43 quarantatre 「なんだったんだろな。イヴァン」 結構な量のミートパイを食べて、文句一言去って行ったイヴァンを見ながら首を傾げた。 「腹ごしらえだろ。これから大暴れするためのな」 「腹ごしらえ?」 いまだ食べているルキーノの言葉を鸚鵡返すと、隣のジャンが何かに気づいたようだった。 「・・・なんかのお祭り?」 「ああ。今回の祭りは結構大掛かりになりそうだぜ。こっちがホストかゲストかは未定だがな」 言ってることはのんきなのに、2人の顔はどこか物騒だ。 祭りって何だって聞きたいが、聞ける雰囲気じゃなかった。 とりあえず暇になった口にパイを詰めて黙る。 「さて、俺もこれから下準備だ。うまかったぜ。ごっそさん」 重い腰を上げるように立ち上がり、こっちの頭を乱暴に撫でてルキーノも食堂を出て行った。 ふと見えた横顔は、ほんの少しピリと不安めいたものを感じる鋭いものだった。 「こーりゃ乗り遅れちまったカナー」 のんびり後ろ頭に手をやって背を伸ばすジャンも、こっちが焦ってしまう様なくらい、目つきが鋭い。 落ち着かなくてジャンにパイを進めると、しばらくまじまじ見られて、しょうがない子供でも見るような目で頭を撫でられた。 なんでだ? ジャンと残りのパイを平らげた後、ジャンに着いていく形でベルナルドの部屋に訪れた。 楽しそうで物騒。正反対な感覚か鍋で綺麗に混ざったみたいな感じがジャンからする。 部屋のドアを開けたベルナルドの部屋からは緊迫感と殺意。 息苦しいそこに、ジャンは花でも飛ばすように入ってベルナルドへ声かけた。 「ハァーイダ〜リン。ティーパーティの準備はいかが?」 「やあジャン。招待状とお菓子の用意はできたが食器が足りないといったところかな」 「お、まだ準備中?じゃあ俺にも配役できそう?」 ポンポンと弾む会話が二人の間で飛ぶ。 陽気に伺うジャンに、ベルナルドは苦味のある笑みを浮かべてやんわりと断った。 「すまないね。ジャンには、できればいつも通りに仕事をしていて欲しい」 「えー」とジャンが不服げにおどけた。 「暴れたいのはわかるがね・・・トップは堂々としてくれると色々助かる」 「へいへい。撒き餌ちゃんは精一杯ピエロを演じますよっと」 話は終わったらしい。ベルナルドはジャンからこっちに顔を向けて、眼鏡を直した。 「。警戒を怠るな」 「イエッサー」 いまいち状況はわからないが、物騒なことになるだけわかっていればいいだろう。 自分の役割はジャンを命を張って守ること。いつもと変わらず、ジャンを守るだけでいい。 「んじゃま、デートに行きますかね。マドモアゼル」 「・・・・マドレーヌの親戚か?」 なんのことかとそう尋ねると、ジャンは吹き出し、ベルナルドは苦い顔でため息を吐いた。 なんかバカなこと聞いたのはわかった。 話はわからなくても、仕事のことなら何となくわかる。 例えばジャンは組の切り札だ。 親分って意味もあるし、仕事上ジョーカー扱いされてると言う意味でもある。 CR:5が誰かと商談したい時、向こうが乗らなかったり、大詰めでしっかり繋いでおきたい時はジャンが絶対に前に出される。 ジジイ転がしが上手いと定評があるらしいとはジャン本人の言だ。 実際、自分もよくついていった先で面白いほど上手く進むジャンの手腕を何度も見た。 素直にすごいと思う。自分は人の神経を逆撫でるばかりだから。 自分にはできないことができる人は尊敬する。 今日も、そんな仕事のひとつ。外の企業と商談のために外回りだ。 ベルナルドが持ってきて、最後のサインをもぎ取るのが今回のジャンの仕事。 ジャンは既に、相手の心をすっかり掴んで支配していた。相手はほぼサインに頷く姿勢でいる. 今回の肝の漁港めぐりは和やかな雰囲気で進んでいる。 にこにこ愛想笑いを浮かべてるジャンの後ろで、自分はいつもより少しだけ周りを気にして着いていた。 ベルナルドに言われたからといっても、そうすぐ何か起こらないだろうとしばらく暢気に構えていたんだが、 じっとり見られているような気がし始めたからだ。 (なんか、キメェ) 空気がまとわりつくというか、なんとも気分がよろしくない気配が周りに広がっている気がする。 ちらちら周りを探ってみるがそれらしい人影はない。同じように感じたのか別の護衛が周りを見に離れたが、結局見つからずじまい。 居心地の悪さは不愉快だが、出所がわからない。それでは手も出せないし、対象を守れなくなるから本末転倒。 周りもやや殺気めいてきたことから、気がするから確信に変わっていた。 一緒に護衛についている奴らと相談して泳がせることにしたが、なかなかねちっこく後をつけてきているようでストレスが溜まりそうだった。 (ケリつけるならさっさとしたい) |