「可愛い・・・・」

クラブハウスの一室で、ライはポツリと呟いた。
手の中には小さな紙が一枚、大切に大切に握られている。
その紙をつくづく眺めて、ライは再び「可愛い」と呟いた。
呆けた顔はそこから釘付けられて逸らせない。

「ライ、こんなところにいたのか・・・って」

部屋へ入ってくるルルーシュに気付きつつも、ライはただじっと見続ける。
いつもはすぐに反応して顔を向けてくるライが珍しいと、ルルーシュは近付き、ライが見ている紙を覗き込んだ。

「! お前、こんなもの何処から見つけてきたんだ」

ライが握っていたのは、幼い頃の自分と妹、そして友人が写った写真だった。
小さな頃の自分たちはそれぞれがカメラに向かってはにかみ、身を寄せていた。

「本棚を整理したら、出てきたんだ。これはいつの頃のなんだ?」
「ああ、たぶん枢木神社に引き取られてからしばらく経った位の頃だな」

写真の中の三人はとても仲が良さそうに見えた。
来た当初はあまりスザクとも折り合いが良くなく、仲が良くなったのはしばらくしてからだったから、おそらくそれくらいだろう。
来ている服から見ると、丁度1年経った位かと思われる。

ルルーシュの説明の後も、ライはただじっと写真を見つめ続けていた。
そして、

「これ、貰ってもいいかい?」
「はあ?」

そう言って来たライに、ルルーシュは首を傾げた。
こんなものを持ってどうするのかと。
しかし、ルルーシュはすぐに思考を切り替え、立場を逆に考えてみた。

もしも、ライの小さい頃の写真を発見したら、自分も手元に置いておきたくなるかもしれない。
小さかった、自分が知らないライを、たった一枚の写真だけでも欲しいと思う。
共有できる、記憶として。

そう考えて、ルルーシュはふと機嫌が悪くなった。

「駄目だ。これは渡せない」

ルルーシュはライから写真を取り上げた。
ライから非難の声が上がるが、譲れない。

「不公平だろう」

ルルーシュの言葉に、ライは瞬いた。

「お前はいつだって昔の俺に会えるのに、俺はどうやったところで昔のお前と会うことはできない」

ルルーシュの昔は、様々な人間が知り、情報がある。誰とでも共有できるし、思い出も品として残っている。
けれど、ライは、過去の人間だ。
遠い昔、歴史の中でしかその名を残していない人間だ。
ライを古くから知っている者は本人しかいない。本人しか、知る術を持っていない。
これも一種の独占欲だろう。現在と未来を共有できても、過去だけは届かない。
すべてを知っていたいのに。

ルルーシュの訴えに、しばらくライはきょとんと目を瞬かせていた。
そして。

「僕の小さかった頃を見たいのか?」
「だが不可能だろう」

そんなこと、分かりきったことだ。

「あるよ」
「そうだろうとも・・・は?」

二人は目を見合わせた。

「見られるんだ。見に行くかい?」

もう一度ライはそう言って、ルルーシュを連れ出した。







「ここに?」
「ああ。僕も偶然的に見つけたんだけれど」

連れられた先は、図書館だった。

その、歴史区画へと行き、ライは棚の中から古く分厚い一冊を抜き出した。
どうやらブリタニア王族の歴史的な本のようだ。
その中の少し進んだページに、その絵はあった。

「昔、肖像画を描かせて、完成品を見たから良く覚えている。僕が10くらいの頃のものだよ」

ルルーシュへと向けたそのページに乗っている絵画は、黒髪の、東洋の女性と、その女性に抱かれている黒髪の少女。そして、二人に寄り添う銀髪の少年が描かれていた。
物憂げにこちらを見ているその少年の面影は、間違いなくライだ。
その肖像画の中のライを見て、ルルーシュは、ライがルルーシュの少年時の写真を見た時と同じ感想を喉の奥に滑らせた。

「こんなもの、良く見つけたな」
「ああ。僕もあるとは思っていなかった。時代が時代だから燃やされるかどうにかなっていたと思っていたのに・・・」

まさか資料として見る事になるなんてね、と言ったライは、郷愁と寂しさが綯い交ぜになった顔をしていた。
ルルーシュは、もう一度絵を見た。
ライの隣で座っている女性と少女。少女の方は緊張しているのか、ほんの少し澄ました顔が強張っていて、面立ちが母親と良く似ていた。
そして、ふわりと温かく微笑む女性。
これが、ライの母親と妹。かつてライが命を懸けて守ろうとした家族なのか。

今はもういない、失ってしまった宝物・・・か。

「そういう訳で、僕の幼かった頃は見られるということが分かっただろう?」
「・・・まぁな」

予想外だったが、幼少のライは想像通り愛らしく、見られたことにルルーシュは大変満足している。が。

「それと写真は別だ。第一この本、古い上に専門的で、売っているかどうかも怪しいぞ」
「駄目か・・・?」

どうやらライは本気でルルーシュの子供時代の写真が欲しいらしい。
それには大いに理解できるルルーシュだが、やはり不公平だと思っていた。

「やることはできないが、見るだけならいつでもしていいぞ」
「・・・・」

そう言ったルルーシュに、ライは少し考え込み。

「いや、それはいいよ」

あっさりと、断った。
あっさりしすぎて、逆にルルーシュが驚いた。

「いいのか?」
「ああ。たぶん僕は、何度も何度もお願いすることになるだろうからね。本当にその写真が手に入るまでは見ないようにするよ」
「手に入れるって、どうやって」
「この本を探す。そして君にプレゼントする。君は交換として写真を僕にくれる」

これなら公平だろう?

言って、ライは本を棚に納めた。

まったく、この男は・・・・

「見つからなかったら一生我慢するんだな?」
「そうならないように、頑張るよ。いざとなったらここの館長と戦う」

そこまでして欲しいのか。

まあ、頑張れ。と気のないエールを送りつつ、ルルーシュは内心笑いを堪えることで必死になっていた。





――――――ああ、でも。
ひょっとしたら、譲ってもらえるよう説得している時に、自分もいるのかもしれない。





<了>



ニュータイプRにあったルルの子供のイラストが鼻血拭きそうなほどあんまりにも可愛かったので・・・つい(笑)
ライのちっちゃい頃もきっと可愛いんだろうなあ・・・・ww