★もたれ掛かる様子で5題




01:疲れた顔で(ジュリオ)


最近、激化してきたGDとの抗争により、戦闘員としての仕事が格段に増えている。
俺の部下だけでは足りず、ジャンさんの部下であるも駆り出されることになった。
俺たち二人は、特に人数の多い場所、広い範囲を手当たり次第に潰しまわっていた。

「なあ、さっきので何件目だっけ?」
「七件目だ」
「・・・・・・うげ」

さっきまで殲滅していた場所から少し離れた裏手通りで、はタンクに座りこんで嫌そうに舌を出した。
その顔には疲労がにじんでおり、匂いからも疲れが伺える。
俺と比べて大立ち回りをするこいつは、その分体力の消費も早い。
もっと効率よく行動できないのだろうか。こんなことではジャンさんの護衛としてまっとうできているのか甚だ疑問だ。
ジャンさんの事を考えて、そういえば最近顔を見ていないことを思い出してしまった。
ああ、あの人の姿が見たい。

「つーか、なんでジュリオは疲れてないんだよ」
「十分疲れているが」
「いや全然見えねーし」

真顔で首を横に振って否定された。
ここのところ出ずっぱりでアジトへは寝に帰る程度だった。
時には一人で行動し、時にはこいつと共に行動する。
その繰り返しは、さすがに体に堪えていた。

ああ・・・・ジャンさんの顔を一度でも見れれば疲労なんて消えてなくなるのに。



次の場所へ向かうため、迎えに来た迎えの車に乗り込んだ。
後何件か消さないといけない。

ふと、横で蠢いているが気になった。

「その状態で眠ると、逆に疲れるぞ」

座席の背もたれに、頭まで預け反らせて目を閉じているに言うと、目を閉じたまま手首が横に振られた。

「いや、マジで寝ねーよ。目ぇつぶってるだけ」

「目を開けてる方がしんどい」と言って、ぐったりとしているに、「そうか」とだけ呟いて沈黙。
人間は視覚からの情報が最も多く、行使するため、そこを使わないでいるだけでも十分な休息になる。
こいつにしては良い判断だ。

が、数分もしないうちには目を開け、俺を見つめてきた。

「・・・・・・なんだ?」

寝るんじゃなかったのか?と視線だけで見返す。
は目線を空中に彷徨わせて。

「いや、・・あー・・もしこれがジャンだったら、膝枕の一つでもしてやったんだろうなーと思っただけ」

何を言っているんだこいつは。

「当然だろう」

そういうと、は心底疲れた顔をして、前座席の背もたれに突っ伏した。

「聞いたオレがバカだった」

「なんかもお疲れたから、着くまで話し掛けないでくれ」と言って、また寝る体制に入った。

俺は俺で、帰った後に待つジャンさんからのご褒美を考え、英気を養うことにした。









02:どことなく悲しそうに(イヴァン)


「イヴァン・・・」

背後からの声と背中にかかった重みに、身動きができなくなった。
能天気でへらへらしているが弱った顔をするのが、どうにも俺は弱い。
ジャンの部下じゃなきゃ、正直どうでもいい目にもとまらねえはずの奴なのに、いつの間にか慣れ慣れしく懐いてきたこいつに、どうも俺は情らしきものを持っちまったようだ。
こんな真夜中に一体どうしたのか、振り向くとは悲しい顔をして見上げてくる。
そして、

「腹減った・・・」
「―――――――――知るかボケ」

じつに脱力する答えだった。
つーかアホか!! 馬鹿か!!!
精一杯悲しい顔して言うことがそれかよ!

「つーか、なんで俺に言うんだ。テメェのボスにたかればいいだろーがっ」
「ジャン、ジーサンと会食でそのまま泊まるから、帰ってこねぇもん」

―――――ああ、そういえばそんな予定だったか?
ベルナルドのハゲじゃねえからジャンの予定なんてきちんと把握してねえ。うろ覚えに聞いたことを思い出して納得した。

俺にたかる理由にはなってねえけどな!

悲しげに訴えるは、まだ粘り続けた。
うっとうしい事この上ないっつーのに、なぜか力任せに突き放せない。

・・・・・・・・・いや、本気でやったら突き飛ばされるのは俺の方だが。・・・・ファック。


「銀行で金下ろそうにもこんな時間に開いてる訳ねぇし、ガマンできねーんだよぅ」
「知るかっ!さっさと寝ろ! 寝ちまえば気になんねーだろうがっ」
「空腹で目が覚めたからムリ」
「水で腹膨らましとけっ!」
「水で腹が膨れるか!」


ああああああああああっ まったく! こいつといいジャンといい! なんっでこの上司と部下は俺を財布代わりに扱いやがんだ!!
俺はオメーラのマンマじゃねーんだぞゴラァァァァァァァァアアアアアッッ!!


