ずっと、満たされないままだった。
何かを忘れている気がした。
大切な何かを。



<Ending story>



トウキョウ政庁の私室で、ルルーシュは1人寛いでいた。
サイドテーブルには一冊の本がある。古く痛みの激しいその本は、ブリタニア皇族の歴史を綴った歴史書だった。
今はもうないブリタニア帝都ペンドラゴンの王宮から持ち出していたたった一冊の本。ブリタニア史上の中で功績を残したもの、葬られたもの。膨大な年月の中のすべてを綴ったその歴史書は、本来は何十巻とある代物だ。そして、ルルーシュが持ってきたその一冊は、まだブリタニア内が戦火を燻らせていた頃の時代のものだった。
発見した時、なんとなく手放せないで持ち歩いていたその本が、あの日ダモクレスによって消されずに良かったと、今では思う。
もう誰もが忘れてしまった彼が確かに生きていたという証が、この本に書かれているのだから。

「ライ」

装丁をなぞり、ルルーシュは呟いた。
愛しく。優しく。そしてもう何度も開き続けて癖になってしまったページを開く。
モノクロのイラストで描かれた、たった1人玉座に座る王の姿。
何も信じず、全てが敵だと睨みつけるその眼差しには、ルルーシュが知っている彼の面影はない。
それでも、ただ愛しいと思えた。もう二度と会えることのない彼と会えたこと。そして、知ることのできなかった彼の過去を、知ることができた。

歴史書の中のライは、生まれから終わりまで糾弾され、尊敬され、畏怖されていた。
「狂った王」「虐殺王」と謳われているライ。
兵が、村人が、農民が、商人が、貴族が、国民すべてが国王の為に敵国へ、戦地へ向かい、大規模な戦争が起こった。
その戦争はブリタニアの領土を広げ功績を作った。が、その後、王は行方知れずとなったと歴史書には書かれている。
しかし、ルルーシュはその王のその後を知っている。
ギアスと言う名の呪いによって犯した罪に耐えられず、眠りに着かされたライ。
その先で、遥か未来で目覚め、ルルーシュたちと出会ったのだ。
そして、結局呪いの力に抗えず、自ら再び眠りについてしまった。

ルルーシュは、その事を忘れてしまっていた。
ライのギアスによって忘れさせられていた。

しかし、今は覚えている。
声も、仕草も、表情も、何もかもを覚えている。
C.C.によって、再びゼロとして立ち上がった時に、ルルーシュはすべてを思い出した。

ともに歩んでいたいと願った、もう1人の友人を。
できることなら傍にいて欲しいと希った想い人を。

『ルルーシュ』

「ライ」

今ならわかる。何故ライは去って行ったのかが。
決して巻き込むまいとした、彼の願いが。
今の自分がそうなのだから。

ここにはもう。自分と共にいてくれるものはいない。

C.C.は去り。
スザクは役目のために消え。
ナナリーとの絆は自らの手で引導を渡した。
世界の全ては、自分を悪意の目で見続けている。

それでいい。世界が生まれ変わるために必要なのだ。
「ゼロレクイエム」のためには。


もうすぐ、自分は死ぬだろう。
地獄へ逝くのか、あり得ないだろうが天へ逝くのか。
それとも、Cの世界に、あの意識の集合体に飲み込まれるのか。

どこでもいい。
けれどそこが。

「お前のいるところなら、いい」


今度こそ、離れない。
嫌がろうと、手を離さない。


「俺は、お前の傍がいい」



ああ、もう少しで。
終わりが始まる。



そしてその時、幸せを手にできるのだ。








R2ラストでのお話でした。
ルルしか出てこないって・・・ひどくね?
最終回からそろそろ半年・・・・やっと心の整理がついたのかな?・・・かな?
意味不明だったらすみません。

この話は2009.3.1にブログに上げたものです。