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「オコタサイコー。ニッポンに移住してー」
「駄目だ。出たくねえ。なんじゃこりゃ。新手のテロか?拘束道具か?」
「ジャン、さん。ミカン、向けました」
「オウ、ジャパニーズオレンジ。・・・・・ン、あまっ!ウマッ!」

ジャンとジュリオ、そしてイヴァンは炬燵を占拠し、紅白をみていた。

なぜ日本なのか。その理由は特になく、単純に全員でバカンスをとダーツで決めた結果だ。
デイバンの仕事のあり様は忘れたことにする。
帰ってきたら現実と向き合わなければならないのは分かっているが、少しくらい忘れたってバチは当たらないだろうとジャンは考えている。
あと時代背景とかも考えちゃいけない。

海辺の別荘を借りて、ジャンたちはしみじみとくつろぎ、ミワの歌声を聴いていた。

と、とうとうキッチンからずっと漂っていた美味な匂いが完成したらしい。
6つ分の鉢をトレイに乗せたと、その後ろでフォークを持っているベルナルドがやってきた。

「トコセシソバできたぞー」
「年越しソバだ」

もはや何を言っているのかわからない。

年越しそばという未知の食べ物だったが、きっちり完璧に作り上げたのはさすがである。
は全員分の鉢を配り終えて、一番テレビが見えずらい位置に腰を下ろした。

「あれ、ルキーノは?」
「ジャパニーズニューイヤーを満喫するって言って、○ャスコまで車飛ばしてった」
「あ、・・・そー」
「先に食っちまおうぜ。腹減ったわ」
「そうだな・・・」

と、非情にも全員がフォークを手に蕎麦に手をかけたところでルキーノが帰ってきた。
大変空気の読める男だ。

「おーおかえりルキーノ」
「俺を差し置いて食べようとするとは、なかなかいい度胸だな。お前ら」
「マー、マー。間にあったんだから。で・・・・その大量のは何買ってきたの?」
「ジャポーネのオセチ、カザリモノだな。見た目は質素だが、まあ、悪くないと思うぞ」

まずルキーノが取り出したのは鏡餅だった。
金色の紙でできた三方に乗った鏡餅。箱に入っているため全容が見えずらいが、見たこともない飾り物にジャンはオオーと感嘆の声を挙げて、セラフィン越しにまじまじと見つめた。
次に出したのは松飾と注連縄。
小さいが立派な門松と、一体どこにつける気なのか、対象的に子供の腕程の太さの注連縄に、イヴァンは引いた。

「なんっじゃこりゃ・・・・こんなもんをジャパニーズは何に使うんだよ」
「自分で調べろ」
「ッテッメ!」
「教えてージュリオちゃん」
「門松は神を呼ぶための儀式。注連縄は、悪魔を家から守るためのものです。ジャンさん」

コロッと笑顔になって説明を並べるジュリオに、イヴァンが叫ぼうとしてやめた。
無駄なものは無駄なのだ。学習しよう。

「で、この3段の箱はなんだ?」

ちゅる、と蕎麦をフォークに巻きつけて食べているは、朱塗りの箱を指さした。
ルキーノの顔がにやりといやらしく歪む。

「お前の好きなもんだよ」

蓋を開けた箱の中からは、綺麗に並べられたお節料理が現れた。
初めて見た面々は、「オオ・・」「美しいな・・・」「じゅるり・・・」と感嘆の声を上げた。

「まるでピッカピカの石を詰め込んだ宝石箱みたいじゃん。え、すっげ!これニンジンか?この花!」
「下の箱も詰まってる!!やべえ!食べてええ!!!つか食べるのもったいねー!!」
「こりゃ明日の朝食べるもんだ。今食おうとすんな」

他にもローストビーフやジャパニーズワイン(日本酒)、赤飯、扇と、本当に色々買ってきたらしい。
ポチ袋が出てきた時は、お年玉の習慣が無い彼らは全員で首を傾げた。

「ううー、今はシバで我慢すっか・・・・」
「ソバだ。それはジャポーネの犬の品種だ」
「明日の予定ってなんだっケ?」
「近所の教会に行くぞ。ジンジャ・・・だったか?」
「そういえば、餅つき大会をすると、チラシが来ていました」
「へー、どんなもんかね」
「文化が違いすぎるから何を見ても面白いな。この国は」

しばらく炬燵の中で大人たちは歓談し、蕎麦をすすって温まった。
いつの間にか紅白は終了し、番組は寺の鐘の音が鳴るゆく年くる年に変わっている。


「お、もーすぐ年明けだな。んじゃ、全員せーので言おうぜ」




「せーの」







Uno! Buon anno!










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「おーほお!!、キモノ似合ってんじゃーん」
「そうか?」

男所帯の中の唯一のお花は、東洋の島国の民族衣装に包まれた自分を見下ろして、ジャンの賞賛にほんのりと頬を赤らめた。

赤い布地に色とりどりの牡丹があしらわれた振袖に、鞠の柄が縫われた金地の帯の衣装はによく似合っており、うんうんとジャンとコーディネートしたルキーノが頷く。

「馬子にも衣装、だな」
「胸がないから、和装が似合うんだろう」

冷めた感想を述べたのは、ベルナルドとジュリオだ。
イヴァンは車の番をしているためここにはいない。

振り袖姿のをは異なり、ほかの男たちはいつものスーツではないが、それなりにめかしこんだ格好でいた。
折角の異国でニューイヤーを祝うのだからと、カジュアルではあるが当たり前にブランド服に身を包んでいる。
周りの店員は商売人としての顔を崩さなかったが、一体この集団はどこのセレブかと脳内で勘ぐるのも無理はなかった。


