それは、いつものようにGDの馬鹿どもが仕掛けてきた日の事。 奴らには昼も夜も関係ないのか、それともたまたま出くわしたせいか。 こっちはそろそろ夕飯時だというのにバカスカとタマ撃ってきやがった。 しかも機関銃まで持ってきやがって。ご近所の皆様に迷惑だろうがバカモン。 あんまり時間をかけると被害が大きくなる。 とりあえずその辺の廃倉庫に入り、身の丈半分くらいの大きさの箱の後ろで身を縮めてどうしてやろうかと考えていると、ふと、変な気配が現れた。 外へ通じる入口辺りを探り見る。 いつの間にそこにいたのか。自分とGDの間に人が立っていた。 銀色の髪を後ろに束ねた、ルキーノと同じような場所に傷がある、男。 年の頃はワカンネーけど、前髪を気にしているベルナルドよりは上そうだった。 男がただそこにいるだけなのに、威圧ではないが、妙な気配が自分のもとに届く。 男が首を傾げた。 その直後に男の背後で何かが壊れた音がする。流れ弾が男を襲ったらしい。 偶然かどうかわからないが、まるで避けたような仕草に見えた。 いや。そんなまさか、な。 「なんだテメエは!唐突に出てきやがって。テメエもCR:5か!?」 機関銃を構えた馬鹿が銀髪の男に向かって怒鳴る。 男はこちらに近づき、馬鹿の怒鳴り散らした声を聞くと、歩みを止めた。 普通の奴なら怯えて、とかあるだろうが、そいつはまるで落し物をしたことに気付いたような、軽く困った顔をしただけだった。 肝が据わってんのか、それとも状況把握ができてないのか・・・ なんにせよ、あの反応は一般人じゃないだろう。 ―――ん? これはチャンスじゃないか?今ならあのオッサンに目が集中してるし。 機関銃が向いても平気そうなカベ兼投げるものは・・・おお。目の前にあるじゃねーか。 「なんでもいいさ。テメエもブチ殺されろ!!!」 気が短いチンピラは、機関銃を構えて男に向ける。 それと同時に目の前の箱を掲げ、男に向かって放り投げた。 「うりゃあああああ!!」 「ぐへっ!!」 チンピラが機関銃と箱ごと建物の外に放り出される。 へっザマァ! せいせいした気分で次の弾を探す。 と、男が少しだけ目を丸めてこちらを見ていた。 なんだろう。背中がざわつく。 「ばっ化け物!」 拳銃を持った馬鹿どもが慄き、及び腰になる。 そしてお決まりに悲鳴を上げて銃口をこっちに向けてきた。 そんなことは構わずに、そこらの鉄骨を持ちあげる。 ざわざわする背中に、本能に忠実に―――――――銀髪の男に向かって投げた。 一般人? 敵?味方? そんなのは、どうでもいい。 警報が胸の内で響いているだけで十分だった。 男が鉄骨に潰されるのを想像したその時、男の片手が上に上がる。 そして、信じられないことに―――――――― 男は鉄骨を受け止めた。 ――――――――――――は? 自分の中の時が止まるとは、まさにこのことかもしれない。 いまだかつて一度も見たことのない光景に、真実目を疑った。 男は抱えた鉄骨を残っていたチンピラに向かって投げつける。 そして、まるで笑い話のように綺麗に、残りのチンピラ全員が鉄骨の下敷きになった。 アリエナイ光景だった。 今まで、避けて退けた奴は見たことはあっても、正面から受け止めて、しかも片手で、なんて・・・・見たことがない。 いや、自分ならひょっとしたらできるかもしれないが。 自分以外にあれを投げることができる人間を見たことがないため証明できない。 そう。自分のような人間は、異常なのだ。 100人に1人の割合で生まれるわけがないイキモノなのだ。 「・・・・・・マジ?」 振り返り、自分を見る男の顔があまりにも普通すぎて、何の悪ふざけかと思った。 その男は「クシキ」と名乗った。 国籍不明、住所不明、職業不明。 完全に不審人物だ。 真実、中も外も。 今ならあの時に襲った感覚もよくわかる。 クシキには不思議な力がある。 それは、誰もかなうことがない。