、脇や膝裏にアイスノンを挟ませられたライは、ルルーシュにそう言われて火照った顔を被ったまま、情けなさで呻いた。
ルルーシュの溜息が聞こえてさらに申し訳ない。
ルルーシュはルルーシュで、文句を言いつつも大したことがなくて心底安堵していた。
そしてそれだけに、腹が立つ。

「休むことも給水もしなかったんだろう」
「スザクが平気そうだったから、大丈夫だと思ったんだが・・・」
「あの体力バカと自分を一緒だと思うな。それにスザクはこの環境で育っていたんだ。お前が同じようにできると思う方が間違いだ」
「・・・日本人は、すごいな」

素直に感心するライ。
ブリタニアは大陸の為、乾燥した暑さだからまだ過ごしやすい。
まるでサウナのようなこの暑さの中、毎年過ごしている日本人に対しての素直な尊敬だった。

ルルーシュは氷水で絞ったタオルをライの額に乗せて、もう一枚で首元を冷やしにかかる。

「きもちいい」

その気持ちよさに、ライはほぅ・・・と溜息を吐く。
火照った頬と相まって、ルルーシュの目には酷く艶やかに移り。

つい、病人だということも忘れて軽く口付けた。

「今後はこんなことにならないように気をつけろよ」

ポカンと目を丸くするライにルルーシュは綺麗に笑みを作る。

「でないと、次は襲うぞ」
「!?」

その脅迫に、ライはさらに赤らんだ顔をこくこくこくこくと何度も動かした。



そんな二人を見ているのが二人。

「俺たちの存在、無視されてね?」
「ルルーシュは大体いつもあんな感じだよ」
「苦労してんね。お前も」

医者の手配とライの部屋の空調を動かしに行っていたリヴァルとスザクは、開けたドアの隙間から互いに苦笑し溜息を吐いた。





熱中症は怖いです。時には死んでしまうこともあるとか。
水分はこまめに。休息もこまめに。日の当たらない所で行いましょう。
クーラー病も気をつけてね。