5人組はそのまま待っているイヴァンの車に乗り込んで、次は神社だ。
異国の文化も楽しんでいけと、徹底的に観光するつもりだった。


辿り着いた神社の駐車場に車を置いて連れ立つと、それなりに大きいその神社は人の列でにぎわっていた。

「うおー、すげー・・・これがジャポーネ名物のギョウレツか・・・」
「なんでこんなに人いんだ?どっからくるんだ??つか、そんな周りに人が住んでんのか??」

眼をむく犬コンビに、狂犬が説明する。
いわく、ここは由来のある神社で、参拝客が毎年多いらしい。
ここは本殿の前から20mほどの列が並んでいるが、これは短いほうで、場所によっては鳥居の外から100m以上並ぶところもあるのだそうだ。

「ジャパニーズはマゾの種族か?」

思わずイヴァンがそう呟くのも無理もなかった。



並ばなければどうにもならないので、まず手水で身を清め(ジュリオが手ほどきして全員に教えた)、行列に並んで中央に穴が開いた5円玉が配られた。

「ジャンさん、参拝は2礼2拍手1礼、です」
「オッケーオッケー。あの鐘はいつ鳴らすのん?」
「あ、頭を下げる前に鳴らします」

「ここでスリにあっても、気が付かねーんだろうな。こいつら」
「おいおい。いくら他教とはいえ神前の前できな臭いことはするなよ」
「わーってらファック」

なんだかんだと雑談をしている間に6人の順番になり、そろって参拝を行う。

パンパンッと柏手が響いてから、は手を合わせて願い事を浮かべた。

(今年はものを壊すことがちょっとでも、減りますように・・・)

消極的な願いを神様にお願いしてから、はちらりと横目で周りにいる男達を盗み見た。

(あと、誰も死んだりしませんように・・・)

重ねて願い事をすると、周りが動き出す気配がしても慌てて礼をして後に続いた。

「あークソ肩凝るぜ、ったく」
「お、みろよあそこ、モチついてるぞ」
「この後はどうする。寺でも行くか?」
「ソーネ・・お」

すぐ隣にあった社務所に目を向けたジャンは、色とりどりの守りや破魔矢ではなく『おみくじ』と書かれた八角形の木の置物に目を止めた。

「ジュリオ先生ーアレナ〜に?」
「おみくじ・・・今年の運を占う道具です」
「ほう」
「ジャンにおあつらえ向きだな」
「つか、確実に結果がわかんじゃねーか」

それぞれが呟きつつも、足は自然とそちらへ向かっており、ジュリオが流暢な日本語で6人分のおみくじをお願いした。
それぞれ引いて、棒に書かれた番号は読めないため、棒ごと巫女に渡して用紙を受け取った。

「んじゃ、いっせーので見せんぜ?いっせーの」

ばっと全員輪になって見せ合う。日本語で書かれているため全く読めないので、やはりジュリオに通訳してもらうことになった。

「やっぱりジャンさんは、すごい、です。大吉です。一番、いいものです」
「おー!さっすが俺」

ニコニコ顔のジャンは紙を見つめてキスを落とす。
その他、ベルナルドは末吉、ルキーノとイヴァンは吉、ジュリオは小吉だった。

「なあなあ!オレは!?オレは?」

唯一言われていないがジュリオの袖を引っ張って促す。
するとジュリオは冷めた目で烙印を押した。

「お前のは大凶だ」
「だい、きょう?」
「今年は最も悪い運勢、ということだ」

「今年は死ぬな」とどうでもいい天気の話をするように呟かれた言葉に、はショックを隠せなかった。

だいきょう。
一番悪い運勢。

つまり、神様もそっぽを向いてるということで。

(オレの願い事・・・叶わねーのかな・・・)

あからさまにしょぼくれたは、紙を握りしめて破けそうなほどしわくちゃにした。
その様に見かねたベルナルドがの肩をたたく。

、その紙を渡せ」
「? なにすんだ?」
「あそこに紙がくくられた紐があるだろう。あれに結びつけると吉凶もよいほうに転ぶとされている」
「ほんとか!!?」

希望の光を見出したは、早速みくじ掛に駆け寄って、おみくじを結んだ。

「紙を破かないように気を付けろよ」
「できた!これでいいか??」

細心の注意を払って結ばれたおみくじの紙は、かなりよれているがしっかりと紐に結びつけられている。

「ああ、大丈夫だ」
「やった!」

再びに笑顔が戻ったことに笑みを浮かべて、ベルナルドの手がの頭をなでる。
その後ろでジュリオが「もうちょっとやさしくしなさいよ」と若干責められ、ジュリオが泣き出しそうになっているのをなだめるという作業が繰り広げられていた。

なんとも面倒くさいやり取りである。


、大丈夫だったのけ?」
「おう!ちゃんと結べたぞ!」
「ソ。よかったなー」

ジャンのもとに寄ってきたの頭を撫でて、でも、とジャンは思う。

「でも別に、大丈夫だったんじゃねっかなー」
「?なんでだ?」
「だって、俺は大吉だろ?で、はいっつも俺のそばにいるわけジャン?」
「?? おう」
「なら運気も相殺されるとおもわん?」

パチリと目を瞬いて、言われたことを反芻したは、横に首を傾げた。

「そうか?」
「ん」
「そうなのか・・・?」
「ソウソ」

なら、大丈夫、だろうか・・・?


「今年もよろしくね。
「おう!今年もなんでも守ってやっからな!!」


きれいにウィンクしたジャンに、も笑顔で答えた。











※2013、2014年の正月拍手でした。※