自分やジュリオですら本気で、殺す気でかかっても子供のように扱われるであろう、絶対的な力だ。 それが向けられれば、逃げることはきっとできない。 ただ一つの選択肢を迫られる、そういう代物。 自分の勘に関しては、かなりの自信がある。 今までの死ぬような事は大体それで回避していた。 自分より上位に立つ存在との対峙は、等しく自分の死につながる。 だからこそ、存在を消す為に攻撃したのだ。 「でも、すっげえヤッサしいんだよな・・・・・クシキ」 自分以上に得体のしれないクシキ。 成り行きとはいえ、一応自分を助けてくれた恩を返す為、クシキにはそれなりの対応をした。 今はCR:5の息がかかってるアパートの一つを貸して、そこに住まわせている。 クシキは不満も何もなく、そこで日常を過ごしていた。 本当に、不平不満なく。 ちょっとこっちが申し訳なく思うくらいに。 こっちは殺そうとした側だというのに、クシキは実に紳士的な態度でいる。 自分との友好も、ジャンたちとのときも、怪しいところが何一つない。 普通の、平穏な人間だった。 変な力があるということ以外は。 クシキの人となりを知ってからは、申し訳なさで色々世話を焼いた。 クシキはそんな自分を普通に、気持ちが悪いほど自分を、普通の人のように接してくれた。 今までそんな人間に会ったことがない自分には、その行動は気持ち悪かったけど、でも・・・悪い気はしなかった。 クシキはいい奴だ。 ジャンじゃないけど、何か、とても頼りになるような、そんな懐の広さがある。 心も、体も。全力でぶつかっても、絶対に壊れない。 それは自分にとって本当に貴重な存在だった。 だから、だんだん。 その温かさに惹かれて、クシキの所に遊びに行くことが多くなった。 あの時の自分を殴りたい。 こんなにすげえ奴なんだって、伝えてやりたい。 普通にしてくれる奇跡があるんだって、教えてやりたい。 「っくっく・・・・は女の子扱いされるのが苦手だな」 笑うクシキに、ムゥと口をへの字にして拗ねる。 クシキには最初から女だとばれていた。 この怪力を目の当たりにして、男と勘違いされることの多い自分に、だ。 ムネも・・・・ないし・・・・ ・・・・・・・化け物扱いされるし。 でも、クシキは違う。 今まで、マンマにしかされたことのない扱いを、マンマすらしてくれなかった扱いを、してくれる。 護ってくれる。 女のコ扱い、する。 それがくすぐったい。 背中がむずむずしてしまう。 「今までされたことねぇもん・・・」 顔がホテってるのがわかる。 うつむく自分の頭に、大きな手が乗せられて、優しく撫でられた。 その感覚が嬉しくて、つい顔がほころんでしまう。 「仲間にはあるだろう?」 「えー・・・んー・・・まあ、何人か?・・・・トキドキ?」 首を傾げて言うと、クシキはやや遠い目をして苦笑した。 む。なんだその目は。 いいんだよ。別に、女扱いしてほしいわけじゃねーもん。 それにみんなクシキみたいな感じになったら、体の痒さが気持ち悪くなってしまう。 うん。クシキは1人でいい。 「な!またジャポーネのこと色々教えてくれよ!」 「ああ。いいぞ」 やった!と、クシキの首に抱きつく。 感謝のシルシに頬にキスをすると、慣れてないクシキはまた苦笑した。 ジャポネーゼはオクテっていうらしいからな。こういうのはしないらしい。 ま、この国の親愛の情なんだから、ありがたく受け取れよ。クシキ。 ――――クシキが、クシキがずっといてくれたらって、思う。 ずーっと傍にいてくれて、こうやって、あったかく迎えてくれたら。 でも、無理、なんだろう? いつか、クシキはいなくなる。 そう遠くない日に、帰るべき場所に帰ってしまう。 まるで幻みたいに。 自分の望みを、神様は一度も叶えてくれなかったから。 これは勘じゃなくて、―――――確信。 だから、さ。 いるまでは、たくさん甘えてもいいんだよな・・・? < It becomes a person―――人の子でいさせてくれる場所――― > |