いつものように放課後は一人で射撃場に籠る。 日課になってしまったこの自主訓練。 ふと、俺は違和感を覚えて「あれ?」と呟いてしまった。 ――――――――――ひょっとしたら俺は、すごい境地に入り込んでしまったのかもしれない。 今日は射撃テストがあった。 射撃場に集まった俺たちの前には、ずらりと等間隔に人型の的が並んでいる。 テストの内容は、5秒毎に位置が入れ替わる的を打つ。それだけだ。 胸の中心に当たれば5点。その周りを4点、外れていくにつれて点は下がる。的に当たっても、その範囲に当たらなければ点は入らない。 回数は20回。満点は100点か。 教官の説明を聞いてみんなが渋い顔になっていくのを、俺はのんびりと構えて見ていた。 シンもルナも難しい顔している。レイの顔は相変わらず微動だにしてなかったけど。 射撃訓練は、他の授業より回数が少ない。全員時間をかければ満点取れる腕ではあるが、早打ちは苦手だ。指の震えだけで進路が大きく変わる銃は、速さを求めると正確さが反比例していく。 「60点以下のものは罰として備品掃除が待っている」と付け足しもされて全員の肩が強ばる。まぁ、嫌だよな。 ここの備品、死ぬほどあるからな。 そうこうして、テストが始まった。 5秒で入れ替わる的に、みんな四苦八苦してる。始めのうちはみんな追いついていたけど、後からどんどん焦ってしまうようだった。 あぁ・・・・これは平均点数悪そうだなぁ・・・・・ 観察してる間に、俺の番になった。 前の奴と入れ替わったそこで、少し離れた所にいたシンが終わり、点数が現れる。 うああ・・・・・本当射撃苦手だよなシン。58点って、掃除確定じゃないか。 項垂れる友人を目で見送って、ご愁傷さま、と心の内で呟いた。 溜息と一緒に気分も落ち着けて、ヘッドセットして銃を構える。開始ブザー前に構えて、現れた的の真ん中より右を狙った。 狙い通り3点が加算。次の的も3点のゾーンを打ち抜く。 1、4、2、と時々他の点も混ぜて…ラインギリの5点とかまぐれっぽく入れてみて入れて・・・・・ 最終得点は59点。 「へたくそね」って呟いたルナへ、へら、と笑った。 罰掃除決定だった。 「ヤマト」 掃除の最中、教官の呼び出しで俺はまた射撃場に連れてこられた。 何の用かと問う俺に、教官は顎で位置に立つよう指示し、難易度の設定を入力した。 目の前に現れた難易度はSS。 1秒しか現れない的。出現場所もランダム。見える所すべての的を使う広範囲。狙う中心もランダムに変わる鬼すらも涙の出る難易度だ。 「一発も外すな」 教官は、さらに鬼畜な要求を突き付けてきた。渋い顔を抑えられないまま、俺は銃を受け取った。 さっきのテストでも使った、軍で一般的に支給されているものだ。 「確認させて下さい」と申請して、俺は手の中で銃を分解した。 少しの汚れを丁寧に払い、歪みがないか確認する。 一通り確認して組み立て、頷いた。 開始のブザーが鳴る。 的が現れる。 撃音が20回、絶え間なく繰り返された。 少し前に、俺は練習中、妙な違和感に襲われた。 持っている銃を見失う。という現象に。 きちんと持ったことも確認して、どこかに置いた覚えもないのに、射撃位置に立った時、自分が銃を持っていないと思いこんだ。 ボケが入った訳でも、勘違いでもない。 というか、持っていないと感じたいうのも、少し違う気がする。 だって手の感触は、間違いなく銃を持っているって分かっていたからだ。 銃の重さも、感触も、形も、何もかもが手になじみ過ぎて、違和感がなかったことが奇妙に感じた。 いつの間にか、自分の一部のようになじんでいた。 それを自覚した頃から、特に気構えなくても狙った場所に撃てるようになった。 一ミリもそれることなく。 終わった後、教官はじっと俺を見ていた。 「お前は何のために武器があると思う?」 そして、訪ねてくる。 俺はそのテストに、ただ自分が思うままに答えることにした。 「武器は、相手を止めるため、守るためにあるものです」 教官は見上げる俺の目を受け止めて、しばらく何の声も、音も聞こえなかった。 