29 ventinove いらいら。 いらいらいらいら。 失礼。俺、ジャンカルロ。 泣く子も黙るCR:5のボス、やらせてもらってます。 ボスはいつでも悠々と、どっしり構えていろとよく言われておりますが、さすがにオイラ、精神攻撃と言う名の無駄話を長時間、心良く聞いてられない。 だってなーんにも生産性がないもの。 ヒヒジジイの自慢話なんて、お茶うけにもならないっつーの。 「私の娘は本当に良くできた娘で―――」 そのフレーズも、聞きあきたっつの。 今日何回言ってんだよ。マジうぜー・・・ 今回の会食は、実に、実に実のならない。いや、実ができるわけがないものだった。 今日の会食の相手、ドン・ナスペッティの話題は、もっぱら自分の娘の自慢話。とどのつまり俺への縁談話だった。 俺がボスになってから、そういう話は断り続けているんだが、思い出したようにどっかの馬鹿がなすりつけてくることは、やっぱり絶えたことがなかった。 正直俺、女の子を道具にする行為って、大嫌いなのよね。だから縁談を持ちかけられたら毎回断ってる。 それでも懲りないアホなヒヒジジイ共は、まー、手をかえ品をかえ持ちかけるわけで。そんな暇あるんなら組のために貢献しろっての!! しかもね、その娘さん。まあ、さっきの話とは関係ないんだけどさ。 すっげードブs・・・・失礼。ブタさんとかお馬さんとかの見目悪い部分をいっぺんに集めたような、酷い姿形をしているのでございますよ。 そんな子がぶりぶりしていかにも可愛らしさをアピールしてる姿はね、精神攻撃にも似た辛さがこっちに来るわけで。 そのブリブリもね。天然ならまだましだけど、明らかな計算が見え隠れしててね。すごく不愉快でね。 ジャンさん女の子には優しくを信条にしているけどね、さすがにこれにはどう対処したらいいかわからない。 女の子はみんな可愛いと思っていたのに、こんな神様の悪ふざけみたいな子がいるとは思わなかったわ。 ああ。神よ・・・・来世ではこの乙女に祝福を与えたまえ・・・・・ そんな同情を送っているのをまったく分かっていない、どうしようもない父娘は、こちらへ様々な宣伝をしてくる。 うん。どんなにやってもそれには乗れないから。わかって。ほんと。 それでも無碍にはできない役員様。たとえボスでもその辺はどうにもならない。 気に入らないおべっかだろうと、いらない婚約話だろうと。無理矢理なくっつけばなしだろうと。 軽くかわして、いかないといけないわけで。 「お父様、ジャンカルロ様って、本当に、とても素敵な方ですね」 「は、ははははっ」 ハートの目で見つめてくるシニョーラに、俺は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。 ―――――――――勘弁シテ下サイ。 父娘の地獄の色目からようやく解放されて、俺の頭の中は今日のこのウサをどう晴らすかでいっぱいになった。 部屋の外で護衛をしていたジュリオと合流すると、ジュリオは俺の不機嫌さを察知して俺へ心配そうな気配と、向こうさんに今にも殺しに行きそうな気配を漂わせて俺の後を付いてくる。 ごめんなー。この場を離れるまでは俺の機嫌には勘弁してほしい。 はあ。この後もまだあるからなあ。早く今日を終わらせたい。 そういや最近酒飲んでないなー。ジュリオとか連れて、店でも・・・うちのコックとかでもいいな。どっかで酒を浴びるほど飲みたい。うまいツマミ肴にしてハッピーになりたーい。 「シニョーレ・デルモンテ!」 玄関までやってきたところで、後ろから可愛くなさ過ぎて困った裏声に呼ばれて、つい眉間にちょっぴり皺が寄った。 なんだよ。と、煩わしく後ろを振り返った、その時だった。 声をかけられた場所がまずかった。