信じたくない現実は、信じられないほど突然降り掛かる

























俺たちの世界は、二つに分かれて戦争を続けていた。



ナチュラルとコーディネイター

遺伝子操作をされたものとされていないもの。


ナチュラルはコーディネイターを羨み、妬み、嫉み、コーディネイターはナチュラルを見下す。
たぶん。きっかけはそんなものだったと思う。
不自然な性が問題だなんて、建て前な。欲望をただ正当化させた戦い。
誰がこんな大きくさせてしまったんだろう。


でも、そんな戦いも、俺には別の世界のことだ。
俺の暮らしているオーブという国は、ナチュラルもコーディネイターも受け入れる中立の国だ。
だから、どちらにもつかず、どちらにも味方をしない。
そんな国で生まれ育った俺は、戦争というものと関係なく生きた。
そしてそのまま、関係なく、戦争と係わりなく生きていくんだと思っていた。



今日、この日までは。










一瞬、何があったのかなんて頭に入らなかった。

テレビの映像はピンボケで、何を写しているのか分からない。
後ろでガシャンっと、小さな音がした気がする。
すぐ後に後ろから衝撃があって、誰かの手が俺の頭を抱きしめた。

・・・・・・・・・・・っ」


「・・・・・・・・キ・・・・ラ?」


キラが呼んだ気がして、俺は無意識にキラの名を呼んだ。
いっそう抱きしめる力が強くなる。
でも、痛みはなかった。
まるで全身を真綿で包まれた様な、気持ちの悪い違和感。



画面が白くなって、暗転した。






「うそだ・・・・・・・・・」







ぼやけた画面の中で唯一つくっきり見えたものは


「ヘリオポリス壊滅」というテロップの文字。










理解したと同時に、俺の体は何も支えることができなくなった。














******













「寂しいよ。

コロニーへ行くシャトル搭乗口の前で、キラは俯いて呟いた。
肩に止まったトリィが、キラの顔を覗き込んでいる。
主人が心配なのか、それともあのデコ八のストーカー根性が住み着いてしまった賜物か。
一度壊れてキラと俺で直したというのにそう思ってしまうのは、あいつと出会ってしまった記憶事態消してしまいたい位嫌いだからだろう。

「何んな顔してんだよ」

いつまでも俯いて泣きそうにしているキラが、本当に兄と思えなくて俺は苦笑した。

「だってっ!・・・・・・やっぱり近くのカレッジにすれば良かった」
「何言ってんだよ。この辺じゃ兄貴のレベルに合うとこなんてないだろ?
 ヘリオポリスなら施設も充実してるし、あっちに尊敬してる先生がいるって言ってたじゃないか」
「うん・・・」

ますますキラは沈み込んで、もう前髪が完全に垂れ下がっている。
そこまで傾斜するとトリィもバランスを取れなくなったのか、俺の頭上へと移動した。
俺の頭が安定しているのか、それとも別の要因があるのか、トリィはよく俺の頭に乗る。
それに反応して、キラが顔を上げる。寂しげに微笑んで。

「もうこんな光景も、しばらく見れなくなるんだね」

ヘリオポリスに行くことを進めたのは俺だった。
どこに進学するか悩むキラに、才能をもっと開花させて欲しいと思って。
そしてキラは、散々悩んで悩んでヘリオポリス行きを決めた。
最終的に選んだのはキラだ。

「別に今生の別れじゃあるまいし。やろうと思えば毎日だって連絡取り合えるだろ?」
「!・・・・・・そうだよね!うん。電話するよっ!」
「いや・・・・・・・毎日は本気でカンベンな・・・・」

元気付けるために言った言葉が自分の首を絞めそうで、俺は思わず釘を刺した。
「えー・・・」とキラが不満そうに不満を漏らす。
マジでやる気だったなこいつ・・・
そしてキラは搭乗口から自分の姿が見えなくなるまで、他の搭乗客に迷惑かけながら手を振って行った。
別れ際に「絶対に休みになったら帰ってくるから」と言って。


そうして、有限実行のキラは本当に毎日電話をかけてきて。
長期休暇にはギリギリまで家にいて。
戻る時はグズついて周りを困らせて。


そういう日々が、キラが卒業するまで続くもんだと思っていた。


終わるだなんて、思えるわけがないだろう?














******















ヘリオポリス壊滅後、住民のほぼ全員が脱出したという事が発表された。
ただ、それが本当かどうかは住民たちが保護されない限り分からない。
早い到着でも、一週間は必要だった。


待つには長すぎて。
ただ、ただ、待っている間は、抜け道のない暗黒の洞穴をさ迷い歩いている気分で。



最初の避難民が到着した日は、やけに空が眩しかった。
扉の開く瞬間がゆっくりすぎて、もどかしかった。

そうして、警察の人たちに先導されながら、避難してきた人と、その家族が喜びを分かち合いながらもつれ合う。

俺は、そんな人たちの壁の向こう側、いまだ流れてくる避難民達を、見逃さないように注視した。

最後の一人が出て、そういう放送が流れても、俺は待ち続けた。


おっちょこちょいのキラのことだから、荷物を出すのに手間取っているんだと思い込んだ。



?・・・今日はもう帰りましょう」
「母さんたちは・・・・・帰っててくれよ。おれ、もうちょっと待ってるから・・・・・」
・・・・・・?・・・」




出てきた人間の誰もが荷物を持っていないのに、俺はそう思い込んでいた。


馬鹿野郎。
何してるんだ。
早く帰って来いよ。
世話焼かせんなよ。
俺が待ってやってんだぞ。
なんで来ねぇんだよ。














日が暮れて、閑散とするまで、俺はそこに突っ立っていた。

















2007.11.11
哀しい現実。