6 sei 一週間後、前とまったく同じ状況で詰問に入るメガネを、椅子の上でくつろいで見上げた。 状況で違うのは、赤毛の大男と得体の知れない優男がいないこと。 正面に机があって、その向かいに紙束を持ったメガネとジャンが座ってること。 あと自分が椅子に縛り付けられておらず、拘束は身体の前に持ってきた両手首の手錠くらい・・ってところか。 なんか聞いたことがある構図だな。・・・なんだっけ?サツの取り調べとかこんなんだったよな・・・ ふと思考にふけっていると、コツコツとメガネが机を叩いて注意を向けさせた。 きつい睨みが自分に向けられている。一般人ならブルっちまいそうな、人殺しの目つきだ。 「・。お前の経歴を洗い出した。確認するぞ」 「はいよ」 メガネの前置きに、自分は呑気に促した。 「出身はルートロ。ここから北西の内陸にある街だな。年は25」 「うえェッ?!にじゅうご!!?」 自分の年齢を聞いたジャンが盛大に驚いた。「・・・・18くらいだと思ってたんだけど・・・」なんて呟いていて、その隣でメガネも神妙な顔で「残念ながら本当だ」と首を振っていた。 童顔を自覚しているし、よく下に見られがちだが・・・・実に失礼な奴らだ。 メガネが続ける。 「幼い頃に両親が死去。街の修道院に預けられて16まで暮らし、その後は街のあちこちで働いていた。 住みかが一定にないのは傷害事件を度々起こしていたため。 傷害事件を起こしているが・・・基本的に首謀者になって事を起こしたことはないようだな。薬物売人やギャングスタとのかかわりもない。一般市民・・・とは言い難いが、分類はそこに当てはまる。ここまでは?」 「ずいぶん大雑把だけど、まあそんなとこ」 メガネの言うとおり、結構な頻度で自警団にも警察にも裁判所にも世話になった。 でも一度も牢屋に入れられたことはない。だいたいの傷害事件は自分が起こした訳じゃなく、収める側に回っていたからだ。 ま、自分のせいでいらない怪我した奴は数え切れないほどいるけれど。 毎度毎度騒動がある度に顔を見せる自分に、税金泥棒たちは大いに困っていただろう。 それも自分のせいではない。 自分の近くで騒ぎを起こす馬鹿どもが悪いのだ。 メガネの質問は続く。 「この街にはヤクザものはいないようだな」 「ああ。チンピラはいたけどな。自警団がいて、そいつと市が手を組んで街を取り仕切ってた。 移民は多いけど、海の近くじゃない。そのせいかは知らないけど、もめ事を嫌った奴らが集まった平和な町だよ」 「なるほどな」 メガネがフレームを押し上げて、紙束をめくった。ずっと眉間にしわが寄ってるけど、そのしわの深さがさらに深くなる。 「この町には伝説があるらしいな。街を荒らすものは猛犬、フィアースドッグに噛み殺されると」 「ああ。それオレ」 次の話に、即答した。 フィアースドッグ。それが自分の通称だ。 一体誰が最初に広めたのかなんて知らないが、近隣では誰もが知っている二つ名だった。 街に仇なすもの、近寄るものは誰にでも噛み付き、その肉が裂けるまで放さない。誰に慣れることもない猛犬。 そうあだ名され、恐れられたり、いらない因縁をつけられもした。 自分では、そこまでひどくないと思ってるんだけどな。分別だってあるし。暴れる時は盛大になってるけど。 「・・・本当の話なんだな」 メガネの睨みがいつまでも自分を突き刺してくる。 「つーか、伝説ってなんだよ。オレ生きてんだけど」 それよりも言われた話題の方が気になる。その言い方だと、なんか自分が死んだみたいじゃないか。 「なんかやな感じー」とむくれれば、またジャンが吹き出し、メガネは渋顔で溜息を吐いた。 「確認事項は以上だ」 疲れた声でメガネが質問を終わらせた。メガネが背もたれにもたれたから、自分も背中を預ける。 「で?こいつは俺の好きにしていいのか。ベルナルド」 さっそく反応したのはジャンだった。メガネは溜息をまた吐き、 「・・・あまり気が進まないがね。一週間の監禁にも文句なく、背景も一応白だ。決定権はカポにある」 ジャンの質問を肯定した。 「いい答え。んじゃ、今日からお前は俺専属の部下な」 「おう!」 やったぜ!これでここから解放される〜! 早速手を上げて、がちゃがちゃがなる手錠を二人に見せて聞いた。 「な。これ外していいか?」 「ん?ああ。おーい手錠の鍵・・・」 ブチンッ ギチッ ギチギチ・・・ 「を・・・」 承諾を貰ってすぐに、力を入れて手錠の鎖を張りつめ引っ張る。 力の抵抗に負けた鎖のつなぎ目が壊れ、まず両手が解放された。そこから人差し指と中指で両腕についている手枷を握って引っ張り、手錠を変形させて外した。 「あーすっきりした。んー、でも引き千切れなかったな・・・体鈍ったかなぁ?」 歪な楕円の形になった手錠をぶら下げて、しみじみと見る。結構力一杯やったんだけどなあ・・・ 「・・・・ねぇ、ダーリン。あれって、アルミだったのけ?」 「いや・・・特注のチタン製だ。下手な金属より固い。一体どんな馬鹿力だ」 「ジュリオといい、GDのファッキンヤローといい・・・世の中にたっくさんいるのね。化物って」 「いや。いないからモンスターにされるんだがな」 そんな二人の小声の話は、えい、と二つになったわっかを重ねて千切って遊ぶ自分の耳には入ってこなかった。 (なんでふたりとも、目、丸くしてんだろ?) |