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一番の難題だったらしい顧問の承諾は、「お前の好きなようにしてみるといい」というアレッサンドロのおっさんの言葉で受理された。

これで晴れて自分はジャンの部下になったってことだよな。

顧問のおっさんと爺さんがいなくなって、その場は解散という形になった。
幹部の男4人はなんだかものすごく納得がいってなかったり、不満そうな顔してたり、殺しに来そうな顔だったりしてたが、何も言わずに去って行った。

残された自分とジャンは、ジャンの執務室へ向かい、今日の仕事をこなすことになった。

・・と言っても、今の自分に仕事なんてないから、ジャンに付き合ってるだけだ。

部屋の中のデスクに座って、ジャンは嫌そうに積み重なった紙を眺め、サインしていく。
自分は手持ち無沙汰にデスクの前のソファーに座って、ジャンを眺めたり、部屋を眺めたりした。

来客なんかもここに来る時があるのか、3人がけくらいのソファーが自分の座っているのと対面してもう一つある。
その間には背の低い長机。床に敷かれた絨毯がすごく柔らかい。
ジャンの後ろにある壁には窓が二つあって、そこから日が差し込んでいた。・・・ここは南側か。
それから壁側にはこれまた高そうな棚と電話。続きの扉があったからあの先は何かと聞いたら、給湯室と仮眠室が続きになっている、と教えてくれた。

さすがボスの部屋だなあ・・・なんでもそろってるのか。
ヤクザって、金持ちなんだな・・・・

「ところでジャンたちの仕事って、どういうのなんだ?」

ふと、一体どうやって稼いでいるのか気になって、質問してみた。

「ん?そーだな・・・まぁいわゆる非合法な護衛っつーか、兵隊、みたいなもんかな。実際はそんな生易しいもんでもねーけど。
後は土地転がし、株、合法・非合法の店の運営、って感じか」

簡単に説明してくれた内容に、少し心が沸き立つ。

「へー・・・戦ったりもするんだよなっ」
「まあ厄介事の始末とか、抗争とか、裏切り者の始末とか・・・なんか、目がキラキラしてね?」
「え!」

それが表情に出ていたのか、タルそうにしてた表情が変わって指摘してきたジャンに、何だが気恥ずかしくなって両頬を挟み込んだ。

「オ、オレずっと憧れてたから。ヒーローとかさ!」

昔から、寝物語に聞かされる話で大好きだったのは英雄の話だった。お姫様を助ける勇者や王子に憧れた。
いつかは自分がそういう存在になりたいなって、毎日鍛えた時もあったっけ。それで、この怪力を使いこなせるようになって、自分にふさわしい職に就きたいって思って。

「ホントは自警団で働きたかったけど、門前払いくらった」


でも、だめだった。


「へ?またなんで」

本当に不思議そうに聞いてくるジャン。

「・・・オレ」

その理由を言おうとして。

「失礼するよ。書類ははかどっているかな?ジャン」

タイミングいいのか悪いのか、ベルナルドがノックして入ってきた。

「ハイダーリン・・・まあ、ぼちぼち?」
「なるほど?我らがカポはこの程度の仕事では不満だということかな。そんなハニーに素敵なプレゼントだ」
「うげ・・・」

さらに追加された書類に、本気で嫌そうに舌を出すジャン。それでも書類は減らないから、ジャンはその紙束に手を伸ばした。

「それと、彼を借りたいんだが」
「オレ?」

自分も書類手伝えればいいのにと眺めていると、ベルナルドがこちらを向いた。

をどうするって?」
「ジュリオの仕事に同行させる」
「は?」

ジュリオって・・・あの恐ろしく怖い優男だよな。
そいつの仕事の同行って、なんでだ?自分はジャンの部下になったのではなかったか?

「なに。単なる肝試しさ。今後襲撃にあった時、竦んでお前を守れなかったら困るからね」
「オレは臆病じゃねーよ!」

ジャンを見たまま冷やかしてきたベルナルドに腹が立って、立ち上がって唸る。
ベルナルドは嫌そうに振り向き、こっちへ見下す視線を送ってきた。
さっきまでジャンに向けてた穏やかな顔とはえらい違いだな。そんなに自分が信用できないのかと、理不尽にイライラする。

受けて立とうじゃねーかっ、そのテスト!

ケンカを売る時の気分でベルナルドを睨み、しばらく自分達の間で見えない火花が散った気がした。

「あ、俺もー」
「お前は駄目だ」

その状態を知ってか知らずか、ジャンがノンキに手を上げ、ベルナルドに速攻で却下された。
唇を尖らせて「・・・ケチ」と拗ねるジャンに、一瞬ベルナルドが狼狽えた気がした。







(かお、赤いぞ?)



知らない人への補足説明:ハニー、ダーリン呼びはデフォですよ。関係的にはベル→ジャン
そしてジュリ→ジャン
2010.6.3