「A Happy new year!!」

大量のクラッカーの破裂音と歓声に、全員が拍手する。

その様を一通り見た自分は、一瞬だけ湧きあがったテンションにひきずられながら、落ち着きを取り戻していく新年会の会場へくまなく視線を走らせた。
見たところ破裂音に乗じた襲撃はないようだ。
同じようにあたりを警戒して見ていたジュリオと目が合って頷きあう。
今回の警戒する山場の一つは乗り切ったことに、ふうと安堵のため息を吐きだした。

クリスマスから続く緊張や慌ただしさも、新年を迎えてしまえば終わったも同然だ。
新年を祝う、と言うことに関しては、慌ただしさはクリスマスほどではない。

アジアの国にはクリスマスよりも新年を重視するところもあるらしいが、ここがそうじゃなくてよかったと思う。
体力にはちょっと自信があるから、自分は乗り切れたが、幹部の奴らは精神的にも体力的にも辛い忙殺っぷりで、見ていて正直可哀相だった。
イヴァンはカードの書きすぎで腱鞘炎になりかけていたし、ベルナルドは睡眠不足で1度ぶっ倒れた。
ジャンはなんとか持ちこたえたけどしまいに笑顔が引きつっていたし、ルキーノはタバコの数が明らかに増えてイライラし、自分の服装に関してかなり無茶な注文をすることでそのウサを晴らしていたように思う。
ジュリオは、まあ、元気だ。それでも疲労は酷くて目の下に隈が濃くできていた。


「ジャン、そろそろ」
「ん。もう次の移動け?」

恰幅のいい男性と握手を交わしていたジャンに近付いて促すと、ジャンはほんの少しめんどくさそうに頷いた。
疲労がにじんでいる顔は、なんだか可哀相だ。
このパーティの主催者と参加している重要人物への挨拶は済ませてあるので、もうここにいる必要はない。
ジャンを労わるように腕を引いてやると、力なくついてきた。

「この後って・・・なんだっけ?役員の挨拶?」

ホールを出て、やや離れた後ろからジュリオと護衛の部下が続く。
手前で控えていた他の部下が扉を開けてくぐれば、黒のリムジンが既に待機していた。

「それは昼からだよ。この後は何もない」
「んじゃ、やっと休めるな・・・」

車に乗り込んで座ったジャンは、緊張が完全に溶けたのか今にも眠りそうな状態になっている。
タイを解いてシャツとジャケットのボタンをくつろげてやると、ずるずるとジャンの体が弛緩して背もたれに体が受け止められた。

「ジャンさん、お水です」
「んー」

ジュリオが注いだグラスを受け取って、ジャンは眠そうに飲みほした。

「グラッツェ・・・わり、部屋までもたねーかも」
「着いたら、起こします。ゆっくり体を休めてください」
「うん・・・お言葉に、甘える、ワ・・・」

言い終るか終わらないうちに、ジャンは夢の世界に旅立っていってしまった。
リムジンの隅に用意しておいたふかふかのクッションを座席に置いて、ジャンを横たえさせブランケットをかける。
幸せそうな顔で眠る上司を見下ろして、こっちまで眠くなりそうだった。

「お前も飲め」

ひっ詰めていた髪の毛を解いていると、今度は自分にグラスが差し出された。
ありがたく受け取って飲み干す。酒ばかりだった腹の中に水が注がれると、浄化されたような気分になった。

「Thanks。 生き返った」
「・・・・」

ジュリオは何も言わない。
外に危険がないか意識を向けている。
無視するこの男にも、不愉快を感じなくなったと思う。


そういえば、去年のこの日は、自分はどうしていただろうか。
あの街で、特別何もなく、1人で新年を迎えていたように思う。
冬になっても、春になっても、1人でずっと――――


でも、今年は。


「こんなことになるなんて、思いもしなかったな」
「・・・・・・・・・来年も、似たようなものだ。 もう音をあげたのか?」

ジュリオの言葉に、きょとんと眼を瞬かせる。
勘違いなのはすぐに分かった。そして、言われたことが可笑しくて、つい笑ってしまった。


ああ、自分は、来年も同じようにこいつらといっしょにいるのか。
そう受け入れられているのか。


そう思ったら、可笑しくて笑っていた。











おまけ






の話聞くだけだとなんだかパーティーばかりだけれど、本当に寝る間もなかったの?」
「――っ、うん」

ようやくクリスマスからの忙しさから解放された日常の1日目。
自分は、ルキーノの店のクラブで、用心棒も兼ねてご飯を食べさせて貰っていた。
なんだかんだとあれからアネッサとは仲がよくなった。時々相談とかもさせてもらっている。
今回のクリスマス辺りからの忙しさを話すと、アネッサはそう聞いてきて、詰め込んでいた食べ物を喉に通して頷いた。

「クリスマスと年始の宴会が6,7件と、教会の出しものを4件くらいはしごして・・・
 当日だけだったらこんな忙しくなかったんだけどさ、その間に作っとかなきゃいけない重役とか取引先の重役とかへ、カード書くのに何百枚も用意されて。それ手書きで書くのに人海戦術だったし。こっち主催のパーティーがあったから、それの準備でも動き回ってたし。
 その間に小競り合いがちょっと起こってなー。それでカードばっか書かされてストレス溜まったイヴァンが切れて、それなだめてまたカード作成させるのに結構時間かかったし。内容言えないけどまた新しい企業計画があるから、クリスマス後の年末はそれにかかりきりになって。また今度はGDの馬鹿がまた暴れて、それの制裁にかり出て。建物に損壊があったから、それでまたごたごたしてって・・・・まあ、色々」
「・・・・十分わかったわ。むしろ倒れなかった方が不思議なのね」
「オレは暴れたり、護衛や雑用くらいだったからいいんだけどな」

頭脳組は大変そうだったなあ。なんて、しみじみと振り返った。

「ま、これが終わったら、ちょっとバカンス的なことがあるらしいから、それでぱーっとするって」
「あら。じゃあどこかへ行くの?」
「どこかは知らないけど、着いていくと思う」
「ワォ! だったらも着飾らなきゃ! いえ、殿方を悩殺する水着とか揃えましょ!」

とたんにアネッサがはしゃぎだして、なんだか戸惑う。

「え、別にいいって。あいつらも好き勝手するんだし」
「なに言ってるの!殿方に愛でられてこそ女は育つんだから!むしろ誘惑する勢いで行かなきゃっ」
「ゆうわく・・・」

ついつい引きつった顔になってしまった。
やっぱり一生女という生き物は理解できない。
こっちを置いて行って話を広げているアネッサは、もう止められないんだろうと悟って、出された賄を平らげることで現実逃避した。