10 dieci 一番の難題だったらしい顧問の承諾は、「お前の好きなようにしてみるといい」というアレッサンドロのおっさんの言葉で受理された。 これで晴れて自分はジャンの部下になったってことだよな。 顧問のおっさんと爺さんがいなくなって、その場は解散という形になった。 幹部の男4人はなんだかものすごく納得がいってなかったり、不満そうな顔してたり、殺しに来そうな顔だったりしてたが、何も言わずに去って行った。 残された自分とジャンは、ジャンの執務室へ向かい、今日の仕事をこなすことになった。 ・・と言っても、今の自分に仕事なんてないから、ジャンに付き合ってるだけだ。 部屋の中のデスクに座って、ジャンは嫌そうに積み重なった紙を眺め、サインしていく。 自分は手持ち無沙汰にデスクの前のソファーに座って、ジャンを眺めたり、部屋を眺めたりした。 来客なんかもここに来る時があるのか、3人がけくらいのソファーが自分の座っているのと対面してもう一つある。 その間には背の低い長机。床に敷かれた絨毯がすごく柔らかい。 ジャンの後ろにある壁には窓が二つあって、そこから日が差し込んでいた。・・・ここは南側か。 それから壁側にはこれまた高そうな棚と電話。続きの扉があったからあの先は何かと聞いたら、給湯室と仮眠室が続きになっている、と教えてくれた。 さすがボスの部屋だなあ・・・なんでもそろってるのか。 ヤクザって、金持ちなんだな・・・・ 「ところでジャンたちの仕事って、どういうのなんだ?」 ふと、一体どうやって稼いでいるのか気になって、質問してみた。 「ん?そーだな・・・まぁいわゆる非合法な護衛っつーか、兵隊、みたいなもんかな。実際はそんな生易しいもんでもねーけど。 後は土地転がし、株、合法・非合法の店の運営、って感じか」 簡単に説明してくれた内容に、少し心が沸き立つ。 「へー・・・戦ったりもするんだよなっ」 「まあ厄介事の始末とか、抗争とか、裏切り者の始末とか・・・なんか、目がキラキラしてね?」 「え!」 それが表情に出ていたのか、タルそうにしてた表情が変わって指摘してきたジャンに、何だが気恥ずかしくなって両頬を挟み込んだ。 「オ、オレずっと憧れてたから。ヒーローとかさ!」 昔から、寝物語に聞かされる話で大好きだったのは英雄の話だった。お姫様を助ける勇者や王子に憧れた。 いつかは自分がそういう存在になりたいなって、毎日鍛えた時もあったっけ。それで、この怪力を使いこなせるようになって、自分にふさわしい職に就きたいって思って。 「ホントは自警団で働きたかったけど、門前払いくらった」 でも、だめだった。 「へ?またなんで」 本当に不思議そうに聞いてくるジャン。 「・・・オレ」 その理由を言おうとして。 「失礼するよ。書類ははかどっているかな?ジャン」 タイミングいいのか悪いのか、ベルナルドがノックして入ってきた。 「ハイダーリン・・・まあ、ぼちぼち?」 「なるほど?我らがカポはこの程度の仕事では不満だということかな。そんなハニーに素敵なプレゼントだ」 「うげ・・・」 さらに追加された書類に、本気で嫌そうに舌を出すジャン。それでも書類は減らないから、ジャンはその紙束に手を伸ばした。 「それと、彼を借りたいんだが」 「オレ?」 自分も書類手伝えればいいのにと眺めていると、ベルナルドがこちらを向いた。 「をどうするって?」 「ジュリオの仕事に同行させる」 「は?」 ジュリオって・・・あの恐ろしく怖い優男だよな。 そいつの仕事の同行って、なんでだ?自分はジャンの部下になったのではなかったか? 「なに。単なる肝試しさ。今後襲撃にあった時、竦んでお前を守れなかったら困るからね」 「オレは臆病じゃねーよ!」 ジャンを見たまま冷やかしてきたベルナルドに腹が立って、立ち上がって唸る。 ベルナルドは嫌そうに振り向き、こっちへ見下す視線を送ってきた。 さっきまでジャンに向けてた穏やかな顔とはえらい違いだな。そんなに自分が信用できないのかと、理不尽にイライラする。 受けて立とうじゃねーかっ、そのテスト! ケンカを売る時の気分でベルナルドを睨み、しばらく自分達の間で見えない火花が散った気がした。 「あ、俺もー」 「お前は駄目だ」 その状態を知ってか知らずか、ジャンがノンキに手を上げ、ベルナルドに速攻で却下された。 唇を尖らせて「・・・ケチ」と拗ねるジャンに、一瞬ベルナルドが狼狽えた気がした。 (かお、赤いぞ?) |