30 trenta 翌日、優雅にほほ笑んだ幹部筆頭様に呼び出されたカポとその部下・・って自分のことな。は、反省室に立たされるガキのような状態で、並ばされていた。 「ハニー、これはどういうことかな?」 ベルナルドの笑顔は、一目見ただけで美女が腰砕けそうな、そんな怖い笑顔だった。 つーか、こいつってなんで怒ってる時いつも笑顔なんだ? 表情間違えてないか? 「えーとぉ。何のことかしら?」 ジャンが空とぼけて意味を問う。 こっちもなんのことで呼び出されたのかわからないので、ベルナルドの言葉を待った。 「昨夜、ナスペッティ氏をはじめ、その他の役員からカポの愛人の所在を詳しく公開しろと打診があった。一体何をどうやればこうなるのかな?」 昨日?昨日、なんかあったっけ? あ、ひょっとしてあのしつこいオジョー様追っ払うためって、やられたアレか。 1人のんびり納得している横で、ジャンが「役員の情報網侮れね〜」とか呟いていた。 え?でもなんでそんなことで呼び出されんだ? ジャンは見た目にもカッコいいと思う。性格だって悪くない。さらにこんなでかい組織のボスだ。 こんな要素持ってるなら、女なんて、いくらでもいるんじゃないのか? 「今まで女性関係では白い状態を保っていたというのに」 「しょうがねーじゃん。カクカクシカジカ、みたいな?」 「を盾に使っただと!?」 「うわー内容言ってないのに伝わった〜」 ジャンとベルナルドの漫才に目を瞬く。 そんなのわかってるから自分もここに引き上げられてんだろ? 二人の話を、なんだか置いてきぼりにされながら、聞いていて。その過程で、ジャンには今付き合っている人がいないことがなんとなくわかった。 意外だ。 「この際、誰を充てたかはなどというのはやめるよ。だが、今まで女の影の一つもなかったのを、どうして突然そんな流れになるんだ」 「仕方ねえだろ。なんかしつこそーうなシニョーラだったし?わかりやすい形で見せるのが手っ取り早かったんだよ」 やさぐれたジャンがそう吐いて、ベルナルドまで眉間に皺を寄せだした。 「今回はさすがにまずかったぞ。ナスペッティのお嬢様は、その道では有名な流言家でな、自分の理になろうが、なんだろうが言いふらすことにだけは長けている人物なんだ」 「げ。 じゃあ・・・今回のってつまり、お嬢様のお力ってこと?」 ジャンが繰り返し訪ねると、ベルナルドが神妙に頷いた。 「さらには、その『カポ・デルモンテの愛人』が本当にふさわしいとは思えない、などとふれまわっているんだ」 なんて事を言うんだろうか。ボスの愛人に対してずいぶんな言い草だ。 いや、事実、自分がジャンに見合うかと言われれば、間違いなく不似合いだけれども。 「少し調べたら、すぐに分かったんだが。あそこのシニョーラはカポ・デルモンテに対して妄想癖があって、いつか私と結ばれるのだと、そんなことを言っていたらしい」 「・・・・うげ」 「以前から親にも勧られて、今回の会食だ。そのせいで更に輪がかかったと聞いた」 「んなぁ・・!!そんな、鶏が先か卵が先かみたいなかんじだったのん?!?」 だんだん焦っていくジャンと頭を垂れるベルナルドに、やや遅れながらも、なんとか状況は理解できた。 つまり見も知らない男にあこがれ抱いて、夢持ってたら、実はそいつには相手がいて、そのことに対して嫉妬してるってぇ、こと。か? 金持ちの女って・・・・訳がわからねえ。 なんでそんな思考回路が出来上がるんだ?? 「どうするジャン。今さら冗談だったでは済まないところまできているぞ」 「んなこと、言ったって・・・ああクソッッタレ! なんでこんなことになったんだ〜?」 「というか、今まで女性のかわし方は、そつなくこなしていただろう?どうして今回はこんなことをしたんだ」 「しょうがねーだろ!あのオジョー様に絡まれるくらいならっ!って思い付きだったんだよっ」 「あの容姿で言い寄られる俺の苦痛を察してくれ!」と、嘆くジャンは、本当に逼迫した表情だった。 そこまで嫌な奴だったのか・・・ 実はあの時ジャンに隠れててぜんっぜん見えなかったんだよな・・・ 「だいたい!あれと比べたらの方が万倍もいい女に見えるっての!」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・へ?」 びしっ、とジャンに指さされ、言われた言葉に固まった。 この時、頭が真っ白になってわからなかったのだが、ベルナルドも固まり、丁度やってきたイヴァンとルキーノも、ジャンの爆弾発言に目を丸めていた。 そして、ジャンもその周囲の反応に一瞬首を傾げ、自分が何を言ったかを察して、ヤケクソの失言をどうやって訂正するかに頭を再起動させていた。 そんななか、自分も、なんでか頭が「イイ女」でいっぱいになる。 なんで、だろ。 顔が、熱くなっていくんだが。 え? え? ・・・・・・・・・・なんだこれ??? 「ジャン・・・お前、女っから離れすぎたせいで、頭沸いたんじゃねーだろうな?」 低い声で、心底不審そうに言い放ち、この妙な沈黙を切ったのは、イヴァンだった。 同情のような、不安のような。ある意味ジャンを心配している声音に。 「は!?んなワケねーだろが バッカイヴァンっ!!」 やや焦ってジャンが切り返した。 その焦りは、やっぱり固まって内心謎のうろたえに悩まされていた自分にはわからなかったが、ジャンが明らかな挙動不審状態だと、幹部たちには一目でわかるものだった。 「なるほどなるほど。なら、ジャンの言ういい女を作り出してやろうじゃねーか」 未だに処理が追いつかない自分と、焦るジャンとを交互に見つめて、ふと、ルキーノがにやりと笑った。 ん?なんでルキーノこっちに来るんだ? なんで肩に手をかけて体をジャンに向けられるんだ? 「こいつ、でな」 なんで、みんな。 また目え丸めて、自分を見てくるんだ?? 「もうどうにも出来ねえなら、嘘を事実にしちまうってのはどうだ?」 ん? 一体何の話をしてるんだ?? なんでみんな、納得したような、同情したような、怒った顔してんだ?? なんでそんな、見られてんだ??? 「―――――はいぃぃっっ?!??」 なんでこんなことに、ナッテンダーーーー????? (誰か説明してくれーーーーーー!!) |