8 otto 行き倒れて、傷だらけ。 ちっこくて細い体してるのに、態度は正反対の大物っていうか、無警戒というか。 男どもに殺気立って見られても動じない。今だって眠そうに欠伸なんかしてやがるし。 ホンット、面白いのがデイバンにきたよなぁ。なんて考えて、笑いが止まらなかった。 そしてこれが俺の初部下だと思うと、さらに楽しくて仕方がない。 ベルナルド達幹部や他の構成員達も、俺の部下には違いないんだろうケド。でも、やっぱりなんか違うんだよな。借りてきたものっていうか・・・自分のものじゃない感じがして落ち着けない。 だから、ようやく自分が好きにできる奴ができて、俺は内心喜んでいた。 俺が見つけた、俺だけの部下だ。 その部下になった奴を、他の奴らは信用していない。ベルナルドは注意しろと口酸っぱく言ってきて、ルキーノもジュリオも警戒している。 それはそうだろう。突然やってきて大暴れして、いったい何の目的なのか、こいつは何者なのか。そんな信用する材料が、こいつにはまるでないのだから。 だけど、俺はなぜかこいつにそんなもの抱く事ができなかった。 椅子に腰掛けて俺に髪をいじくられてるは、完全に無防備だ。俺への警戒なんてまるでしていない。 後ろから根首をかかれるなんて考えてもいないんだろーな。 そしてそんなだからこそ、俺もまったく警戒する気が起きないんだ。 たとえジュリオが認めるほどの実力者だとしても。 ルキーノが言うように男を片手で何人もブン回せるありえない怪物でも。 俺の目に映るこいつは、出会ったあの時から弱った犬を見つけて拾ったような、そんな印象だった。 もちろんこいつは人間で、犬なんかじゃない。けど、なんだか可愛がって世話したくなる。そういう気持ちが、こいつといると湧いてきてしまう。 ほんと、どうしちゃったんだろね。俺。 「ほい。できたっと。それにしてもお前の髪さらっさらだな」 キレイに髪を梳かして、とりあえず表面の髪が乾いた所でタオルを放った。 やけに短い前髪も、真逆に長い後ろ髪もつやつやのサラサラ。まるで上等な絹でも触っているみたいに指から零れていく。 「そうか?」とが首を傾げると、同じようにさらりと髪が流れた。 「ああ。豪毛って訳じゃないけど・・・」 バサバサで所々跳ねて頭部がペッタリしていたのが、今は小奇麗な顔にかかったそれは人形の髪みたいにまっすぐ整われていて。 あまりとがっていない顔の輪郭と、薄いまつ毛。身長は俺の鼻くらいのくせに、すっぽり腕の中に収まりそうな体つきで。 (こんなんで化物とか、フツーは思わねーよなー) 垣間見たアリエナイ怪力も、この姿を見ていると嘘なんじゃないかと思えてくる。 「ジャン?」 手を止めた俺を、不思議そうにが見上げてきた。その目に俺への不信や不安はない。なーんにも知らないガキみたいにまっすぐな目を俺に向けている。 純粋に、俺を信じている目。 ホント、なんでだろーね。俺のトッツアン安らぎ物質って、若者にも適応したのかしらん? 「いやなんでもね。ほい、髪ゴム。自分でできるだろ」 こうやって世話焼いてると、なんだか自分の方が和んでるよな〜とか思う訳で。 自身がつけていた髪ゴムを渡すと、は手ぐしで髪をまとめ上げた。まとまりきれてない場所は跳ね、均一にまとめられないから指が通らなかった所はボコボコ。ちっとも容姿に気を配っていない。 俺がせっかく整えた前髪も、「気持ちワルー」とのたまってぐしゃぐしゃにしてくれちゃってるし。 色気も何もない野生児に苦笑してしまった。 「つーかお前さ、安請け合いして良かったのか?こう言っちゃなんだけど、ヤクザなんてろくなもんじゃないぜ? 規律も厳しいし、寝れねえし、命懸けだし。そのうえ敵もイーッパイ。損のほうが大きいかもよ?」 今さらながらふと思って、俺はに問う。 ヤクザなんて、強制的に入れられるもんじゃない。本人が嫌だって言えば俺だって「そっか」で終わらせてなかったことにできた。 もし俺たちがどういうものかわかってないのなら、と思った最終確認だったのだが・・ 「なら、ジャンはなんでヤクザやってるんだ?」 逆に問い返された。 そー聞かれると、また困るよな〜。ある意味流されたっつーか・・・なるべくしてなったっつーか・・・ 「キツいのは慣れてれるから平気だ。むしろちょっと感謝してるんだ。だから、気にせずオレを使ってくれ。ボス」 俺が答えに困っていると、が話を進めた。 の表情に不満さは見られない。何も考えないで答えたような呑気さもない。 いっちょ前に大人の顔をして言ってきた。って、こいつ俺と歳変わらないんだったわ。 身づくろいも一人でできない奴なのにな。 これからの色々が楽しみで、にししと笑みを漏らす。 「んじゃ、行くか」と、を連れ出した。 (若きボスは笑う) |