42 quarantadue









おかしいだろ。





俺は目の前の光景と一連の流れを見て、そう結論付けた。

何がおかしいって、ジャンだ。ジャンがおかしい。
たかがパイ一個食われた位で親が死んだみてえな顔して泣くだが。いつものバカっぽさはどこにやったと――――いや、そもそも食べ物で泣くのも十分あれだが――――言いたくなるもんだ。
が、それよりも、ジャンだ。
どうにもジャンがこいつに対して過保護すぎる。

仲間想いなのは知っている。こいつがなんだかんだと言いつつ和を好んでんのも知ってる。
バラバラだった俺たち幹部を繋げたのはジャンの力だからな。
マフィアが仲良しこよしなんざ、ちゃんちゃら可笑しいって、思ってたのによ。
別に礼を言う気はないが、ここが随分息がしやすい所になったのは確かだった。


だが、こりゃ異常だろう。


「んむ、ウマイなー、このパイ」
「ん」

隣に並んでパイを頬張る2人を見つめて、俺もパイを頬張る。

勝手に食ったのを泣かれた後、俺と、さらに泣かせたクソ赤毛はジャンと強制的に「俺たちも食べていーい?」とお許しを貰って食ってる。
こんな上品な事ガキの頃にもしたことねーっつのクソ。

カヴァッリのジジイが孫娘を見る時と似たものを感じる、でれっでれした顔をジャンは怪力女に向けている。
視界に入っているはずの俺等は眼中にない。
色々ねーよファック。

ジャンの薄気味悪さをどう指摘したもんかと考えるが、結局パイを齧って俺は黙った。
今解決するべきことじゃない。
つーかそんなもんに労力を費やすほうがバカだろ。

薄い味だが、妙にいくらでも食える気がするそのミートパイを、もう一つ手に取った。
4人で並んで食う様は正に滑稽だろう。
しかもボスと幹部だけならともかく、そこに並んでヒラが一人いる様は傍から見たら異様つーか、不気味だ。
ベルナルドやジュリオがいたら「弁えろ」とキャンキャン喧しくなっただろうよ。

つうか、この味付け、どっかで食った覚えがあんな。
ここのコックが作ったんなら、食ったことはあるんだろうが、ここじゃないとこで食った気がする。
どこだったかと思い出していると、ジャンが呟いた。

「マジウメー。今度、また作って貰うかなあ。クセになりそうだわ」
「確かに悪くないな。コックが変わったのか?」
「あ・・・・」

ジャンとルキーノの賛辞に、がジャンとルキーノを交互に見る。
なんだと思って見ていると、いつもの馬鹿元気はどこいったと思う声の小ささで呟いた。

「作ったの、・・・・オレ」

ジャンとルキーノの動きが止まり、俺は納得した。
あの港の屋台で作ったっつー、フライサンドの味の薄さに似ていたのだ。

「そういや料理できんだったな」

怪力と大雑把な性格で忘れそうだが。

俺が呟くと、ジャンがこっちを睨んだ。

「は。なんでイヴァン、が料理できんのしってんの?」

わかりやすい嫉妬向けてくんじゃねーよファック。

「そーいや、市場で作ったっけ?」

テメーはガキみてーに首傾げてんじゃねーよファック。

「それが本当ならなかなかの腕だな。俺の専属にならんか?」
「は?」
「は?」

口説いてんじゃねーよ赤毛!
不思議そうな顔すんなバカ女!
嫉妬に燃えんな見苦しいわボケ!
ファック!!


――――――だめだ。ここにいるとムカついて仕方ねえ。


舌打ちして席を立つと、「もう行くのケ?」とジャンが見上げた。

「仲良しこよしなんて性に合わねーんだよ。背中が痒くて鳥肌が立つぜ」

腹も膨れたし、他人事で胃もたれすんのはごめんなんだよ。

「仕事頑張れよ〜」「お父さんお土産期待してる〜」などという後ろからの声は無視した。

誰がお父さんだボケ!土産なんてあるか!!



クソ、なんだこのぬるっぬるのホームコメディはよ。
俺たちゃ、泣く子も黙るヤクザもんだろがっ!





あー、しばらくあいつらに係わりたくねえ。








(勝手にやってろ)



ちょこちょこと機微が動いております。
2014.3.2