36 trentasei 今日の目まぐるしさについていけない。 ついさっきまではあのタラコ唇のハンプティダンプティをどう退治してやろうかと画策していたはずなのに。 が告白されーの。 女だったと証拠付きで暴露されーの。 目が点になりましたよ。ガチで。 まっとうに対応できた俺マジすげえって。誉め讃えて。 女の躰なんて役得〜とかいつもは思うのに、そん時は居たたまれなくて目を覆っちまうし。 あれは勿体なかった。ガン見しとけばよかった。 帰りしな、俺が考えこんでいるせいで俺との間に沈黙が続いていた。 から本部に連絡をとって、車を待つ間―――行方不明になった俺がなんでと一緒にいるのかくまなく聞かれて、結局俺が説明しました。―――2人並んで畑の案山子よろしく立っているだけだ。 を見ると、こっちを見ていた顔が反らされた。 その後にしまったという顔。 簡単にの心境が分かるくらいの、見てて面白い百面相だった。 そのまま、頭を垂らして後頭部が丸見えな奴の、下の方へ視線を映す。 ―――やっぱ、信じらんないなぁ。 何がって?こいつが女だってことがだ。 腕は細いけど俺の羨むムキムキマッスル。 服ごしだと完璧なまな板の胸。プラス膨らみとは思えない胸筋。 線の細さと肉の厚みが化学反応を起こして性別を超越してしまった雰囲気。 なのに、なぁ。 納得しちゃった俺がいるのよね。 ああ、やっぱおんなのこかーなんて。 なんでそう思ったのかはちょっと謎。 俺のメス発見器が反応したのかもしれないし、男じゃない反応で感知したのかもしれない。 なんでか、受けとめるのには時間かかってるけど。 「ジャン、怒ってるよな」 「まぁ、ネ」 がとうとう話し掛けてきて、それに適当に答えた。 ああ、そっか。俺怒ってんのか。 じゃあそうしようかしらね。 怒るっつーよりは拗ねてる体で目を細める。 「ずっと、黙ってて、ごめん・・・なさい」 「サスガニオドロキマシタネ」 「言わなきゃって、思ってたんだ!ホントに!」 は完全に俺が怒っていると思い込んでいる。 適当な返事の俺に、は必死になって弁明してくるもんだから。 つい意地悪したくなった。 「ほんとに?」 口元だけ笑って見せる。 「ほんとにそう思ってたのけ?」 の顔が引きつっていく。 「ひょっとして、俺以外はみーんな知ってたんじゃない?」 真っ青なガラス玉の目が、こぼれそうだ。 「っ、――」 あらら。図星? かま掛けが当たってしまったことに、墓穴掘ったかと内心後悔した。 否定して欲しかったんだけどな。そこんとこ。 「――だ、だって!」 は呻き、振り切る様に叫んだ。 ストリートに響いた声は、次にはまた小さくなる。 「る、ルキーノにっ、なんでかバレてっ・・知らないうちに、広まってたんだ!でも、ジャンには自分で言えって!」 一生懸命って、こういうのなんだろうね。 たどたどしくて、泣きそうな声で、必死こいて。 「何度も言おうとした!けど、タイミング、合わなくて、だから、ごめん。ジャン。ごめんなさいっ」 鋭角に頭を下げる。 その必死さが眩しくて。 真っ直ぐなのが、胸に痛い。 会ったばっかの時を思い出した。 俺を庇って怪我をして、してしまった事を素直に謝って。あわてて。 心根が真っ白で純粋なんだと、改めて気付いた。 俺って、最低な引き抜きをしちまったのかな。 こんな奴を、まっとうな心根の奴を、こんなどうしようもない世界にいれちまったこと。 ぽんぼんと、頭を叩いて撫でた。 さらっさらの黒髪と丸い頭が心地いい。 「俺の命を何度も助けた恩人に、怒ることなんて何もねーよ」 全部演技でしたと、過去一番に軽い口調で答えた。 泣きそうだったは、顔を上げてガキのように満面の笑顔になる。 俺のもんにしちまった見返りには、結構なボディーブローだった。 (罪悪感と・・・・なんだろな・・・) |