この一年大切に見守ってくれた人たち。
その一人一人に祝福されて、時には祝いの品を貰って。感謝して。
本当に、どうしてこんなにも今の世界は優しいのだろうかと泣いてしまいたくなるほどに。

けれどその中でただ一人ライに近付こうとしていない人物に、気付いていなかった。

 


<君へ贈る大切なもの 4>

 


誕生日パーティは日暮れと同時に宴も酣となり、解散することになった。
最中から別れ際までの間にそれぞれから貰ったプレゼントを抱えてルルーシュと共に家路に帰る。
するとC.C.が待ち構えており、「これは私からの祝いだ。ありがたく受け取れ」とライの頬へキスを送った。
さすがにこの事態は初めてで、ライは目を瞬いた。
後ろからルルーシュが怒り狂い、C.C.はそれを揶揄って遊び、楽しんだ後で自分の部屋へ去って行った。
もちろん、C.C.の為に持ち帰っていたピザの箱をさり気無く取っていって。

「あの魔女め。人を揶揄うことしかできんのか」
「まあまあ。ルルーシュ落ち着いて・・!」

熱り立つルルーシュを宥めようとして、今度はルルーシュがC.C.と同じ場所を啄ばんできた。
C.C.の時は親愛の情くらいしか感じなかったが、さすがにルルーシュにされては鼓動が跳ね上がる。

「お前も隙を見せるな」

と言われて、無言で頷いた。
嫉妬されていることは分かるが、何も同じことをしなくてもいいと思う。
心臓に悪い。とライは心の中で呟いた。

「ええと・・・それじゃあ、お茶にでもしようか?」
「ああ。いい。俺が淹れてくる。お前はそのプレゼントの山を部屋にでも置いて来い」
「そうだな」

キッチンへと入っていくルルーシュの背中を見送って、ライも自室へプレゼントを置きに行った。
そして人がいなくなった気配を読んで、ルルーシュは忍ばせていた箱を取り出し、溜息を吐いた。

「いつ渡せばいいものか・・・・」

あれだけ人に聞きまわり、済し崩しの様にパーティーを開くまでに至てしまったというのに、結局終わっても渡せずじまいになっていた。
渡すものが物だけに、周りに冷やかされることのないよう機会を狙っていたが、ライの周りに人がいなくなる事がなかったからだ。
決して自分が悪いわけではない。開き直らなかったせいでもない。
だが、このままでいいと思うわけがない。

「ルルーシュ、シャーリーからのプレゼントがケーキだったんだ。早めに片付けてしまおう」
「っ!!」

戻ってきたライに驚き、即座に箱を隠す。
って、なぜ俺は隠しているんだ。

「ルルーシュ?」
「ああ。丁度沸いたところだ。食器を出してくれ」
「うん」

一瞬驚いたルルーシュに気付かない訳ではなかったが、振り向いた顔が既に平静を装っていたので、ライは触れないことにした。
その態度に気付いたのか、ルルーシュは内心でライに感謝する。今つっこまれたらあまりに自分が情けなくなる気がしたからだ。
小さなケーキを二人分取り分けて、二人は黙々とそれを食べた。
ルルーシュの中に気まずいものが流れていたが、自分のせいなのでどうしようもない。

「ルルーシュ、今日はありがとう。とても楽しかったよ」
「ん?」

だからライが口火を切ってくれたのはありがたかった。
が、一体何のことか。まさかプレゼントがばれたという訳ではないだろう。

「今日のパーティーの企画は、ルルーシュなんだろう?」
「は?」
「違うのか?ミレイさんからそう聞いたんだが」

呆けるルルーシュに、ライは小首を傾げた。
とても意味深な笑みを浮かべて言ったミレイは、嘘は言っているように思えなかったのだが。
ルルーシュはルルーシュでミレイの意図が分かって顔を覆った。
おそらくルルーシュが渡すきっかけを作ってくれたのだろうが。これではさらに情けなさが倍増するというものだ。
だが、確かに今日中に渡すなら今が一番いいきっかけなのだろう。

「あれは、俺の企画じゃない。会長たちが便乗した結果だ」
「便乗?」
「ああ。本当は、俺とナナリーだけで祝うはずだったんだが」

言って、ルルーシュは意を決して箱をテーブルの中央に置いた。

「これが俺からのプレゼントだ」

 

一瞬、間が空いた。

 

「ライ?」

無表情で固まっているライに、完全に外したか。と内心焦りつつ声をかける。
ライはすぐに我に返って、「すまない」と手を振った。

「ちょっと驚いてしまって」
「それはどういう意味だ?」

自分が人に贈り物をしないという意味か、そんなことをする人間に思えないということか。とさすがに腹が立つ。
その気配に気付いたのかライは慌てた首を振った。

「とても嬉しいよ。でも、僕はなんだかルルーシュに与えられてばかりだから、さらに与えられることに驚いてしまって」
「俺は今までお前に何かを送ったことはなかったと思うが」
「君が気付いていないだけで、僕は色々なものを貰ったんだよ」

ライの言葉に、それはこちらの台詞だろうと思う。
ライがいなければ、今の自分はどうなっていたことか。

「ライ、左手を出せ」

ライへ送る小箱を開けて、ルルーシュは良く分からないまま差し出したライの手を取った。
そして指へ指輪をはめ込んだ。

「ルルーシュ、これは・・・」
「ハッピィバースデイ。ライ」

はにかむルルーシュを見て、自分へのプレゼントがなんだったのかライはようやく分かった。
シンプルなシルバーの指輪だ。パッと見でなくてもマリッジリングのような。
確かにこれは、渡しづらい。

「結構、乙女思考だったんだな。君は」
「うるさいっ、他に考え付かなかったんだ」

ある意味感慨深く言ったライに、ルルーシュは口を尖らせた。ライが冷静すぎるせいで、自分の方が照れてしまう。
それでもこの指輪に込めた『想い』は、確かにライに伝わっていた。

「ありがとう。ルルーシュ」

目の前の誰よりも愛しい人へ、最大の感謝を込めてライは微笑んだ。

「じゃあ今度は僕がルルーシュの誕生日に指輪を送らなきゃね」
「お前も十分乙女思考だな・・・」

 


―――――これからも、その先も、ずっと傍にいよう。

 

 

<終>