ガチャ 「あ、先生?」 『!?か!!元気なのか?!』 「うん、俺。ごめん、なんか心配かけたみたいで」 『いや、今元気なら良いんだ。お母さんから君がどうしてるかは随時聞いてたよ』 「え、そうなのか。母さんから聞いてたんだ」 『そうなんだよ。後、お前が参ってる時に見舞いにもいったんだぞ?』 「マジかよ。全然気が付かなかった・・・」 『アハハ。お前ホントに何も見えてない感じだったから・・・・もう。大丈夫なんだな?』 「うん。ありがとう」 『そか、そうか。が元気になってくれたなら、俺も・・・っ・・・うう・・』 「おーい・・・いい大人が泣くなよ」 『か、感激屋と言ってくれ!』 「ほーんと先生は・・・」 『――――それで、今はオノゴロの施設にいるんだって?』 「母さんそこまで伝えたのか?あ〜・・・まあそういう事でさ。当分帰れないっていうか・・・」 『そうか。うん。分かった。じゃあ、そこで課題完成させたら帰って来いよな!』 「え・・・そこでそれをいうのか?」 『とーぜーっんだ!!曲がりなりにも俺は教師だからな!一ヶ月以上休んだ罪は重いんだっ』 「・・・・・・で、課題は?」 「電話、ありがとうございました」 受話器を落として、受付の人に礼を言って、俺はその場を後にした。 受付の人は無愛想に目礼して、興味を失ったように雑誌に目を落とす。 それを横目に見つつ、俺は外に出た。 今日もいい天気だ。布団でも干したくなる陽気だな。なんて、ちょっと所帯じみたようなことを考えてみる。 とどのつまり、暇なんだよな。俺って。 先生が課題出してくれなきゃ、自分で作ろうとしてたもんなぁ・・・ ぐしゃっとポケットから出したのは一枚の設計図。 課題に出されたのはロボット一体の製作。 タイミングがいいというか・・・・なんというか。心読まれたか? 軍施設に行ってから、次の日。 つまりキラと再会してから次の日。 キラはカガリに引きずられて出て行き、俺は何をするともなくぼけ、と過ごしていた。 キラはずっと仕事に追われてたし、カガリはカガリで用事があるらしく捕まえられなくて。 他の人たちも、自分の暇つぶしにつき合わせることなんてできないし。 本当に何もすることがなかったから、俺は紙一枚とペンと定規を借りて思いつくまま設計したのだ。 自分が作れそうで、本当にできるのかというギリギリの設計のそれを書き終えて満足した後。親から電話があったと呼び出された。(内容はいつまでいるのかというものだった) その後で、いい加減、学校の方に連絡を取らなければならないんじゃなかろうかと電話を借りて、そして現在にいたる。 とりあえずまずは機材と材料集めだな。 借りられるんだろうか? っていうか、貰えるのか? なんて、心配したのが馬鹿馬鹿しくなるほどあっさりと解決したよなぁ… コードの取り付けをしながら、しみじみ思う。オーブって暢気すぎやないかと。 貸してくれた機材は最新式から本当に1しか変わらないものだったし、材料も廃棄してるのがもったいない物ばっかり。 金がもったいないと、つい思ってしまった。 その代わり、完成品を見せろってシモンズさんと約束させられたけど。 プロに見せるのって、怖いよな。 設計図の時点でかなり手を入れられたし。 そのせいで難易度高くなって頭抱えたこともあったし。 まあでもそのおかげで予想以上に満足がいくものができそうなんだけど。 「よ。はかどってるか?」 ふと、扉が開いてやってきたのはカガリだった。 俺は手を上げてカガリに挨拶し、カガリも答える。 カガリはほとんど毎日のように自分の所に通ってくる。 他にもキラのところや、シモンズさんのところや、その他の施設。いろいろ巡回しているんだそうだ。 俺には暇つぶしにしか見えないけど。 カガリは俺が作業しているデスクの画面を見て、うわ・・と声を漏らした。 「何がなんだかさっぱりわかんないな。これお前一人で作ったのか?」 「ああ。シモンズさんに見せて、大分手直しさせられたけど・・・」 「はー・・・私には無理だな。こんなの簡単そうにできないぞ」 「いや、俺も結構時間かかってんだけどな。でもできない訳じゃないから」 「兄が兄なら、弟も弟か」 カガリにしみじみとそう言われて、俺はキーボードに打ち込みながら、苦笑した。 兄貴がここでOS開発を任されたという話を聞いたのはあの日の夜だった。 その前のことも、今まで何をしてきたのかも。全部、全部聞いた。 そして、世の中の理不尽さに、反吐が出そうになった。 腹が立って、どうしようもなく腹が立って。でも、自分じゃどうしようもできないことが、さらに自分を嫌にさせて。 いつまでも笑っているだけの兄貴がいなくなったことが、嫌な気分にさせた。 「その兄貴は今日も整備に調整。明日の出発のために会議に出て。ただの学生から半年も経ってないのにな」 苛立ちや不快感をなるべく表に出さないようにして淡々と言った俺に、カガリは目を瞬かせた。 顔には驚いたとかいてある。 「知ってたのか」 「全部聞いたから。これからの、先行きの見えない未来のことも」 明日、兄貴たちが乗った船――アークエンジェルの最終目標地点、連合軍本部のアラスカへと発ってしまう。 そこへ行って、行ったとしても、本当にそこで軍から抜け出せるのか。それともそのまま軍人のままなのか。もっと最悪のことが起きるのか。 ちゃんと、帰ってこれるのか。 軍の内情なんて未知数で、俺にはわからない。 兄貴もどうなるのかわからないと言っていた。 ここの人たちを見てると、こんな不安もしなくてもって思うけど、連合とザフトはいつだって火花を散らしている所だから。