―――――――――結局、俺とこいつの応酬は、気を利かせた別の部下がキッチンから簡単な食事を持ってくるまで続いた。









03:幸せそうに(ジャン)




正直、そろそろカンズメも限界・・・・・・
そんなことをお空に向かって叫んでみたい。
でもそんなことをしても、この目の前にある書類の紙束さんたちが妖精みたいに消えてくれるわけがないのは、わかりきっている。
わかっているからめんどくさくても。ひたすらめんどくさくても、せっせかせっせか書類の隅々まで読んで、判子押して。サインして。
――――なんか自動処理機みたいよね。残念ながら原動力は電気でもオイルでもなくて有機産物だけど。

「ジャン、コーヒーいれたー」
「おーグラッツェ」

俺の可愛い部下くん――の声が聞こえたのは、丁度今日の最低基準が処理し終わったころだった。
サインし終わった書類をまとめて、箱の中に入れておく。こうして処理済みかそうでないかは箱で一目りょーぜーん、てね。

コーヒーを淹れてくれたは、俺一人分のコーヒーをデスクじゃなくて来賓用のテーブルに置いた。
いつだったか飲み物をぶちまけて書類をダメにしたその日から、絶対にはデスクに飲み物を置いてこない。
俺もあの惨事の再来は勘弁したいから大歓迎だ。それにソファーはゆったりくつろげるしねん。
どっかりとソファーに移って、カフェインを一口。
んーうまい。ベルナルトのとこのじゃないけど、の入れるコーヒーもうまいんだよな・・・豆が違うんかな?
カップの半分までをすすって一息。
はー・・・いきかえる・・・・

「ふぃー、もう指が腱鞘炎になりそうよ」
「オレがサイン代筆できればいいけどな」

立ったままちら、とデスクを見たの目には、処理済みの紙より未処理の紙の方がやや高く見えているだろう。
俺の目にもそう写っている。
それを見るの目は悲しい、というより悔しいって感じだ。
自分の不甲斐無さなんてもんを感じているんだろうが、俺だったら相手をご愁傷さま。と思うだけで手伝ってなんかやらない。
見返りがあるならするけどね。
そんなことはきっと露に思ってないだろうは、純粋に俺の事を心配してくれる。
そういうのちょっと・・・・かなり嬉しいけど、でも背中がかゆくて仕方ない。

「いやー書類整理だけでも助かる。ホント。旨いメシも作ってくれるしね」
「そんなことしかできねーもん」

それに、仕事に集中して基本生活がままなっていない俺のサポートをかってくれるんだから、十分ですよ。
料理作んのは嫌いじゃねーけど、のメシを食べてからはあんまり作らなくなった。
そこらのヘタなコックなんかじゃ相手にならないの腕に、俺の舌も胃袋も大満足している。

「俺お前の作る飯大好きよ?なんつーか・・・オフクロの味?的な」

なつかしい・・・っていうのは、ちっとおかしい気もするケド。でも、ああ。これが家庭の味なんだな。と感じるくらい、の料理は温かい。
そう絶賛したつもりなのに、は微妙な顔して「そりゃ・・・どうも」と呟いた。
お気に召さなかったのかしらん?

しばらく観察すると、俺の視線に気づいたのか、目を右へ左へ上へ下へうろうろ動かして、何か思いついたように手を叩いた。

「あ、えーと。さっきベルナルドから通達があって、明日の予定はキャンセルだって」
「お、ラッキー!今日中の書類はカタがついたし、今日はこれでおしまいにすっか。―――――――はー・・・・疲れた」

いやあよかったよかった。また夜までカンヅメとか勘弁してほしかったしね。
のびーと体を伸ばすと背中がポキポキ鳴る。ダランとソファーに寄りかかれば体の筋が伸びて気持ちよかった。

「まだ残ってんじゃん」
「明日できることは明日」

きょーはもー、しごとしませーん。
そういうと、はしばらく何か考えた後、「ま、いっか」というような顔になってそれ以上突っ込まなかった。
うんうん。ありがとね。
はーそれにしても疲れた。もー無理。
なんか癒されてーなぁ・・・

「あ、。ちょっと肩貸して」
「え?」

ピン、と閃いた。
お願いされたは目を瞬かせる。
隣りに座るように指さすと、しぶしぶと座ってくれた。
うんうん。素直ね。
従順な部下に満足して、その頭を片腕で引き寄せもたれかかる。
予想通り、とても落ち着いた。

「これ・・・・肩っつーか、頭じゃね?」
「気にしない。気にしない」

目を閉じてさらに引き寄せ、自分が気持よくよりかかれるように態勢を直す。
は俺の行動にただじっとして、文句も言わずに寄り添ってくれた。


「な、ジャン」
「んー?」


しばらくそうしていて、すこしうとうと眠りそうになったころ。


「オレ、いて良かった?」


訊ねられた事に、俺はふ、と息を吐いて笑った。


「ナーニ言ってんの。お前なしなんて、モー考えられねーよ」
「・・・・そっか」


薄眼で確認すると、その時のは幸せそうに笑っていた。
そして俺へと軽くもたれて、目を閉じる。
そうやって二人、寄りかかり合ってる様が・・・・なんつーか、あったかくて。


――――――――これが幸せって奴かな、と、思った。










04:腕を組んでムスッ(ルキーノ)




