<テレビのはなし>
※注意※ このお話はフィクションであり、実際の歴史との齟齬や矛盾があっても笑って許して下さると大変ありがたいです。
本日のボスの仕事は、ベルナルド企画のキネマ撮影だ。
ジャンは端役なのでカメラに映るのは一瞬なのだが、メインの俳優の演技で何度かやり直す為、撮影には何十倍も時間を使うことになった。
その後他のカットも撮っていき、今日の撮影が終わったのは夕方頃だった。
「撮影お疲れちゃーん。今回の仕上がりはどござんすか監督様?」
「やあ、麗しい通行人その4さん。あとは編集次第と言うところかな」
「つまんない回答〜」
冗談交じりにかわすジャンとベルナルドはいつも通りだ。
CR:5の表向きの顔は撮影会社で通っているため、時々映画を作っては出している。
今回もその一環なんだが、その売り上げはまあ、そこそこ、といったものらしい。
「マァ、うちには今を煌めく作家様もいないしなぁ。ハリウッドは遠いってなぁ」
「済まないね、おじさんの才能が無いばっかりに・・・・・・・ごほっごほっ」
「アンタ・・・・!それは言わない約束じゃないっ!」
そんなことをいうものの、二人の表情は明るい。
特にベルナルドはいつもよりも楽しそうな表情だ。好きなことをしている人間って、ホント人生謳歌してるみたいな顔するよな。
「映画かー」
「ん?、どかしたのけ?」
ぽつりと1人ごちると、2人が不思議そうに見てきた。
「いや、映画ってさぁ、敷居が高いよなって。オレ見に行ったことねーしな」
「それなら今度、うちの作品見に行くけ?チケットならタダだぜ」
「ん、いや見たいっていうんじゃないんだけど。こう、金払ってまでいくのか?っていうのが、ちょっと」
キネマなどの娯楽は、大体は富裕層がターゲットになる。
実際はそこそこの稼ぎがあって、倹約すれば月に1回は見に行ける程度なんだろうが、そうまでして見に行ってもなんだか気後れしてしまう気がするのが自分の中のイメージだった。
そのせいか、金がある現在でもなんだか素直に楽しめないんじゃないかと思って、足が重たい。
「せめて家とか、簡単に見れたらなあ」
そうすれば、誰に気兼ねしないでも楽しめるのに。
「いやー流石にそりゃ未来すぎやしないかい?」
ジャンが首を横に振る。まあそうだよな。ただでさえ金がかかるってのに、家に映画館とか無理だろ。
「いや・・・・・・・」
しかし、ここで否定したのは、考え込んでいたベルナルドだった。
「確か数年前にイギリスで放送局ができたとニュースになった」と呟いて、またぶつぶつと考えことに集中しだす。
ジャンと二人何を考えているのだろうと顔を見合わせていると、何かひらめいたのか「ふむ。・・・・・そうか!」と表情を明るくした。
「ひょっとしたら作れるかもしれないぞ。家の中の映画館が」
ベルナルドの言葉に、 再びジャンと、今度は心配を表に出して顔を見合わせた。
それからのベルナルドは撮影を制作スタッフに任せて、電話の城で色んな場所に掛け合っていた。
電話の対応時にドイツ語やフランス語で交渉する姿もあり、一体何をしようとしているのかさっぱりわからない。
国を飛び越えて行うスケールの大きな事業展開だというのは、後々わかることだった。
「で、結局どうなりそうなの?家中映画館」
ようやくベルナルドの忙しさも緩和してきた頃、ジャンがふと尋ねた。
「結論を言えば、不可能じゃない。だか、今すぐにはできない」
ベルナルドはそれに対して少年のように輝いた瞳だ。
「まだ発明、開発しなければならないものがあるんだ。それができれば」
まだまだ本腰が入れられない状態なのに、ベルナルドは息巻いていた。
「何十年か先ってことか」
「とんでもない!後10年あれば完成できる!いや!してみせる!!」
未知のものへの挑戦に対して、ベルナルドは燃えていた。ジャンの気のないそぶりも、ベルナルドのやる気の焔に揺らめき一つ立たせられないようだ。
「ふっふふっ、ジャン、俺は、やる。やるぞ!」
「ベルナルドコエェ・・・・」
「楽しそうで何よりだワ。ダーリン」
「やるぞ・・・・・・!目指すはアメリカ初の放送局設立だ!!」
この時のベルナルドは、それこそ世界レベルの戦争が起きたって、もう誰にも止めることができなかった。
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