こんなところに来たからって、分かる訳もない。 それは重々承知してる。でも、他に思いつくものもなかったから。 馬鹿な真似を。と言われても、間違いだったっていつか自分で思っても。 それでも良かった。 「おーい、シン」 バトルシュミレーター訓練を終えて、俺は先に終わらせていたルームメイトを発見し、駆け寄った。 毎日毎日表情が固く、愛想のないそいつは、今回も俺を目だけで確認した後、別の方を向く。 そういう仕草も、何度も続けられれば慣れるもので、俺は構わず隣に座った。 「相変わらず早いな。成績はどうだった?」 シンは無言のままパネルを指した。上から数えて早いところにシンの名前があった。 相変わらず、すごいな〜と思って眺めていると、俺の成績が一番下に現れた。 それをおなざりに見た後、スクリーンの一番上を見る。 「あー・・相変わらず、あいつか」 予想通りの表示に、心の中で感心する。 隣りの機嫌が悪くなったようだけど、指摘はしない。これもまた、いつものことだ。 「あ!また二人でいる」 「ルナマリア」 悔しそうな声に振り向いて、声の主に向かって片手を上げた。 赤紫のショートへアが似合う女の子は、俺の反応のせいか何なのか、不機嫌に眉を吊り上げていた。 同じパイロット科のルナマリア・ホーク。 数少ない女子の中で常にトップにいて、全体でも上位にいる女の子だ。 ルナマリアは唇を尖らせて俺の隣りに座った。 「またタイム負けたわ」 「成績はタイムだけじゃないだろ」 指摘すると、さらに面白くなかったのか、ギロと睨まれた。 やれやれ、なんでこんなにライバル視されてるんだか。 俺の周りは負けず嫌いばっかだな。なんて思いながら、「落ちつけよ」と宥める。だけど俺のやることはルナマリアに効いた例しがなく、だいたいが逆効果だ。 そんなわけで今回も「ホント、って腹が立つ」とつれない態度をされた。 それなのに、俺の隣りにいつまでもいるんだから、女の子って生き物はよくわからない。 不機嫌二人に挟まれてみんなの訓練が終わるのを待つ。最近の俺の日常だ。 別の訓練への移動中も、ルナマリアの不機嫌は治らなかった。 「大体、どうしていつまでもに勝てないのかしら」 「勝ってるだろ?ペーパーテストなんて、俺ルナマリアに勝った記憶ないけど?」 「でも機械が関わったらに勝てた記憶なんてないのよ!」 「そりゃ得意分野だからなあ・・・」 さすがにそれで負けられたら俺も悔しい。 「体術でシンに勝ったことないし、ルナには総合で勝ったことないし・・・自分の得意なものくらい勝ってもいいだろ」 「嫌なものは嫌」 「んなわがままな・・・」 「・・・・いちゃつくなら俺のいないところでやれよ」 「そう言うなよ。二人きりでいたら俺、泣かされるって」 「ちょっと、それどういう意味?」 なんだか荒んだ関係に見えるけど、俺たちにはこれが一番いい状態らしい。 シンはいつまでもそっけなくて、ルナマリアはいつまでたってもつんけんしてる。 それでも俺には、この空間は楽だった。 唯一困ることがあるとすれば・・・ 「邪魔だ」 背後から声がして振り返ると、ゆるくウェーブのかかった金髪が目に入った。 そのまま少し視線を下にするときつい眼差しが迎える。 俺たちのクラスのトップ、レイ・ザ・バレルだ。 「あ、ごめん」 並んで歩いていたのは事実だったから、俺は謝って道をあける。 通り過ぎざまにレイはさらに俺をきつく睨んで、さっさと去って行った。 「すごい目付きだったわね」 ルナマリアの呟きが漏れる。 そういえば、ルナマリアは感情を露わにしたレイを今まで見たことがなかったか? レイの振る舞いに意外性を感じたんだろう。かなり驚いていた。 ・・・俺にとっては日常茶飯事なんだけど。 レイの噂は、まだ日も浅くないうちから広がっていた。 成績優秀なロボット。 感情がない、つまらない人間だと。 優秀な人間が疎まれるパターンの話だ。その話を聞いた時は、特に何も気にしていなかった。 レイと真正面から顔を合わせる瞬間までは。 