「どうだ、このデザインは」
「ヒラヒラしすぎ。イヤだ」
「じゃあこっちは」
「露出しすぎだ!ふざけんな」

俺が掲げる上質のドレスを、目の前にいる外見も中身も女に見えない女は、何かにつけてケチをつけて却下を繰り返していた。

「お前はホンットウに我儘だな」
「つーか、なんでそんなにドレスが必要なんだよ!!」

どれもこれも一級品、しかもこいつに合わせたデザインだというのに、は何が気に入らないというのか。
そうぼやけば、根本的なところの文句が飛んできた。

「始めに作ったやつで十分だろーがっ、何着も何着もいらんもん作りやがって!」
「カヴォロ。世の淑女はな、もっと持ってんだよ。それこそ一回のパーティでドレス1着使い捨てにするんだ」
「・・・・・・・・・・・なんつーバカなゼータクを・・・」

一体これ1着でいくらしてると思ってんだ。金持ちはバカばっかか・・・とは心の底から呟いていた。

「それだけ女にとっちゃ勝負どころの場所なんだよ。いかに自分が美しく見えるかで、自分のステータスが高いと周りに知らしめる。それが未来の、もしくは今のパートナーのステータスにもなるってな」
「イミワカンネ」

肩をすくめて腕を組み、はむっつりと壁にもたれかかった。

「うちのボスのパートナーにすんなら、それなりに質のいいものを着てもらわんと困る」
「で? 本音は?」
「お前の着せ替えが楽しい」
「うわあ・・・・・・ヘンタイ」

に、と笑って言えば、嫌な笑い方で口の端をひきつらせた。
その顔のまま俺から遠ざかる。
失礼な奴だな。
俺直々のコーディネートはお前とジャンにしかしてないレアなんだぞ?

「とにかく、オレは着ないからな」
「無理にでも着てもらうぜ?」
「上っ等だォイ、やれるもんならやってみろ」

喧嘩腰に対立する俺たちの戦いは、まだまだ続きそうだった。


ま、最後にはジャンに指示させるだけで、こいつの負けは見えてるんだがな。














05:ぼんやりと(ベルナルド)





廊下を通っていると、が窓際でぼんやりと立っていた。

「そんなところで何をしている」

ジャンの近くにいないこいつは別に珍しくはないが、こんなところで暇を持て余していられるほどCR:5は暇ではない。
仕事も放っておいて何をしているのかと、声をかけるが、は窓の外を見つめ、ふう、とため息を吐いた。
俺を無視して。

「おい」
「・・・・なんで、空は青いんだろ?」

馬鹿な頭もとうとう末期になったか。
の呟きに自然と目が細くなる。

「なんで人が歩いてるんだろう」

冷めた目で見ている俺も気にせず、は窓にぼんやりともたれ。

「なんでオレの貴重な朝メシタイムが無くなってるんだあああああああ!!」

馬鹿な絶叫をした。

こいつの事だからおそらく寝坊したか、誰かに付き合わされて食べる時間を失ったんだろう。
が、同情する気にはならない。
そもそも俺は昨日の夜から何も食べていないのだから。
そのことを自覚して空腹を覚えるが、どうせこの後に待ちかまえてる仕事をしているうちにわからなくなるだろうと無視をした。


「あ・・・ベルナルド。―――いたのか」
「・・・・・・お前な」

ふうとため息をついたは、俺の方を向いて、俺に視線を向けた。
なんで気がつかないんだ。
普通気付くだろう。これだけ近くにいて、しかもさっき声をかけたんだぞ?
どうにも好きになれないボス直属に、眉間の皺が深くなる。

と、項垂れていたが、何かに反応するように顔を上げた。


「―――甘いニオイ」
「おい?」

さっきの項垂れから一遍し、フンフンと鼻を鳴らして俺の身体に顔を寄せ、ぐるぐると回り始めた。
そして何かに気付いたのかガバッ、と顔を上げた。

「飴玉!!飴玉持ってるだろ!」
「な・・・」

そのキラキラした幼児のような目で見つめられるのにも困惑したが、自分が懐に入れたものを言い当てられたのにも驚いた。
確かに俺のポケットにはロリポップが入っている。
時々ジャンが欲しがるため、いつ要望されても堪えられるように常備しているからだ。
それを嗅ぎ当てられるとは・・・・本当に犬なんだな。こいつは。

「な、くれ! オレにくれ! 頼む!このとーり!!」

見えない尻尾を振って物乞いをするには、きっとプライドなんてものはないんだろう。

「・・・・・一つだけだぞ」

そう思うと、張り合う気も、意地を悪くする気にもなれず、溜息を吐いてロリポップの、ジャンがあまり好きではない味を渡してやった。

「やった! グラッツェ!グラッツェ!! モルトコンテント!」

ロリポップ一つ貰っただけで、は見るからに大喜びして、飛び跳ねる。


「ベルナルドはイイヒトだな!」


にっと笑って去っていく、お菓子を与えられたワンパク犬。
コロコロ変わるその姿は、ジャンとは違う形の嵐だな。と思った。












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