17 diciassette





正直、どうでもよかった。
他の奴らが騒ぐように、そいつが危険因子になると思わなかったといえば、もちろん嘘だ。
俺は誰も信用しねえし、頼るのはよく知った奴らばかりだ。あいつらとだって、やっとここ最近無条件で信頼できる様になった。
だから不信感があった所で、常日頃の俺からしてみれば当たり前のことだった。
だからこそ、興味がなかった。

ジャンが連れてきた、ジャンが選んだというそいつ。
おそらくこいつはジャンの役に立つだろう。
ジャンの後ろにいる幸運の女神とやらは、ジャンのことに関してはドロドロに甘い。
だからジャンの選んだそいつはまさしく、幸運の女神が選んだものだ。
あいつらが懸念するように、がジャンにとっての不安材料になるとは思えない。
勝手にすればいい。
そもそもあいつは仮にも俺たちのボスなんだ。不穏分子の一人や二人抱えて潰れるくらいでは、この先CR:5はやっていけないだろうが。

それなのにあいつらは―――特にベルナルドとジュリオ――過保護にも程がある。
・・・・それにつきあう俺も、馬鹿の一人か。
いくら信用させるためとはいえ、幹部に連れられてあいさつ回りなんぞ、前代未聞だ。
そこまでする必要はねえ。

ジャンが何考えてるか知らねえが―――何も考えてねえかもな―――俺を巻きこむなってんだ。
下っ端は下っ端らしく、小間使いでもさせる。邪魔になるなら別のとこに置いとく。
そういう扱いで十分。それ以上は必要ねえ。




再度乗った車内で、が作ったというメシを食う。
確かにうめえんだろうが、俺にとっちゃかなりの薄味だった。マスタードでもぶっかけてえくらいだ。
1個じゃ物足りないそれはあっという間になくなって、包んでいた紙を丸めて備え付けのごみ箱に入れる。

まさか屋台の店主と漫才をやりだすとは思いもしなかった。
あの瞬間から俺のこいつの認識はアホだ。
アホ以外にない。何も考えてねえ典型的なガキだ。



まあ、暴れるだけが能じゃないようだがな。



その後の見回りも、特に何の問題もなく片付いた。

見回りのさなかにあった小競り合いを試しに収めさせたら、あっさりと何人か昏倒させて、リーダー格にやめるように説得していた。
その鮮やかさに圧倒されたのか、小競り合いはすぐさま終わり、なぜこうなったかの不平不満を漏らす。
その後は俺の仕事だ。俺が前に出ると、はすぐに引き、俺を前に出す。
手なれたもんだ。と思う。こういう事態には何度も遭遇したことがあるのか?

「おい」

カタが付いて、に声をかける。なんでかけられたのかわからないと首を傾げては振り返った。
俺は首だけでついてくるように促して、人気のない場所にを連れて行った。

「いい始末のつけ方だったな。話に聞く限りじゃ、ぶっ潰して終わらせると思ってたんだが」
「・・・別に、あんなのトサカにこない限りはやんねーよ」

朝の勢いはどこへ行ったのか。はなぜかふてくされたように吐いた。

「大体、あんなんドー考えてもオレのテストじゃねーか」

なるほど。そこにも気が付いてやがったか。

それにしてもこの消沈っぷりはなんだ?元気のいいアホの部分とギャップがでかすぎる。

「・・・・・・・・・結局オレ、誰にも信用されねえんだな」

「情けね」とは溜息をこぼした。
意気消沈している理由はそれか、と納得するが、こいつの思考回路はよくわからない。
なんでそんなことで悩んでんだ。こいつは。

「んなもん、テメーで勝ち取るもんだろうが」

人間は誰にでも警戒心がある。誰だって初対面の人間にやさしくできるほど、この世の中はお人好しではない。
確かにそういう人間もいるが、それだって一人握りの人間で、そいつらにだって打算や目論見がないとは限らない。
そういうのが世の中って奴だ。

「なにもしねーで得られるほど、安いチャチなもんでなんとかなる訳ねーだろ。
 見返してやりてぇならキリキリ働くしかねーんだよ。特にお前みてえな下っぱはな」

言いきって、何を自分らしくないことをしてるんだ舌打ちした。
からの視線がビシビシあるから睨みつければ、は目を丸くさせてポカンとアホ面をさらしていた。

「お前、――――案外いい奴だな」
「ハァア!?ってめ、この、ファック!何言ってやがるっ」

ポカンとしたまま放たれた、ふざけた感想を俺は罵倒した。
確かに自分でもらしくないことを言ったが、よりによって「いい奴」だと!?このイヴァン様がっ!
さっきの表情から一変、にやにや笑うそいつが腹立たしい。

ファック!ファーーーッック!!!あんなこと言うんじゃなかった!クソッ!


「それとなぁ!二度と俺をお前呼びするなよ。ほっぽりだすぞ!!」
「わかった。イヴァン」
「フィオーレ幹部だ!ちったぁ考えて言葉を吐けっ、この野生動物が!」


あああムカつく!ムカつく!!
しかもこのいじり方!なんかあいつに似てねーか!?ド畜生!シット!ファーック!

イライラしてそこらの転がった石ころを蹴りあげる。
はさらに笑顔になって、ケラケラと声をたてた。

「オレ、あんたのこと好きかも」
「嬉しくねえんだよ!ヴォケッ!!」

お前に好かれたところで俺には一文の得にもなりゃしねーんだよ!

しおらしさから一転してまたアホに戻ったこいつの頭に、脳天をくらわせた。




(なんっでこんな奴に振り回されそうになってんだ!)



頭殴るの好きだなー・・・イヴァン。
2010.9.30