俺は階段の段差を踏み外し、バランスをくずした体はすってんころりん転がろうとして。 「ジャン!」 頑丈な小さい体に受け止められた。 「ジャン平気か?」 「お、おぉう。ワリ。グラッツェ――――」 耳元での声がして、自分の状態がどうなっているのかを把握する。 に抱きとめられた俺は、丁度と抱き合う形になっていた。 きっと転びたくない一心で、近くにあったものへ、この場合へすがりついたってことですね。 から離れようとして、「きゃああああ!」と、衣を裂く悲鳴が後ろからしたのは、すぐだった。 一体何がそんなに衝撃的なのか、絹を裂く悲鳴は屋敷一帯を包んだ。 ああもうあのシニョーラ、ことを大ごとにするんじゃないよ。 めんどくさ。と小さな肩に顎をのせてため息一つ。 すると後ろから、シニョーラの非難混じった声が叫んできた。 「し、し、シニョーレ!その方はどなたですの!?」 戦くシニョーラの顔も見たくないのでそのままでいると、がおずおずと、俺から腕を離す感触がした。 んーまあ、そうなるよね。 「まさか、まさかもう心にとめた方が??」 俺の身体が死角になっているせいで、今俺が抱きついている人物を女性と勘違いしたらしい。 見当違いのシニョーラの答えに、そんなわけないじゃない。と心の中でツッコんで、・・・・・・ふと、意地の悪いひらめきを思いついた。 「ああーっ!セニョリーナ!! お前と離れている1秒1秒が1時間に感じるくらい寂しかった!」 「は!?」 俺はを抱き直して、大声で、大仰に、実に芝居臭く叫んだ。 それにが驚き、近くにいるジュリオも焦り、他の護衛の奴らも目を丸くしていた。 たぶん、真後ろにいるシニョーラも。 何言ってんだ。訳ワカラン。と俺を見つめているに、「ちょっと合わせてくんね?」と呟いて、またひしっと抱きついた。 「もっとお前のことを感じさせておくれ〜っ」 正直ね。こんなことでどうにかなるかなーとか思ったけど。 どうやらこの乙女にはクリティカルヒットしたらしい。 「ジャン様、!!そんな・・・・・・!」 声でもわかるほどの衝撃を受けたシニョーラは、かすかな泣き声を上げて屋敷へ駆け戻っていった。 「行ったか」 「ええ」 後ろを見ているジュリオへ確認して、ようやっと俺は、はーっと、脱力した。 「あの、ジャン・・・・・・?」 未だにわかっていないは、俺の腕の中でじっとしたまま、怪訝なのかなんなのか眉間にしわ寄せ、眉尻を下げた珍妙な表情をして見つめてきた。 「わりいな。あのシニョーラ鬱陶しくてなんのって」 「え、あ?・・・・はぁ」 背中に回していた腕を肩にかけて、こそこそっと説明すると、はそれでも納得していないような顔をしつつ、首を縦に振った。 まあ男のこいつがいきなり恋人の役やってくれとか、そういうことできるわけないよな。 察しも、得意じゃなさそうだし。 「お前がジャンさんのアマートになるわけがないだろう」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ジュリオの言葉に、が馬鹿にしたというか、何か恨みを込めた目でジュリオを睨んだ。 そんなことわかってるわ!!って感じかしら。 そうこうとしていると、屋敷の中から何やら叫び声だか悲鳴だかが聞こえてきて、あんまりここに長居はできないと、足を進めることにした。 きっちり恋人っぽくの腰に腕をまわして。 それに対してなんでまだくっついてるんだ?とばかりに見上げてくるへ、すまんと首をすくませる。 「あー、ここを出るまでは頼むな」 一応屋敷の敷地内。 どこから誰がこっちを見ているか分からない。 「まあ、肩貸すくらいいくらでも」 しぶしぶそれに付き合うに頷いて、俺はぴったり寄り添って屋敷を後にした。 ――――――この時限りの芝居だったのになぁ。 (困ったもんだよ。ホントにモウ) |