4 quattro 闇の中で、感覚が浮上していく。 ああ。いてえ。 いてえ。 いてえ。 でもそれ以上に――――― 「ハラぁ・・・へった・・・・」 呟いた後に、自分が生きていることに気がついて目を開けた。 辺りは黒い。というか、暗い。 暗いのは夜だからで、ここは室内だ。カーテンのない窓が眼の端に見える。 暗くてよく見えないが、なんだか殺風景な所だった。 じめじめして埃っぽいが、家具も何もない。 窓が無ければ、地下かと思う様な所だ。 身じろいでみて。 「ん?」 腕が拘束されていることに気付いた。 両腕を身体の後ろに回されて親指同士をくくられて。そのくくってあるものも布とかではなさそうだ。力を入れても切れる気がしない。無理をすれば指が切れそうな感触だった。 どうやら捕まったらしい。だるいな。 しかし足もワイヤーでくくられては逃げる手もあるまい。 だいぶボロボロな服を着ていることから、怪我云々はなんにもされてないようだけど。 ・・・まあ。痛くないからいいか。 しばらくそのままで、もう一度眠ろうかと考えていると、自分を死の目前まで追い詰めた優男が部屋に入ってきた。 そして後ろからあの赤毛の男ともう一人、こっちはあの場にはいなかった眼鏡のロン毛男が入ってきた。 「目が覚めたか」 眼鏡が言う。無言で睨むと優男がナイフを頬へ走らせた。 チリ・・と痛みが走る。 「やめろジュリオ」 「こいつ、ジャンさんを危険な目に」 「そのジャンから、殺すなと言われているだろう」 眼鏡にたしなめられて、ジュリオと呼ばれた優男はナイフを下ろした。ナイフは収まったものの、今にも殺しにきそうな視線を送り続けてくる。 それにフンと鼻を鳴らして、どうやらこいつらの上役らしい眼鏡を再度見た。 「さて、状況は理解しているかな?お前が知っていること、洗いざらい吐いてもらおうか」 はぁ?何言ってんだこいつ。 うろんな目で見つめると、しらばっくれる気かと見下ろされる。 そんな目で見られてもしらねーもんはしらねーっての。 「まずお前だ。どこの組織の物だ。GDか?」 「は?」 なんだそりゃ。GD? 「こいつが最初に投げた人物だが、GDの人間だった。可能性は薄いと思うがな」 「証言によれば始めに騒ぎを起こしていた奴らはCR:5と名乗っていたらしい。こちらの評判を悪くし、自分たちが騒ぎを収めることで醜聞を良くする。ベタな方法だがありえない訳じゃない」 「やり方は行き過ぎていたがな」と赤毛と眼鏡が話し合うのを、顔を歪めて聞いていた。 つーか。馬鹿じゃねぇ?その作戦。 「乳くせえガキでもやるかよ。そんなこと」 騙される方がどうかしていると、吐き捨てる。 しかしここにいる男共は自分を間違いなく敵視しているし、聞く耳は持たないだろう。 ああ。それにしても 「ハラ減ったなぁ・・・」 呟いた所でギョルルルと盛大に腹が鳴った。 ここ4日ほどまともな飯食ってねえし、水も飲める時と飲めない時があったし。唯一腹に入れられたのは、金髪の兄ちゃんが恵んでくれた食べかけのホットドッグだけ。 ここから出たら、何か食べよう。たらふく腹の中に詰め込もう。 「ブッハ・・・!!」 呆れとハラヘリのせいで弱っているのとで溜息を吐いた自分の後に、誰かの吹き出す声が聞こえた。 「おま・・・この状況でもそれって・・・・・信じらんねぇー・・・大物過ぎダロ・・!」 「ジャン・・!」 男共全員が振り返り、自分は目の前の扉に立つ人物を見る。 一気に男共が慌てだす。自分も内心動揺していた。 開け放たれた扉の前にいるのは、キラキラした金髪を揺らす、あの兄ちゃんだった。 よほどツボに入ったのか、腹を抱えてヒーヒー笑っている。 え、え? なんで。ここにいるんだ? 「ジャン、なぜここに・・・」 「それはこっちのセリフだぜ?ベルナルド。――――誰が勝手にやれっつった?」 眼鏡が兄ちゃんを宥めるような窘めるような、困惑した声音で言うと、――――――兄ちゃんの雰囲気がガラッと変わった。 ちょっとチンピラ風の気のいい兄ちゃんが、ピンと張りつめ重く苦しいプレッシャーをかけてくる。 「・・・っ」 眼鏡が怯んだが、兄ちゃんの姿勢は変わらない。 「こいつのことは俺が管轄するっつったよな? お前らが俺の身の安全を考えてくれるのは分かるが、俺の了承なしに勝手をするな」 「――――申し訳ありませんカポ・デルモンテ」 眼鏡が頭を下げ、それにならって赤毛と優男も頭を下げる。 なんだ?この状況・・・っていうか、今。カポって。 「カポぉ!!??」 考えて、冗談みたいな驚きに思わず声を上げていた。 目を丸くして金髪兄ちゃんを見上げる。驚いた拍子に身体に力が入って、身体が縛り付けられた椅子ごと前のめりに倒れた。 あっぶね!!鼻うつところだった・・!! 何とか軸をずらして横に転げて、もう一度見上げる。 「おいおいダイジョブか?怪我してんのにホント元気ね。あールキーノ。手伝ってくれ」 目の前にしゃがんでのぞきこんでくる、にこにこ笑みをたたえているこの兄ちゃんが・・こいつらのボス? こんなほっそい身体で、ごつくもない、キレーな兄ちゃんが? 「なんだこれ。なんの冗談だ・・・」 赤毛と兄ちゃんに椅子を立て直されてながら、くらくらした頭を抱えて状況把握してみる。 この兄ちゃんに倒れてる所を助けてもらって。 街で悪さをしてた奴らはCR:5とかぬかす奴で。 この赤毛と優男はそのCR:5で。 この兄ちゃんが・・・こいつらの・・・・・ボス? 悪い夢だ。意味が分からない。というか、自分は何かを勘違いしてるのか? そう考えて、今までの経緯とさっきまでの会話を思い出した。 もう一つのキーワード「GD」だ。 「ずいぶん混乱してんな。コロッコロ表情変わっておっもしれ〜」 「ジャン。あまり好感をも持つな。敵対勢力だったらどうする」 「んやぁ。ソレはない」 兄ちゃんは軽く笑って手を横に振り、 「だって俺、コイツが今日行き倒れてたの助けたし」 自分を親指で指した。 「!?」 「はぁ? なんだそりゃ」 「ジャン・・・お前抜け出した先で何をしてたんだ・・・」 「まーま。お小言は後で」 男どもが驚き、小言を漏らすが、兄ちゃんは軽くスルーした。にこにこ笑みを絶やさないこの兄ちゃん・・・なんかすげえ。 じっとその様子を見ていると、再び兄ちゃんがこちらを向いて、目が合った。 にっこりと、実に楽しそうに笑う兄ちゃん。キラキラの金髪も、その下にある蜂蜜みたいな甘い瞳も。 ・・・何だろう。すげえドキドキする。 「だからコイツがどっかのヤクザだって線は、薄いと思うぜ?なんか企んでる奴が行き倒れるとか、ありえないだろ」 兄ちゃんは周りにそう言って、自分の目の前へとしゃがみこんで視線を合わせた。 「そういう訳で。―――――まぁ、まずは、身元と名前を教えてくれないかね? 喉の奥が震える。それがどういう感情のものなのか、自分にはわからなかった。 (高揚する心) |