そりが合わないからなのかなんなのか、出会ったころから俺はレイから目の敵のように睨まれていた。 「俺はお前など認めない」と、よく名前も知らないうちから言われて、なんだこいつ?とものすごく奇妙な気分だった。 機械だって言われているように、いつもレイは無表情だけど、俺を見る時だけは毎回きつい眼差しを向けている。 自分が一体何をしたのか分からない分、苦手だった。 「はあ、なんで俺、あんなに嫌われてるんだ?」 シンといい、ルナといい、俺の周りは厄介な気分屋が多い。愚痴の一つも零したくもなる。 「日頃の行いだろ」 さらにそれを慰めてくれる奴もいないから、俺はますます落ち込むばかりだ。 「それは聞き捨てならないな。俺は誰よりも人に気を配って生きているんだ」 だから、半分おどけてみせる行動で防御がてらポジティブになろうとテンションを上げる努力をしているんだけど。 「説得力、ないわよ」 さらに落とされるから、自分の空回りぶりに時々嫌になってくる時もあった。 ちくしょう。こいつらぶっとばしてえ・・・ この後は昼休み、それから午後の訓練。放課後は学校に居残りで何かをするか、寮へ直帰するかのどっちかだ。 町へ遊びに行くのは休日だけしか許されていない。 脱走してる常連もいるらしいけど、大体は各々寮か学内で好きなことをしている。 施設は勝手に使ってよかったし、購買なんかも充実していたから、パーティーなんかを開いている奴もいた。 俺は居残り組で、毎日夕食時間前まで銃の練習している。 今日も貸し切り同然の訓練場で、一人射撃練習をしていた。 まず一度解体して具合を見てから、組み立て直す。練習始めの頃に、何もしないままやったら速攻で弾詰まりになって、それ以来毎回組み立てからしている。 そのせいで今では、シン曰く手品並みの解体・組み立て技術になってしまった。 的の前に立ちヘッドセットをして、弾を込め、構える。 まっすぐ的の中心を狙えば、吸い寄せられるように当たる。ブレなければその穴を開かないで通せる。 そこまで辿り着くのに、ずいぶん努力した。 でも、まだ足りない。どんな時でも自分の思うところに撃てなければいけない。 「案外難しいもんだな」 軍に入隊する時、これだけは何が何でも貫き通すと決めていたことがある。 それは、人を殺さないということ。 たとえ自分が死ぬことになっても、敵を、相手を殺さない。 何があっても憎しみに駆られても、殺さない。それだけは決めていた。 これは意地だ。それをやり通す力が欲しい。 偽善なんだって言われても。それでも俺は、俺が武器を持ったことで泣く人が増えるのは嫌だ。 キラを失ったと思って絶望した、あの時の俺と同じ思いをする人が増えるのは嫌だ。 ジャンルを変えて、ランダムに場所を変える的を撃つ。 心臓の位置に向かって定める。銃弾は12発。すべて打つ。 そのくりかえしを5回もすれば、さすがに手が痛くなる。 振動と反動で震える手で、また固定的を撃つ。 今度は4発ずれた。まん中にいびつな穴が開いている。 どれくらい努力したなら、行きつけるんだろう。 どれくらい必死になったら、到達できる? 銃、MS、白兵戦、戦艦。 人を殺すことのできる手段は沢山ある。俺の進む道はどれもがそこへつながっていく。 そういう武器を持つことになる。 そんな世界にならないかもしれない。 カガリさんはとても頑張ってる。 プラント評議会も協力的だ。 連合はなりを潜めている。 だから、戦うことになる未来はないかもしれない。 それは、俺がここに来たことの理由とは相容れないけれど。 「俺だけのための世界なんてないんだから」 そうであってほしいと思う。 戦いなんて、起こらなければいいと。 キラが感じたことを、追従することはできなくなるけれど。 それは俺のわがままだから。 さてと、そろそろ夕飯時かな。 どうせシンはまた部屋に籠って自分の世界に浸ってるだろうから、連れ出してやらないとな。 銃と的を片づけて、俺は訓練場を後にした。 |