生まれる前に、神様は選択を求めた 何物にも負けない強い力を求めるか 愛される幸福を求めるか そして、もう一つ 苦難を乗り越え、どちらも手に入れるか―――――と 1 uno あつい。 あつい。 ああ、あつい。 毛穴から吹き出して流れる汗が。それを吸い取って重く張り付く服が邪魔くさい。 引きちぎって不愉快から解放されたいが、ここは往来だ。常識が邪魔をする。 ここはどこだと首を巡らすと、デイバンと書かれた看板があった。 そうか。目的地についたのか。 そう思ったら、視界が遮断された。 体が浮く。そして重い。手足がうっとうしい。 頭が痛い。くらくらする。 ああ、まさか。自分が体調の問題で倒れることがあろうとは。 予想外の事態だが頭は冷静だった。建物の影を求め、熱い鉄板の上でなんとか助かろうと芋虫のように這う。 腹に当たる熱が辛い。晒された腕が上からの熱光線と下からの焼きで嘆いている。 ああ、そういえば・・・ 「腹へったなあ・・・」 それが最後の言葉で。 ピカピカ眩しい光も、とうとうブラックアウトした。 *** 正直、なんとなくだった。 机の上で紙束達と愛を語らうのも飽きて、逃げ出した先もなんとなくだった。 なんとなくホットドッグを買って、ついでにと勧められたコーラを買った。 そして、行き倒れを助けたのも、なんとなくだ。 ぼろぼろの服を着て、倒れてる細っこい体。 この辺のガキかと思ってひっくり返すと、気を失っているようだった。 「おーい、ダイジョブか?しっかりしろー」 と揺すると、ぱちりと目を開ける。 真っ黒クロの頭のそいつの目が、このクソ熱い太陽の下で見ても冷え冷えとしたアイスブルーだったのには目を惹いたけど。 それ以上でもなかった。 「たべ、も、の・・・」 呻くそいつが俺の齧りかけのホットドッグを見つめている。 食うのか?と口元に持っていくと、手ごと食われる勢いで食いついてきた。 なんか野良犬相手してるみてえ。 「・・・・まずい」 もごもごと胃の中にホットドッグを収めたそいつは、ぽつりとそう呟いた。 あーまあ、俺もね。そう思ったけどネ。 こんな弱ってても言うとは。贅沢な人ネ。 くっくと笑うと、ようやくそいつは視線を俺へ向けた。 真上からのぞいている俺を不思議そうに見上げている。オヤ?少し可愛いかんじ。 「ついでだからこれもやるよ。早く家に帰んな」 汗でべったりのぬるいコーラを頭の横に置いて、俺は手を振りその場を去った。 「ぁ・・・」 そいつがなんか言った気がするけど、俺の耳には届かなかった。 *** ありがとうと言ったのは、聞こえただろうか。 キラキラした、奴だったなぁ・・・ 起き上がって地べたに座り、気が抜けてぬるくなったコーラを飲んで、思った。 倒れていた自分をのぞきこんできた兄ちゃんに感謝し、そんな優しい人間を連れてきた神様に感謝する。 氷で薄くなったそれはとてもまずい。でも飲めない訳じゃないし身体は水分を欲しがっていたからとにかくすすった。 最後の一滴まで飲みつくした。 キラキラの金髪。 それがとても印象的だった。 逆光だったから。 それもあるけど、もっと違うものがキラキラしているような気がした。 今度会ったら、お礼できるだろうか。 自分にできることなんて、一つしかないけれど。 とりあえず、休も。 思って、日陰へ避難した。 (こうして二人は出会った) |