18 diciotto イヴァンとの一日も終わり、イヴァンとはジャンの執務室で別れた。 「二度と子守は御免だからな!」と捨て台詞を吐いて去っていったイヴァンはかなりイラついていたようだ。 意味がわからない。 なんで怒ってるのかと聞いてきたジャンに、今日の報告をかねた説明をしたあと、ジャンは呆れたように頬杖を突いた。 「で、イヴァン君はプリプリ怒ってたと」 主に騒ぎを招いていたのは自分だが、よく延々怒ってられるよな。 「あいつ短気なんだなー。すぐ手ぇ出すし」 今日だけで何回殴られただろうか。 ・・・・・・・・・って、短気に関しては自分もどっこいか。なんかここに入ってから気分が穏やかだから忘れそうになんなぁ。 今んところ部屋崩壊させてないし。 昔は常にボロボロだった自分の部屋を思い出す。 自分が荒らしたものもたくさんあったが、不法侵入者が荒らし回っていた事のほうが多かった気がする。 そうか。あれは自分だけのせいじゃなかったのか。新発見だ。 「トコロデ・・・・・・見たか?七変化」 「? 七変化?」 身を乗り出して聞いてきたジャンに、一体何の事かと首を傾げる。 それにジャンはものすごい残念そうに顔を歪めて、そして盛大に溜息を吐いた。 「なんだよぅ・・・・見てないのケ」 「なんだよそれ」 イヴァンとは、結局店の時とかは外で見張りをさせられて、どういうことをやっているのかまでは見ていない。 だからあいつがどういう手腕の持ち主なのかは、いまいちわかっていないのだが・・・・ ひょっとしてそれに関係しているんだろうか。 「イヴァンちゃんの面白要素そのイチ。―――――あー・・・もったいねーなあ」 面白いネタで盛り上がりたかったんだろう。ジャンは一番いいおもちゃで遊べなくなって、実に残念そうだった。 そんなに面白いのか。 そう思うとものすごく見たくなってくる。 七変化っていうくらいなら、あいつの姿があれだけではないということか。 一体どんな姿があるのやら・・・・ 「ジャン、いるか?――――・・・・」 丁度よく話の切れ目に入ってきたのは、赤毛大男のルキーノだった。 ルキーノは自分を見るなり眉を寄せた。 会いたくない奴に会った、とでも言いたげな顔だ。 「ボナセーラ、ルキーノ。今日初めて会ったね」 「カヴォロ。鳥は朝に鳴かないのか?朝会なんてないんだ。1日どころか一週間会わないなんてザラだろうが」 ジャンとの軽快な言葉遊びをしながら、ルキーノは持っていた紙束をジャンに渡した。 さっきまでの眼差しはどこにもなく、なんだか楽しそうにしている。呆れたような、それも楽しいという様な態の男は、胴に入っていて眼に入りやすい。 その男に目もくれず、渡された紙に早々に目を通し、ジャンは嫌そうに目を細める。 「うわぁ、淋しい事言うね〜。もぅちっと俺に愛を分けてくれてもいーじゃない」 「俺の愛は大きすぎて見えずらいんだよ」 こんな状態でも変わらないノリの会話に、これが日常茶飯事なんだろうなと思う。 「――――ところで」 このまま自分は素無視なんだろうと思っていたら、ルキーノがこっちを睨んできた。 な、なんだよ。 「お前のその服、昨日と同じやつじゃないか?」 「ん?」 服? そうだっけ?形なんて気にしないからよくわからない。 なんて細かい男かと感想を抱きつつ、今日の朝を振り返ってみる。 ・・・・・・いや確か、クローゼットから適当に取った奴だから・・・・・・・・ 「一応、まだ袖通してねーやつだけど・・・・」 「あー急だったから、つるしを適当に頼んで買わせたんだったっけ」 ジャンの合いの手に、ますますルキーノの顔が険しくなった。 ちらとジャンを見た目には呆れと軽蔑が交ざっていた。まだこいつは分かってないのか。みたいな。 その目は一瞬で、ルキーノはすぐに自分を穴が開くほど見つめ、大きな溜息を吐いた。 「な、なんだよ」 何が悪いってんだ。 しかし、答えは得られず、ルキーノは話をどんどん進めていった。 「ジャン、明日は俺がこいつを連れていくぞ」 「は?だって明日はベルナルド」 「オゥケィ。ベルナルドには言っておく」 ついていけない自分とは裏腹に、ジャンはあっさり承諾しやがった。 オイコラ。当事者を置いていくな。 「明日は日の出前から出るからな。遅れるな」 「え、おう……」 が、有無を言わせない態度に、従うしかない。 そのままルキーノは部屋を出ていき、後にはジャンと自分の、数分前まであった状況だった。 「」 「ん?」 「ガンバ」 「は?」 唯一違うのは、子羊を見るようなジャンの眼差しだった。 (そんな目されたら明日が怖ぇじゃんか) |