教官は笑っている。まるで自嘲しているようだ。 「武器は殺す為の道具だ」 そして、俺にそう言い捨てた。 まだ持っていた銃を渡すように手を出してきて、俺はその手に銃を乗せる。 そう。人殺しの道具だ。トリガー1つで簡単に命を奪える、残酷な物だ。 銃を受け取った教官は、俺の頭をぐしゃぐしゃとかき回し撫でた。訳が分からないまま受け取ると、教官はニヤと笑い。 「グラウンド50周」 「げ・・・」 落とされた追加罰に、俺は呻いた。 「二度と実力を隠すことをするな。アスカ!お前もだ」 「え」 教官の発言に驚いて振り返る。 「シン!」 一体いつからそこにいたのか、シンが俺を見つめて立っていた。 「お前・・・ずるいよ」 「えぇ?・・・・・何・・が?」 二人でグラウンドを走らされている最中、シンの不満に俺は首を傾げた。 「他の授業でも、手、抜いてるんじゃないのか?」 「そんなことした覚え・・・ないけど?」 俺が今一番得意なことは射撃で、後は大体平均レベル。・・・・後良いのは、機械関係かな。 「だってお前、いつもたいして力入れてないじゃないか」 「え?」 ひょっとして、余裕見せてやってるって思われてるのか? でも、俺が知ってる中で訓練に真面目に取り組んでるのって、半分もいないと思う。 俺だって、自分自身、それほど入れ込んでやってるって自覚ないけど、多分真面目な方だ。 「ずるい・・・」 またシンが呟く。俺は汗だくなって気持ち悪い顔を拭い、俺なりのシンの評価を言ってみた。 「シンは・・・力が入り過ぎなんだよ」 一生懸命やるってことは、上達するには必要なことだ。だけど、あまり気を入れ過ぎても、空回ってうまくいかず、伸びが悪くなる。 シンは・・・決してうまくやろうとして肩肘張ってる訳じゃないんだろう。 だけど、シンの中の何かが、何も考えられないくらいに暴走しようとして、いつも無茶をしてる。 体術や、モビルスーツの訓練なんかは、本人の戦闘センスや反射神経が並じゃないから何とかなってるけど、射撃や解析処理は細かい作業な上に神経を使う。 無茶苦茶やっても、上達するものじゃない。 「一回気分を落ち着かせてやってみたらどうかな?自分のやり方に何か不具合がなかったかとか」 「・・・・・」 難しい顔をしてしまったシン。 まあ・・・・確かに、シンには苦手なのかもしれない。 「じゃあ、俺がフィードバックしてやろうか?」 「え?」 「俺じゃあ、役不足かもしれないけどさ。シンの苦手なことは俺の方がうまいだろ」 む、とするシンを笑って流して、「だからさ」ともう一つ付け足す。 「俺に体術とか、指導してくれよ」 今度はシンの眼が瞬いた。一体どういうことかと目が訴えてくる。 「シンが教えてくれるなら、苦手も克服できそう」 喧嘩が強くなりたい訳じゃないけど、人を止める為の手段は沢山持ちたい。 人を守るための手段を、沢山身につけたい。 どうかな。とシンに再度訊ねると、シンはしぶしぶと頷いてくれた。 「俺がやる気になれば、お前なんかすぐに追い越せるけどな」 「あ、言ったな。シンの腰抜かす位上達してやる」 二人して意地悪い笑みを浮かべてお互いを貶す。 たとえ皮肉がこめられていても、シンが俺に向かって笑ってくれることが、嬉しかった。 「だーから!違うって言ってるだろ?」 「え?え?」 「お前、俺には力抜けって言ってるくせに、自分の方が身構えて固まってるじゃないか!」 「そ、そうは言っても・・・出方が分からないと動きようがないっていうか・・」 「そんなもの先見できる訳ないだろ!っていうか、全部見ようとするな!見るんだったら肩と足と相手の目線だけ見ろ」 「そ、それも結構大変だと思うけど・・・」 それからしばらくして、俺たちが練習している風景が日常になった。 「お前ホントセンスなさすぎ」 「え?ええ?」 「二人で何してるの?私も混ぜてよ」 俺とシンと、ルナが入って。 その内さらに人数が増えるのかもしれない。 |