espiazione シスターが死んで、自分に残ったのは暴力と孤独だった。 本当の意味で、シスターはたった一人の家族だった。それなのに。 シスターを、あんなにやさしい人を傷付けて、のうのうと生きて、別の人間を苦しめているあいつらが許せなくて、許せなくて。 全部がこの街から消えるまで、拳を叩き込んでぶっ壊した。 人も、物も、全部。 唯一壊れないものは自分の体で。子供の頃はあんなにボキボキ折れていた骨も、今では皮が少しめくれて血が出るだけで終わる。 一番壊して欲しいのは自分なのに。誰も壊せない。 たいていの奴は逃げたまま戻ってこなかったが、それ以外はさらに屑だった。 徒党を組んで闇討ちは常に。 自分だけが標的になれば良いほうで、凶器を持ち込み、誰彼構わず無差別に殺し回る奴らもいた。 そんな事がしょっちゅうだった。 だから、みんな殺した。 だってそうでもしなけりゃ、事態は酷くなるばかりだろう? 罪もない人が死ぬのを見るなんて、まっぴらだ。 もういらない。 人を殺すのは簡単だった。ただ持ち上げて、近くの壁に思いっきり叩きつければそれで終わり。 糸の切れたマリオネットや潰れたカエルみたいになる。 何度も何度も何人も、そうやって肉塊にした。 そうしてもっと、ずっと、孤独になった。 街のすべてが自分を拒絶していた気がした。 気じゃなくて、きっとそうだった。 当然だ。人殺しなのだから。 シスターに人を殺すことは何よりも重い罪だと教えられた。 だからそれだけはしないようにって、力を押さえることを必死に覚えた。 覚えたけど、それを自分の意思で台無しにした。 仕方がないんだ。 他に思いつかなかったから。 自分の正当性を認めてほしくて、自警団に突き出しもした。訴えた。 でも、きちんと取り合ってくれなくて、仕舞いにはいつも騒ぎの中心にいる自分に矛先が向いた。 なのに悪党は後からわいてくる。 そいつらを追い出すより、息の根を止めた方が楽だったから自警団への受けもどんどん悪くなった。 殺す方が楽だった。 だから、シスターが天国で怒ってんのかな。 人を殺した後は、気持ち悪くて何度も吐いた。 シスターが怒ってるから、それを感じて体が拒絶してるんだと思った。 それが堪えられるようになった時、本物の化物になったんだと感じた。 身も心も、もうシスターに届くことはないほど、自分は最低になってしまったんだと思った。 そうやって、自分が死んでいくことを感じながら、悪党を殺していった。 何度も何度も繰り返して、ようやく街は少しだけ静かになった。 そして自分は、殺人鬼として自警団に追われる身になった。 これは報いだってわかっていた。 でも捕まる訳にはいかなかった。 だっていつまたこの街に猛威を奮う奴が現れるかわからない。 逃げて、逃げて、泥水をすすって生きた。 追われることにうんざりして。 それでもこの街に自分を縛り付けて。 罪を重ねて、罪を償っていた。 心がすり減っていくのはずっと感じていた。だけど、自分が救われる方法が分からなかった。 救われる日なんて無いと思っていた。 道を踏み外した自分が、救いを求めることこそ罪にも思えた。 ――いっそ死のうか。 死んで、地獄に墜ちようか。 そう思う日が増えた頃にあのおっさんと出会ったんだ。 (後悔は消えてなくならない) |