煌びやかなイルミネーション。 色とりどりに飾り付けられた町並み。 「なんだか、いつもと違うな・・・・」 見慣れているはずのトウキョウ租界の変化に、ライはポツリと呟いた。 あちらこちらから聞こえてくる歌は似たような歌詞で、並んでいる装飾も全て統一して赤と白と緑が主軸になっている。 一体これはなんなのだろう? 「ライ、何をしている」 ツリーや赤い服を着た白髭の老人の置物などを止まって見ているライへ、前を歩いていたルルーシュが振り返った。 「ルルーシュ、これはなんだい?」 ライは繁華街を彩るものたちに目を飛ばして、ルルーシュに尋ねた。 「何って・・・クリスマスだろう」 「クリスマス?」 何を聞くんだ。と訝しむルルーシュへ、ライは目を瞬かせた。 クリスマス・・・といえば聖誕祭だ。 神の子供、イエス・キリストが生まれた年を祝う日。 本来は教会などで密やかに、しかし盛大に行われるものとしてしかライの記憶にはない。 だが、今のこの街の状況は何だ? やけに派手に装飾されたツリーやリース。 トナカイが引いたそりに乗る、真っ赤な服を着た老人。 キリスト教の象徴である聖人の肖像や十字架などは、あるにはあっても微々たる物だ。 「大違いだ・・・」 ジェネレーションギャップに、ライは少し眩暈を起こした。 「今から買いに行くものも、クリスマス用に会長から頼まれたものだろう」 「そうだったのか?赤い帽子や髭、クラッカーなんてメモに書いてあるから、誰かの誕生日か、思いつきのパーティーか何かだと思っていた」 「まあ、誕生日はあながち外れていないがな」 ルルーシュはそう言って、苦笑した。 煌びやかな通りを歩く人々は、どの人もどこかそわそわしている。 時には満面の笑みを浮かべ、とてもいいことがあったかのように振舞う人もいた。 そんな人々の通りを抜けつつ。一体何がどうなってこうなってしまったのか。とライはつくづく不思議になってしまった。 「ライは、クリスマスにはどういうことをしたんだ?」 「そうだな・・・教会から来た司祭が聖書を読んで、祈りを捧げて・・・・ああ。あの頃はささやかなお菓子を頂けることが楽しみだったな・・・・」 「なら驚くのも無理はないか。 今じゃ世界規模のお祭りだ。各国各地の伝統が混ざりに混ざって、本来の意味を殆ど無視しているからな」 今のクリスマスを語るルルーシュの言葉を、ライは興味深く聞いていた。 時代が変われば人も文化も変わる。その代表のような現象だった。 「そう!クリスマスはねっ、恋人たちの一大イベントなのよ!」 買出しから帰った後、飾り付けを手伝って欲しいと頼んできたシャーリーがそう息巻いた。 完全に本来の目的から脱線したその言葉に、とうとうライも苦笑を漏らしたが、夢見る少女には目に入らなかったようだ。 「特別な日に大切な人といるっていうのがいいの!あ!後ね、こんな言い伝えもあるのよ」 そっと耳打ちされたそれに、へえ・・・とライは呟いた。 その夜、ライは一人で空を見上げた。 飾り付けられたモミの木のイルミネーション。その青い電飾が、白いテラスに反射して雪のように見える。 始めて見るそれは、いつも見る電飾や看板などとはまったく違う印象を受けた。 「ライ。夕飯の仕度ができたぞ」 「ああ」 テラスへ出てきたルルーシュの声を後ろに応えつつも、ライは身じろがなかった。 ルルーシュが隣へ来て、ライを見つめる。それでようやくライは顔を振り向かせた。 ほんの少し肩を抱き寄せて唇を軽く啄ばむ。 短いキスに、ルルーシュは首を傾げた。 「どうした」 「いや。なんとなく」 「なんとなくで誘うような真似をするのか?」 「あまり意味がないことは確かだ」 口元を覆って考え込むライを、ルルーシュは手すりに身体を預けて待ってみた。 しばらくしてライの手はツリーへとのび、一点を差す。 モミの木の枝の分かれ目辺りには、別種の葉が見えていた。 「ヤドリギか」 「シャーリーと飾り付けた時に見つけたんだ」 「それで?」 「その時に聞いたんだが、クリスマスの日にはあの下でキスをすると永遠に結ばれるんだそうだ」 「それで試してみたと?」 尋ねると、ライは首を傾げた。 「そう、なんだろうか」 不思議そうに呟く。 「ただ単に。したかっただけかもしれないな」 今はクリスマスではないし。厳密に言えばここはヤドリギの下ではない。 眉根を寄せるルルーシュを見て、ライはまた首を傾げた。 ルルーシュの機嫌が妙な感じがしたからだ。 「ルルーシュ?」 「誘っているのなら、今日は手加減しなくてもいいわけだな」 「え」 低い声の上に早口で言われて、ライは一瞬聞き取れなかった。 しかし、ルルーシュは満足そうに笑い、さっさと中へ入ろうとしてしまう。 そして 「俺は永遠にお前を手放す気なんてないからな」 そのまま、ライを置いて部屋に入ってしまった。 言われたライはただ言葉が詰まり。 「・・・・・参った」 呟いて、空を仰いだ。 ああ、主よ。 貴方の誕生の日を口実に、愛する人と睦ぐことをお許しください。 了
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