苦しい 辛い どうして・・・ どうして・・・・・・・・・・・・・・・・ ―――――――――――――――――あいたい・・・・・・・・・・・・・・ ただ、子供のように、泣いてしまいたかった。 吐き出してしまいたかった。 爆発してしまいそうなこの気持ちを。 千切れそうな寂しさを。 泣くことで昇華させてしまいたかった。 『兄貴は変な時に溜め込むんだから、たまには誰かに向かって吐き出しとけよ』 声を上げても、涙は出てこない。 喉からでそうなほどに溢れている筈の感情が、吐き出せない。 だって、。 君がいないんだ。 君が、どこにもいないんだ。 いつもいてくれた。 そばにいてくれた君がいないんだ。 君がいないと、僕は感情さえ上手く出せない。 君がいないと、僕は生きている心地がしない。 君がいないことが、耐えられない。 「泣いていらっしゃるのですか?」 ずいぶんと塞ぎこんでいたんだろうか。 すぐ近くで自分の顔を覗き込んでいる少女に、僕は気付けなかった。 間近で声をかけられて驚いた僕を、彼女はにこりと微笑んで受け流す。 目の前にいる彼女は、通常の遺伝子では考えられない、ピンク色の髪をしていた。 その下にあるのは、澄み渡る空のような蒼い瞳。 彼女がいることに驚いて、すぐにまたか。と溜息を吐く。 彼女の周りを球状のロボットが何かをわめきながら動き回っている。 持ち主である彼女が言うには、それが勝手に鍵を開けるのだと言うが、本当にそんな機能があるのかどうか。 けれど、彼女の婚約者だというアスランが作ったのだと思えば、真面目にそんな機能を付けたのかも知れない。と思えてしまうのが哀しい。 彼女――ラクス・クラインは、自分達が敵として戦い、今いるこの戦艦アークエンジェルを追いかけ狙っているザフト軍がある国、プラントの出身だ。 でも、彼女は違う。敵じゃない。 ただプラントに住んでいるだけの、一般市民だ。 ユニウスセブン追悼慰霊団の代表としてやってきていた彼女は、様々な経緯を経て、アークエンジェルで保護された。 名目上、捕虜という形で。 ただ、コーディネイターというだけで。 僕も、もしプラントの住人だったら、彼女のような扱いを受けていたんだろうか? 「弟のことを、思い出していたんだ」 まだ知り合って間もない彼女だけれど、彼女の雰囲気がそうさせるのか、僕はラクスに打ち明けていた。 守らなければ生きていけないような印象なのに、その奥の何かがとても信頼できる。不思議な彼女に。 「弟さんが、いらっしゃるのですか?」 「うん。僕なんかよりもずっとしっかりしてて、へそ曲がりで、でも寂しがり屋な子・・・」 瞼を閉じれば、の顔を思い出せる。 自分に素直になれない。大切な物を大切にする、優しい優しい子。 思い出すだけでも心は帰郷を求めていて、胸の奥でずきりと重い痛みが疼いた。 早く・・・早く帰りたい。 帰って・・・・・の笑顔が見たい。 それだけで幸せになれるから。 あの子の隣にいることだけが、ありのままの僕を出せる場所な気がして。 「今すぐにでも、会いに行きたい」 心の底からの言葉。 絶対に叶えられない願い。 だってここは宇宙で、戦闘艦の中で、のいる地球とは遠く離れている。 そして、トールたちを、友達を助けるために成り行きでストライクのパイロットになってしまった僕。 現実は不可能だと嘲笑って、僕に戦うことを強要する。 自由になることを許さない、雁字搦めの網の中だ。 「弟さんが、大好きなのですね」 「うん。大好きだよ。本当なら・・・・離れ離れに暮らしたくなんて、なかった・・・」 そう。一緒に居たかった。傍に居たかった。 離れたくなかった。 だから、ずっと進学先を迷い続けていた。 行くことだけを考えるのなら、ヘリオポリスのカレッジが一番魅力的だったけど、と離れ離れになることが耐えられるとはとても思えなかった。 だから、がその学校を紹介してきた時は、なんて残酷なんだろうと思った。 の気持ちも分かったから、なおさら。 アスランと別れた時よりも、ずっと辛くて、悲しかった。 「会えますわ。きっと」 優しい微笑みを浮かべて、彼女は言う。 その微笑みは、人を安心させてくれて、希望を与えてくれる。 「うん。ありがとう」 悲惨な状況もすべて、いつか終わるのだと言ってくれている気がした。 そういう気持ちにさせてくれた彼女に、僕は感謝した。 ――――――――――――――――ねえ? 今、君はどうしているんだろう・・・・・・・ 2007.12.1 キラは完全なブラコン。 むしろ弟のみ愛。 |