46 quarantasei










捕まえた男は、その後すぐに駆けつけた組員に指示を出して、ベルナルド行きにし、自分とジャンは別の車で本部へ帰り着くことになった。

――――――・・・・ん・・・・・、だが・・・・



「ジャ、ジャン!?」

声がひっくり返るのも、仕方ない。
車に入って人心地ついたかと思えば、ジャンが自分の上に乗り上げてきたのだから。
頭や服をまさぐって、ジャンは真剣な顔で脱がせにかかってきた。
ジャケットはあっという間に脱がされて、ベルトに手をかけられた時は流石に止めるために手を添えた。

いったい何を考えているのかと、指でジャンの手を覆ってベルトから離すよう促す。

ジャンはこっちの動揺を無視して、口早に質問してきた。

「傷は?弾は当たったのか?火傷の具合は?」
「へ?ほえ?け、ケガ??」

いやまあケガはたしかにあちこちしてるけど。

顔を上げてジャンを見る。ジャンのこっちを見る顔が怖い。

頭がいろんなことに引きずられてうまく答えられないでいると、目を細めて舌打ちしたジャンが今度はシャツのボタンに手をかけ、ブチブチとはずしはじめた。

「うおぉあ!??」

なんだこれ、拷問??!?

拷問ってなんだ!? ジャンの拷問??? 貧相な体見せてごめん????

いやいや、そうじゃねえ!!

「ジャン!ぼ、ボス!!なんで脱がすんだよ?!」
「こないだ公衆の面前で脱いでた奴が、なに恥ずかしがってんの」

ごもっとも!・・・・・じゃなくてだな!

いまだに脱がせにかかるジャンの両腕をつかんで止めさせつつ、頑張って考える。

えーと、あれだ。怪我のこと聞かれたんだから、ジャンは自分の怪我の具合を気にしてるんだから・・・


「ケガ!酷くない!かすり傷だから!」


大丈夫だ!全然。こんなの昔は日常茶飯事だったんだから絶対に死なない。

たくさん理由を頭の中で考えるが、一つもまともに口からは出ず。単語ばかりになってしまった。

そんなカタコトの訴えに、ようやくジャンが体を起こし、上から退いてくれた。
見つめてくる金色の瞳は静かだ。静かだけど、なんだか見返してるとそわそわする。

怖いような、そうじゃないような。胸がいっぱいになる。

「撃たれた?」
「う、あ、けど、当たってない」

頷きかけて、すぐに首を横に降る。
肯定したら、だめな気がした。

「爆弾は?」
「足で蹴って避けて、爆発で壊れた残骸が当たっただけ」

頭や腕や脚に建物のコンクリートなんかが当たったが、重症ではない。
間近で食らったら、腕なんかは爆発で肉が抉れていい感じに焼けていただろう。
あれは危なかった。

「でかいケガはしてないんだな?」

コクコク首を縦に降った。

しばらく視線が交錯する。
こっちの真偽を図っているのかもしれない。

目をそらしたいような衝動を堪えて、5秒くらい見つめて、ジャンが大きくため息を吐いた。

「ほんっとに、・・・・・・・おまえはもー・・・・」

吐き出すように呟いて、ジャンの顔が肩に埋まる。

片腕が背中に回って捕まれた状態で、ジャンはしばらくそのまま動かなくなった。
こっちもどうすることもできなくて、身を固定するしかない。

下手に動いてジャンが怪我したら怖い。

体を動かせないので、ぼんやりしているのも暇だ。
どうしてジャンがこんなことをしているのか、しばらく考える。

なんだか、遠い昔にも、こんなことがあった気がするんだ。

もやもや考えて、思い浮かんだのは悲しい顔をしたマンマだった。
「心配させないで」「あなたが怪我をしたから悲しいのよ」と、優しく諭してきたマンマ。

さっきのジャンの鬼気迫るものと全然違うけど、どこか似てる気がして、答えが結びつく。

「ジャン、ごめんな・・・・?」

危険な場所に飛び込むのなんて訳はない。
そんなことで自分が死ぬなんて思ったことはない。

でも、心配させたのなら、自分のしたことはよくないことだったのだと思う。

自分がよかろうと、誰かが嫌なことなんてたくさんあって、砂利道で石ころを避けるくらい難しい。


自分はなんにもわかってないから。


「ごめんな・・・」


心配させてしまっただろうジャンの頭へ、ほんの少しだけ頭を傾けて触れる程度に寄せる。

後ろに回されている手とは反対のジャンの手が、背もたれと体に挟まれた自分の手の上に重なった。

ジャンの頭が、肩から離れる。
顔を上げたジャンの表情は、怒ってるような、笑ってるような、困ってるような、複雑なものだった。
細められた金の目が、うるんでいるように見える。

「――――ほんっと・・・・もー・・・・・」

やわらかい声だった。

血と土埃でガサガサな頬をジャンの手が撫で擦る。
固まった髪の毛をほどくように、指先が梳く。

ジャンの息が鼻にかかったなあ、と思ったところで、やけに顔が近いことに気が付いた。

そのまま、焦点が合わないほどに狭まったジャンとの距離は、顔同士が触れ合ったところで終わる。


「―――――これで許すわ」


柔い感触と、暖かい湿った感触。
口元に感じたそれは、ジャンの指で拭われた。







何が起きたのか。何をもって許されたのか。さっぱりわからなかった。











(でも、怒ってなくて、よかった)




2016.4.10