余計に不安になる。 「で、俺は暇を持て余さないように趣味と実益をかねるってワケ」 暗くならないようにそう言い終わらせて、俺は肩をすくめた。 「キラの顔は見に行かなくていいのか?」 「俺が行ったら行ったで仕事の邪魔になるだろ」 いろんな意味で。 それに、もうキラと顔をあわせるのは、しないほうがいい気がする。 会っても、もう自分にできることは何もない。 何も知らない自分には、何もできない。 でも、俺は、傍にいたいんだよな・・・ 家に帰ることは、実は簡単にできた。 なぜかヤマト家にとても友好的なウズミ代表は、「いつでも帰りたい時に帰りなさい」と、自由を許していて、帰りたい時に伝えれば帰りの交通を用意してくれるとのことだった。 本当、ありがたいことだと思う。 その有難さに便乗して、俺はキラを見送るまで滞在したいとお願いした。 一緒にいられないならせめて、いられるだけ同じ場所にいたかったから。 (ま、自己満足なんだけど) それでも、会うことができなかった父さんと母さんの分だけでも・・・・ 「おい?なんかずーと同じスペルなんだが、大丈夫なのか?」 「あ、やべっ」 指摘された間違いを直すために思考を切り替えて、デスクトップに集中する。 そこから、俺はもうキラのことを考えるのをやめた。 ―――――明日、オーブを去る。 「マードックさん。こっちの修正終わったんで、後お願いします」 「おう。おっと、あっちのアレを頼めるか?」 「分かりました」 僕はマードックさんが指した方の機器に向かって、作業を開始する。 ストライク、スカイグラスパーの調整に次ぐ調整。その他にも今後のザフト対策や戦闘機銃の調整等、やることはたくさんある。 本当は、ストライクは機体を動かして最終チェックをしたいけど、さすがに認められていない。 できることといえば、艦内で手足をゆっくり動かす程度だ。 それでも、できる限りのことはしないといけない。 明日、オーブを発つ。 それは、また戦場を駆け抜けるということだ。 戦闘の要と言えるストライクの調整は、どんなにしていても無駄にはならない。 ふと、僕の脳裏に夕焼け空が浮かんだ。 緑色のロボット鳥を持った、フェンス越しの彼の姿。 ――――アスラン 大切な友達。 今でも、大事な友達。 たとえ、今はお互いの立場のために敵となっていても。 それでも僕は、絶対に彼を殺したくないし、本当なら戦いたくもない。 (結局、アスランがどう思っているのか、分からなかったな) 言葉を交わしたのは、ラクスを引き渡した後は、もうない。 『お前が地球軍にいる理由がどこにある!』 嘆いてくれた。 自分達が戦うことなんてないんだって、手を伸ばしてくれた。 でも、僕はそれを断った。 だって、僕には、同じくらい大切だったんだ。 トール、ミリィ、サイ、カズイ、そして・・・フレイ。 もし僕がアスランと行ったとしたら、みんなはどうなる?彼らはアークエンジェルとストライクの破壊の為に追いかけてきてる。 その搭乗者は敵対軍だ。なら・・・・答えは決まりきってる。 僕が彼の手を取ったら、みんなが死ぬ。 僕を友達だといってくれた人たちが。 心配してくれた、励まそうとしてくれていた人たちが。 そんなことは、絶対にできない。 自分だけ助かろうなんて、できない。 コーディネイターの僕を、敵対してるものと同じはずの僕を、結果的にでも受け入れてくれた、優しい人たちを。 分け隔てなく接してくれた人たちを。 僕は、見殺しにしたくない。絶対に。 だから、僕は戦う。 オーブから出れば、ザフトはすぐに攻撃を仕掛けてくるだろう。 どうしようもなかったとはいえ、僕が敵側にここにいることを伝えてしまった。 でも、それを本当の意味で知っているのは、アスランだけだ。 だからアスランが言わなければ、言ったとしてもアスランを仲間が信じなければ、戦闘はないかもしれない。 ――――――――でも、確率は何よりも高い。 それに、結局何かと戦うことになるんだ。 作業の手を止めて、僕は手を組み合わせた。 今度も僕は、生き残れるんだろうか? 誰も殺さずにすむのだろうか? 誰も死なずにすむのだろうか? 怖い。 でも、やらないと、やり遂げられないと、さらに人が死んでいくから。 「―――やらなきゃ、いけないんだ」 それが誰かを傷付けてしまう事でも。 窓から差し込む朝日が顔を刺して、俺は突っ伏していた体を起こして背筋を伸ばした。 昨日は、やっとシステム入力が終わって、ダウンロード開始し始めた後から記憶がない。 久々に撃沈したらしい。伸びた先からボキボキと骨が鳴って、痛いんだか気持ちいいんだか・・・ ふと、俺は無機質な視線があることに気付いて、下を見た。 ロード完了したそれが、ただじっと俺を見上げている。 ずんぐりムックリの、二頭身半の物体。 人間と同じ二足歩行で、ちゃんと顔も胴体も腕も足もある。 違うといえば足が胴体から直接出てるくらいだ。 その背中にはスラスターユニットがついていて、フロートとエアジェットが内蔵されている。 体の基本色は白。胸のところは青で、額の角は黄色。スラスターは赤。 俺は、にっとつりあがる口元を押さえずに、ヘッドセットのマイクを持った。 「最終確認。コード0001−ストライク。マスター承認」 『データ オール クリア コード0001−ストライク セットオン オ ハ ヨ ウ ゴザイ マ ス マスタ』 完全起動したストライクが丁寧にお辞儀をするのを見て、俺はまた緩む頬を押さえずに笑った。 「さてと・・・・お別れの時間だ」 |