25 venticinque ――――って、ジャンに言われたけどさ。なんか尻がモゾモゾすんだよな。 確信に満ちたジャンの言葉は、自分の事を信じているというのとは少し違う感じもしたけれど、それでも自分が何かしら役に立つと信じている言葉だった。 信頼されるっていうのは、正直慣れてない。 故郷にいた頃は、仲間とか友達とかいなかったしな。 ずっと1人で生きていたようなものだった。 孤児院にいて、シスターに色んなことを教えてもらって、生きるために働いてはいたけど、役目を与えられてもみんなどこか遠巻きにしていた。 その溝はどこまでも遠くて、とても埋める気にはなれなかった。埋められるとも思えなかった。 溝がないと思ったのは、シスターと一緒にいた時だ。 母代りをしてくれたあの人は、自分を家族だと言ってくれた人だから。 そういえば、こうやって1人で行動しないのって、いつぶりだ? デイバンに来てからずっと、誰かと一緒にいる日が続く。 故郷での事が嘘のように、誰かが傍にいた。 普通に接してくれていた。 よく考えると、すごいことだよな。 ひょっとして自分の天職・・・・だったんだろうか・・・・? 今まで考えてもみなかった職種だったからなあ・・・ 目的地に向かう車の中、あー、と首を後ろに反らせて背もたれに後頭部を当てる。 後部座席のちょうど真ん中。左右をポリの連行時のように固められている状態だ。 ジャンとベルナルドが乗る車は自分が乗る車の前を走っている。 後方から何かが起こっても対処できるようにだそうだ。 でもさあ。車ってすげえ早いから、何か起こった後ってどうにもならない気がするよなあ。 頭を持ち上げて前の車両を見る。黒塗りのいかにも豪華な、実に金のかかっているぺかぺかの高級車。 シートもさぞかし気持ちいいんだろうなあ。 そんなことをぼんやりと考えていて、視界の隅で何かが光ったように見えた。 ―――――ん? ビルのガラス窓の反射かと思ったが、何か違和感を感じて前方の光った場所を見る。 対向車線側の、つまり左手のビルの、その屋上に、違和感の正体を発見して血の気が引いた。 「おい!今すぐハンドル!ハンドルきれ!」 「は?」 突然焦って怒鳴る自分に、不審な目が向けられる。 ええいっ、このストロンツォが! ぶっ飛ばしたい衝動を指を指すことに変えてもう一度叫ぶ。 「ビル!ビルの上!」 全員が怪訝にその指の先を見て。 「!?――っファンクーロ!」 車が急停車したその次の瞬間、大量の火花が前にいる車両へ襲いかかった。 バラララララララッッと、空の高くから爆音が響き、ジャンが乗っている車と、運悪くその隣を走っていた乗用車に穴ぼこを開けていく。 「ジャン!!!」 出ようとする隣りの奴を押しのけて先に飛び出、ジャンの車へと駆け出す。 仕掛けてくる鉛の雨とは反対側の扉からジャンたちが這い出して、車に密着していた。 その間も火花が雨のように襲い続け、車だけでなくその周辺の人間や建物も巻き込んで穴だらけにしていく。 「コマンダンテ!」 「シニョーレ・デルモンテ!」 そんな事態では駆け寄ることもできないのか、後ろから自分に続く気配はない。 自分はと言えばそんな火花も気にせず、まっすぐにジャンのもとへと駆けつけた。 当たるだろうが死ぬのはよっぽど運が悪い時くらいだ。 盾の車まで滑り込み、ジャン達と合流する。 「ジャン!えと――メガネ!」 「お前・・・」 とっさにベルナルドの名前が出なかったせいか、呼ばれたベルナルドは眼鏡の奥で目を眇めて口元を引きつらせた。 いや悪かった。こっちも必死だったんだからちょっとしたことくらい許してくれ。 そんな念が伝わったのか、ベルナルドは睨んだままだが特に咎めるでもなく、状況を説明した。 「こっちは無事だ。襲撃用に鉄板を詰めていたのが功を奏した」 「よかった」 目で確認しても、ジャンとベルナルド、あと2人の部下には怪我ひとつない。 しかしいまだに火花――銃弾の雨はこっちを襲っている。強化された車でも永遠に守ってくれるとは限らない。 これをやっているのがどこの誰かはわからないが、おそらくCR:5を目の敵にしている奴らなんだろう。 一応・・・・マフィア・・・・だしな。たぶん色々恨まれることとかあるんだろう。と納得した。 「急いで避難を」 「この状況でどうすんだよ」 部下の提案にジャンが反論する。 確かにどうやっても無傷で逃げ切る可能性は低いだろう。 それでも生きるためには逃げるしかない。 こっちにも銃を持っている人間はいるが、小さい豆鉄砲では届きはしないだろう。 でも一個、届くものがあるかも。 「オレが何とかする」 閃いて、そう提案すると、全員が大なり小なり驚いた顔をした。 その4人の体をかき分けて中央に割り込む。 重さがワカンネーから、全力で行くぞ。 「、なに言って」 「先導頼む!すぐに走ってくれ!」 誰かに肩を引かれたがかまってはいられない。 こういうのは勢いが肝心なんだ!! 「ふんっ!」 腰と脚、腕の力を使って目の前の車を持ち上げた。 バリバリと何かが落ちて割れる音がしたが気にしない。 パラパラと降ってくる土埃が目に入らないように気をつけて、持ち上げた車を両手で構え腰を低く構えて。 「うおおおおおおりゃあああ!!!」 斜め上へ、弾丸を撃ち落としてくるビルの屋上の奴らに向かって投げ飛ばした。 「―――――――・・・・・・・・・うそぉ」 投げ飛ばした後、ジャンの間の抜けた声が後ろから聞こえて、あわてて振り返った。 「ナニやってんだよ!走れ!!」 せっかくの隙が台無しになるじゃねーか! 発破をかけてようやく我に返った4人がビル陰へ走り出す。 自分もそれを追いかけ走り、放り投げた車がビルの上に突き刺さっているのを確認した。 よし。銃撃がやんだぜ! 「ダーリン。俺、夢でも見てるのかナ?」 「―――奇遇だな。俺も今同じことを思った所だ」 そんなジャンとベルナルドの乾いた呟きは、自分の耳には届かなかった。 (急げ急げ!) |