<ついった診断 幸運犬編 ―暑いから好きな人に冷たい飲み物を渡してみったー より―>
今年も暑い夏がやってまいりました。 byCR:5一同
「あー・・・まさかまたこの地獄に出会うことになろうとわ・・・マジでおもわなかった・・・・」
「オイ、この温度計壊れてんぞ。40℃ってどういうことだファック!」
「こうやって男所帯でまたローストとは・・・いや、一人女性がいたな」
「オイ。それは嫌味かメガネ。その鬱陶しいワカメ散らして頭を涼しくさせてやろうか」
「ふはははは。お前の尻尾も暑いだろう。俺が直々に切ってやろうか。バリカンで」
デイバンの郊外にできたスパの、そのホールで、俺たち―――俺とイヴァンとベルナルドとは、切ないほど範囲の狭い陰に設置されているソファに寄り集まっていた。
よりによってなんでスパでこんな目に会わなきゃならんのかと、つくづく思う。
涼みに来てんのにゆでダコ。
アスファルトで直火焼き。
室内で蒸し焼き。
なんてことですか神様。
どういうことですか神様。
そう。やってきたスパは、一体何のいたずらか、今日の朝に停電し、営業停止になっていた。
幹部がそろって納涼に選んだスパを貸し切ってまでやってきてこの仕打ちはない。
現在その原因と復興のために経営者たちが走り回っているが、ほんとに今日中に動くのか?という状態だった。
幸運の女神様はとうとう俺を見放したのかね。
ぎゃーぎゃーと醜い毛髪の争いを広げている隣りをほっといてため息ひとつ。
すると、この状態の改善に動いていたジュリオとルキーノが箱を持って戻ってきた。
「ジャンさん。涼めるものを、持ってきました」
「うっほ!マジ!!・・・ってぇ・・・これ、なに?」
ザックザクの氷の天使風呂に入ったその物体に、俺は首を傾げた。
青いガラスでできたそれは、とてもセクシーな形をしている。その中には液体が入っていて、どうやら飲みものであることは間違いない。
「日本の飲み物で、ラムネと言うらしい。今年のイチオシにして売り出すものだったのを頂いてきた」
「ラムネ…」
いち早く反応したのはだった。
興味深そうにしげしげと眺めて、ラムネを手に取る。
「な、な!飲んでいいか!これ!」
そういいつつ、は既に飲もうとしている。
ビンを傾けて飲み口を口に押し付け―――――眉を寄せた。
「なんだ?これ、出ねえ」
逆さに振っても、液体は出てこない。
どういうことかと憤慨するに、ルキーノは大笑いして説明した。
「ガラス玉で詮をしてあるんだよそれを下に押し込んで飲むんだと」
「押し込むって、この穴じゃ指入んねえよ」
「指で開けようって発想すんのはお前くらいだよ」
呆れたルキーノの突っ込みをよそに、隣からポンっという音がして振り向くと、ジュリオがラムネを差し出していた。
「ジャンさん。どうぞ」
「あ!ジュリオ!お前どうやって開けたんだよ!!」
「黙れうるさい」
それに気付いたはジュリオに飛び付き、一蹴された。
ぎゃーぎゃーとかしましいはまたルキーノに飛び付いていく。忙しい子だね。本当。
「ずりー!ルキーノ早く教えろよ!」
「まてまて。この栓抜きを使うんだ。これを飲み口に入れて…」
T字の形をした丸い栓抜きを取り出して、飲み口に当て、グッと手のひらで押す。ポンという音がして、玉が液体の中に入り込み、栓が開いた。
「おおお…っ!カッチョイイ!!よしっオレもっ」
詮抜きを手に入れたが意気揚々と詮を開けた。
ポンという小気味よい音には目を輝かせ、次には丸くした。
「ウワアアアアアアアッッ なんだこれ!ドンドン溢れてくるっ!」
栓と飲み口の間から液体と泡が溢れだし、床を濡らす。あー、この現象は見覚えあるぞ。
「炭酸なのか?」
ベルナルドの問いに、ルキーノが頷いた。
シャンパンしかり、コークしかり、密閉されたビンに入った炭酸は振り回して開けると酷いことになる。
「お前上下逆さにして盛大に振ったからなあ。こりゃ半分残らないな」
「うわああああっ!なんでだよおおおおお!!ひでえよおおおっ!」
絶望したは、吹き出しの止まったビンの中身にさらに嘆いた。
「イヴ〜ァン! かえてくれ!チェンジ!!」
「ざっけんなファック!これは俺んだっつの!」
涙を流しながらイヴァンに突撃し、拒否られて、ぐすぐすと泣いているうちに、のラムネのビンは残り4分の1になっていた。
「ほらほら。まだあるから。もう一本飲めばいいでしょ」
さすがに可哀相なのでそう促してやると、「うぅ」とは呻いて涙を拭い、一息にラムネを飲みだした。
ラムネを飲み干したは、目をキラキラさせてもう一本と、意気揚々と手にとっている。
まったくもうお子ちゃまなんだから。
その後も誰彼が何かを持ってきたり工夫したりで、俺たちは思い思いに涼を貪っていった。
ホントはプールで泳ぎまくるのが一番いいんだけどねぇ。
経営側の検討虚しく今日中には無理らしい。
ま、直ったら今度は無料で入れる権利はもぎ取ったから?こっちとしては問題はないですけど。
「あー気持ちいい。氷サイコー。現代バンザイ」
タライにいっぱいにした水に足を浸け、頭に氷嚢をのせて贅沢に涼を楽しんで溶け続ける。
今は暑さすらいい刺激だ。
いや、やっぱ暑いものは暑いか。
「あー、のど乾いた・・・」
こう、汗ばっかかいてると飲み続けても喉が渇く。
手元のグラスに入っていた水分はもう空だった。でも取りに行きたくない。
というか、今のひんやりフィールドから出たくない。
「・・・飲むか?」
どうするか、と考えていたら、ラムネの瓶が差し出された。
その手の主は、だ。
「え、いいの??ワリーな。サンキュー」
はじめに片したはずのラムネをは隠し持っていたらしい。
飲みかけのそれを受け取って、・・・・・・・・・・・・・・飲みかけ?
「・・・・どした?」
ちら、っとを無意識に見てしまい、それに首を傾げてきた。
「んー・・・・・・いや。まあ、あっちぃのも悪くなかったかな・・・・なんてな」
なんと言えばいいのやら。
気恥ずかしいのを誤魔化して、俺は意を決して飲み口に口をつけた。
end
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