ふらりと船から抜け出して、夜の街を散歩する。 潮の香りが混ざる夜風が、空の雲を晴らし、ぽっかりと浮かぶ月が顔を出す。 …いい月だ こう言う夜は、散歩がしたくなるものだよな… 顔を出した月を仰ぎ見て、視線を元に戻すと景色が変わっていた。 ………。 思わずもう一度、空を、月を見上げた。 そこには変わらない、ぽっかりと浮かぶ月。 ただ、周りの壁が高く…最近見ることのなかったビルが空を狭めていた。 「…さて、どうしたものか……」 ポツリと呟いたあと、一先ず散歩の続きでもするかと、薄暗い道に足を進めた。 消えかけた看板や、欠けた番地などを見る限り、言語は、多分英語。 最低限英語圏のところだと推測は出来る。 英語か…ま、なんとか話せるか? 首を傾げ、流れ弾と思しき弾を避ける。 ≪念≫は相変わらず使えるが、使えるからといって避けてはいけないなんてルールはない。 話せそうな相手がいたら、『ここ』がどこかぐらい聞いてみるか。 …他に人もいなさそうだしな 久々に聞く乾いた発砲音と機関銃の煩い音に肩を竦めて、音の発生源に足を踏み入れた。 『×××□!×△△っ!CR:5×○○○□△っ!』 特に≪絶≫をせずに入ると、殺気立っている機関銃を持った男こちらに照準を向けてくる。 英語圏だと思っていたが…こりゃ英語じゃないな… 唯一わかるとすれば、シーアール…CR:5?…のところぐらいだ。 何かの固有名詞か? …少なくとも状況を考えれば、『CR:5』の何かかと聞いているような感じだよな。 今のところ『ここ』に関わりあるものはない。 従って、答えは『NO』だ。 『×××××!!!』 それを伝える前に、機関銃を持った男が沈黙していた俺に痺れを切らせ、トリガーに掛かった指に力を入れ…る寸前、今まで物陰に隠れていた奴がその物陰を作っていた物を持ち上げて投げる。 「うりゃぁぁぁあっ!」 「ぐへっ!」 叫び声は…万国共通だな… なんとも奇妙な音を立てて、機関銃を持った男が壊れた窓をさらに壊して、投げられた物と一緒に外に投げ出される。 ……よく、あれを『一般人』が持ち上げたな… 目の前を通過した物から視線を投げた方に向ける。 投げたものとの割合を考えると、小さい方だろう。 それに全体の印象が細い。 普通だったら到底、あれを持ち上げられるとは考えられない姿だが、投げたのは事実だから、そうなのだろう。 短めの前髪に対して、後ろ髪は長く、一本にひょろりと結んでいる。 顔のは…東洋系…日本人っぽい気もするが…… 『ば、化け物っ!』 他の言語かと思っていたが、英語も使うらしいな… …………。 すっかり忘れていたが、もう数人、普通の拳銃を持った奴らがいたんだっけな。 『ひぃっ!!あぁっ!!』 恐慌状態に陥ったのか、意味を成さない言葉を口にして発砲する。 あれを投げた奴はさっと物陰に隠れると、次に壊れた鉄骨…錆びて折れたのか、比較的短い鉄骨を持ち上げて、再び投げてくる。 とはいっても、さっきのモノと比べると重いのか、俺の後ろにいるところまで届かず、丁度俺に命中するコース。 さて、避けることは出来るが、結局は後ろにいる奴らまでには届かないからな…投げ損…になるのは勿体無いか。 折角、重い鉄骨を投げたんだしな…それに、『この状況』を見過ごすほど廃れちゃいない。 敢えて避けずに鉄骨を片手で受け止めて、後ろ…俺にとっては横になるのか?微妙な位置だが気にすることじゃないか。 ぽかんと口を空けている銃を持つ奴らに軽く放り投げる。 鈍い低い音が響き、軽く廃ビルを揺らした。 ふむ。 全員綺麗に下敷きになったことだし、これでいいだろ。 投げた奴に向き直ると、銃を持った奴らと同じようにぽかんと口を開けている。 …同じことをやっただけなんだがな…何か、まずかったか? 『……マジ?』 聞こえたのは、英語だ。 なんとか意思疎通は出来そうだな。 「…『そんなに驚くことないだろ?』」 『え、いや、だってっ!』 激しく動揺しているのか、ぶつぶつと何かを呟いている。 その内容は流石に聞き取れない。 文法がなっていない言葉の羅列や知らない言語などが混ざっているせいだ。 『…ほら、落ち着け…』 動揺しきっている頭を近づいて、ぽんぽんを軽く叩く。 それでやっと、俺がいることに思い出したらしい。 水色の瞳を大きく開いて、俺を見上げる。 『俺は、クシキ。…名前、聞いてもいいか?』 『…、あ、ん………』 「か。…少し聞きたい事あるんだが、いいか?』 そのあと何とか、現状把握には至った。 「あの時はマジに驚いた」 「…そう、真面目な顔して言うことでもないだろ?」 あの後すぐにの仲間であるCR:5というマフィアが駆けつけ、色々誤解等が発生する前にが「助けてくれた」と進言してくれたお陰で、争うこともなく丸く収まった。 さり気無くマフィアのお誘いもあったが、丁重に断ってある。流石に海賊家業のほかにマフィア家業をやれるほど器用ではない。それにいつ戻るかも知れないからな…… 住む場所などは助けくれたお礼だといって、CR:5が用意してくれ、ありがたく使わせてもらっている。 ま、眼鏡の様子から見ると、監視というのも一つ在るんだろうけどな… 今では、時より…結構と言うべきかな?や幹部の連中と会ったりしている。 「ホントなんだって!!クシキ! …あ、そういえばさ…なんで、あの時…助けてくれたんだ?」 「機関銃と拳銃相手に孤軍奮闘している『女の子』を助けないわけないだろ?」 「………………」 すっかり見慣れてしまった口をパクパクしているに喉を震わす。 「っくっく…は女の子扱いされるのが苦手だな」 ま、女の子が頑張って重い鉄骨を投げたのを投げ損にするのは勿体無いとも思ったのもあるんだけどな。 < Fierce dog who does not treat.(猛犬扱いしない人)> |