<たわむれに>






「ん〜・・・・」


唸るように、考えるように、俺は無意味な声を上げて首をひねる。

「なんだ?ジャン」

その視線の先にいるのは
俺の部下。

黒髪・碧眼の伊日ハーフというそいつは、小柄で細身。なかなか整った顔をしている。
傍目には華奢で弱そうだが、その実は、我が家最強のジュリオちゃんですら叶わないだろう怪力の持ち主である。

一度暴れたら誰にも止められない暴れっぷりから、つけられた異名は猛犬。
過去、暮らしていた街でつけられた名は、今ではこのデイバンでも知れ渡っていた。

そんな頼もしい俺の部下。
ラッキードックの異名を持つ俺をボスと決めて、俺に対しては決して噛みつかない可愛い可愛い子犬ちゃん。
・・・・物理的な意味でなく、見た目的にデスヨ?

首を傾げて俺を見上げるそいつと俺は、机を隔てて見つめ合っている。
俺は自分の執務机から。は来賓用のソファーから。

「んー」

もう一度俺は唸り、ついた手に顎を乗せてを見つめる。

「ジャン?」

は今度は心配そうに首を傾げた。
唸ってばかりの俺が、深刻な悩みでも抱えていると思ったのだろうか。

確かに悩んでるケドね。
その内容はとってもくだらない。

「ん」

俺は決断して、立ち上がった。

「? どこか行くのか?」

先回りして一緒に立ち上がり、かけられたコートを取りに行こうとする
俺はそれを手で制して、をソファーに座りなおさせた。

「キスしてい?」
「へ?」

の目が丸くなる。
理解不能なことを聞いたようなの反応にはかまわず、顎に手をかけて上向かせる。

「は、え?ジャン??」
「なんかスッゲーしたい。オメルタ権限で拒否権なしね」
「ちょ、」

戸惑うを無視して、手始めに軽く唇を押しあてた。

うん。感度は良好。
不快感もない。

いけそうだ。

一度離して、口全部を覆うように塞いだ。
視界の隅での顔が真っ赤に染まっていくのが見える。

「っ」

喉が震えて、口元が揺るんだのをついて、舌を滑り込ませた。
唇をはむはむ食べるのでも良かったが、やはり中まで楽しめるなら楽しむのが一番。

「ふ、ぅ」

奥にあった舌先をチョンと突いて、前歯の裏を撫でる。
そのまま歯の形を辿って奥歯まで。下の段を奥から前、逆側へ。
縮こまってる舌の裏を撫でれば、「むっ」と唸って逃げようとした。
右に逃げれば追いかけ、左に逃げれば追いかけを繰り返し、逃げられないと悟らせてから誘うように舌を撫でる。
恐々と、それでも緩んだそれを絡ませて、唾液を掻き混ぜ合う。

予想以上に、それは気持ち良かった。
ぎこちなくされるがままのにはなんだが、このままずっと続けていたいくらいには。

引き寄せた舌を甘噛みしていたころ、の手が俺の袖を引っ張った。
たぶんすがるために伸ばしたんだろうが、いかんせん普通にしていても力が強いから、引っ張られているのと変わらない。
おびえるようにそろ、と、親指と人差し指でつまんでいるそれに、気分はさらに盛り上がる。

時々応えるみたいに動くが可愛くて、あーもう・・・俺って変態?ぐちゃぐちゃに絡ませて吸いつきたい。
つーか、ちぎって食いたい。

「ん・・・っ・・・・・ぅ・・・・ぅぅ・・」

それでも抑えて、相手を気持よくさせようと舌の縁をなぞっていたら、の喉から甘い吐息ではなく、苦しそうな唸りが聞こえた。
手もブルブル震えてるし。

あー・・・これは・・・・

口を離すと、は「ブハっ」と大きく息を吐いて、一生懸命呼吸を繰り返した。

どうやら息をずっと止めていたらしい。
ま、慣れてるように見えないしねー。

「はぁ・・・・は・・・・っ・・・・」

口元に垂れる唾液をぬぐってやると、ひくっと口元が揺れた。

「な・・・・なん・・・・なん・・・・・で」

かあああああと、苦しさだけじゃない赤面。

「したかったから」

もう一度ちゅ、と音を立てて口づければ、「ひゃ」とのけぞられた。

単に、そういえばこういうのがご無沙汰だったなーと思って、そうしたら、無償にしたくなってしまった。
かと言ってその手の店に行くのもなんか違うし、と思ったらに目がいって。
悪くないと思ってしまったのだ。

だからした。
拒否権はなし。
なんか違うと思ったらすぐやめる気だった。
そんな遊びみたいな気分だった。

は口をパクパクさせて、声もない。
相当驚いている。
ま、そりゃそうだ。

「こ、こういうの、男にもすんのか・・・??」

やっと搾り出して出した問いに、「はぁ??」と変な声が出た。

「なんで」
「だ、だって、衝動的・・・なんだろ? オレじゃなくてもよかったんだろ?」

まあ、確かにそうだ。
始めはどこかのキレーなネーちゃんと。とも思ったのだし。
でもねーさすがにごつかったり、ガタイのいいヤローにはやろうと思わんよ。
俺にそっちのケはないし。

そーねーしいてあげるなら。

「お前だったから?」

女でも食指が動かなければしようと思わない。
ということは、俺にはこいつはそういう対象に入るということだ。

いいねー。
使えて頼りになって、さらにお楽しみもできるなんて。

ちゃんも、よかった?」
「んな!?」

意地悪にそう聞くと、は信じられないと顔を上げる。
まだまだ俺のマウントポジションは変わらない。
こいつも逃げようと思えば逃げられんのに。混乱してその場を動かない。

「俺はよかったぜ?」
「な・・・ぁ・・っ」

それをいいことに、俺はまだまだを苛める。
純情なこいつの反応が、いつまでも見たいから。

「次にしたくなったら、またお前にするわ」

今度こそ絶句したに、俺はちょんと指で唇をつついてやった。


それからしばらく、俺に対してガチガチに固まるに、周りは何事かと不思議がり。
俺はその反応が面白くてその度に笑い続けた。







 END




――――半分、本気に。


Sっ気酷いジャンさんだなあ。完全におもちゃにされているに合掌。
キス話が衝動的に書きたくなる時だってあるさ!
こういう話がまだ本編じゃまだ書けないのかと思ったら、カッとなって書いてた。
反省はしてない。

らくがきより転載