7 sette ようやく解放されて、ジャンに連れられ階段を上がった廊下は、やけに綺麗なホテルみたいなとこだった。 自分がいた部屋があった階との落差に、つい感嘆の溜息が洩れる。 さすが都会。こんな家がごろごろしてるのか・・・ 自分がいるこの建物は、ジャンたちCR:5のアジトなのだそうだ。自分はその建物の倉庫部屋の一室に入れられていたらしい。 だからなんか埃っぽかったんだな。 綺麗に整えられた廊下を進んで、さらに階段を上る。 そして連れてこられたのは、これから自分の部屋になるらしい、まるでホテルのような綺麗な部屋だった。 そしてそこで。 「やだー!絶対風呂ヤダー!」 備え付けの風呂に入るように強制され、駄々をこねる自分がいた。 「うわ、この間までの俺がいる・・・ 駄々こねんなよ。これから会う奴らは一応ここの幹部と顧問だから、さすがに小汚い格好はご法度なんだよ」 「別にあいさつしなくてもいいだろ?!オレはジャンの部下なんだから、ジャンの顔さえ分かってればいい!」 「そーもいかないのが俺の役職なの。ほら、俺が洗うの手伝ってやっから」 壁にすがりついて頑として入らない自分を、ジャンはなんとか宥め透かしかつ強制的に入らせようと、服に手を掛けた。 「! い、いい! 自分でやるよ!ガキ扱いすんなっ!」 危機感を覚えてジャンの手から逃げ出す。 そのまま風呂場へ直行し、扉を閉めた。 ああ、びっくりした。危なかった。 洗面所の大きな鏡で服の状態を確認する。 完全にぼろ布を被ってるみたいなそれを見て、ため息を吐いた。 ガチャ 「出たらこれに着替えんだぞー」 「っ!ぉ、おうっ」 ザンバラの髪をグシャグシャかき混ぜ気を抜いていた所にジャンの顔と手だけ入ってきて、また驚いた。 渡された真っ黒の服を受け取ると、「部屋で待ってるからな」と言ってジャンは扉を閉める。 はああ。驚かせるなよ。 服をカゴにいれて、脱いだ服は脱ぎっぱなしにして。 自分の胸元を一瞥。 身体のど真ん中にある切り傷を撫でて、本当に久しぶりのシャワーを頭からかぶった。 言葉通り、ジャンは部屋で待っていた。 部屋の一人掛けソファーに座り寛いでいる姿は、チンピラっぽいのになんだかやけに様になっている。 マフィアのボスなんだから当然、ということなんだろうか。なんだか不思議な男だ。 「・・・でた」 そんな自分のボスとなった男へ、力なく呟いた。 身綺麗の限度がわからなくて、面倒臭いとグチグチいいながら、人生で初めて垢を全てとる勢いで洗える場所はくまなく洗って、かなりげんなりしてしまった。 憔悴して出てきた自分にジャンは「オツカレ」と苦笑いしている。 「って、髪ぬれっぱだろ。ちゃんとふけって」 「拭いたけど無理だった」 「アラマァ、なんてズボラな子かしら」 一応拭ったはずの髪からはポタポタと雫が滴れていた。 肩より長い髪がシャツを濡らして、背中に張りついている。 自分的にはかなり拭けたと思うのだが、ジャンはそう思わないようだった。 自分はまったく気にしていないのに。どうして他人は気にするんだろうか。 「ほれ、オニーちゃんが乾かしてやっから、来な」 「ぶぅ・・・」 やけに楽しそうに椅子をセットしたジャンは、自分を椅子へ手招いた。 面倒臭くてしょうがないけど、やってくれるというのならいいか・・・と、渋々椅子に腰掛ける。 着てなかった真っ黒いジャケットと掴んでいたタオルを一まとめに持っていると、ジャケットをジャンに取られ、ジャンは別の椅子の背にそれをかけた。 「あーああ。ジャケットびしょびしょじゃん。タオルと一緒に持ったらダメだろー?」 「これで子供じゃないなんてよく言えるな」とからかわれて、「うるせ」と拗ねる。 濡れたら乾かせばいい。勝手に乾く。 だから髪だって勝手に乾くのを待ってるだけだ。別にものぐさだとかそういうのじゃない。 自分の後ろに立つジャンは、タオルとコームを使って器用に髪を乾かしていった。 時々鼻歌なんか混じって、なんでそんな上機嫌なんだろ。とついジャンを見ようと上を向くと、「危ないだろ〜」と顔を戻された。 にこにこ笑って髪を弄るジャンは本当に楽しそうだ。 こうしてみると、ただの兄ちゃんだよな、と思う。 どうしてもこの人の地位とのギャップがあって、変な感じだ。 でもなんか、落ち着くんだよなあ・・・ 頭をマッサージするみたいに触られて、髪を梳かす感触が気持ちよくて、「あふ」となんだか眠くなって欠伸が出た。 (その手は無条件に優しい) |