コロニーの外壁に穴を開けられ、追っていた3機にまんまと逃げられた。


後少しで追い詰めることができたのに。

気圧の変化による暴風に流されないように耐えながら、俺は苦虫を噛んだ。
さすがにもう、奪還するのは無理かもしれない。

「レイ、ミネルバへ連絡してくれ。俺は追い掛ける」
?待て』

レイの戸惑いが伺えたけど、無視して穴に飛び込んだ。


あの連中が、単に3機を奪取しただけで終わるとは思えない。
奴らの母艦を見つけて正体を確認したい。

、待てよ!』
「シン?!」

穴を出たところで、追い掛けてきたシンに呼び止められた。

「馬鹿。もうエネルギー残ってないだろっ、なんで追い掛けてくるんだよ」
『馬鹿はお前だろ!単機で乗り込んで、どうにかできると思ってるのかよっ』
「そんなことしないよ。未確認の母艦を見つけようと思っただけだっ」
『どっちにしたって無謀じゃないか!』

この、いつも無謀無茶してるのは自分のくせに。

食って掛かるシンについ腹がたった。

だけどそうこうしてる暇はない。もう3機は見えなくなっている。

「とにかくシンは戻って――」



『―――シン、!』



頭の上へ飛び込んできた白いザクに呼び掛けられ振り仰ぐ。
『ザク・ファントム』の構えたシールドに閃光が散り、ぶわと総毛だった。

「な?!」
『まだくるぞ、構えろ!』

レイの言葉に反射的にシールドを構える。
運良く防いだ側面からの第二撃に身震えた。



なんだ―――――これ!??



さっきは不意討ちだったせいで探せなかったが、今回の攻撃も、一体何が相手なのかわからない。
初撃も二撃目もまったく別の方向からの攻撃が何発も。


囲まれてるのか?!


そう思ったとき、赤紫のモビルアーマーが横を擦り抜けた。
モビルアーマーは、『インパルス』へ向かってレールガンを打ち込んでくる。それと同時に、別方向からビームが飛んできた。

「――あっ」

その一瞬で、やっと攻撃していたものを見つけて声をあげた。
宇宙の闇に融けている小さな兵装ポッドが、素早く飛び回っている。


あれがさっきから攻撃してたのか!


さっきのモビルアーマーと同色のそれは、恐らくドラグーンと同じ機能だろう。
それが一体いくつあるのか。
俺たちを包囲するように撃たれるそれに、反撃を返すことができない。

「うわっ」

とうとう避け切れず、『アルケミス』の肩に被弾した。
機体損傷は僅かだが、当たった振動に動揺が膨れ上がる。

!―――っ!』
「!?――シンッ」

シンの目前に迫るポッドに気付くが―――間に合わない!
その絶望的な状況を打開したのは、レイの『ファントム』だった。


『何をしている!ぼうっとしてたらただの的だ!』


レイの通信が響き、我に返った。
こっちにも迫っていたポッドをライフルで牽制して逃れる。

レイが厄介と考えたのか、敵のモビルアーマーは今度はレイへ集中的に攻撃しだした。
援護に回ろうとして、しかしレイはあっさりとポッドを一機撃ち落とす。

くそ。本当すごい奴だな。

尊敬と悔しさを感じるが、それに浸っている暇はない。まだポッドは残っているのだ。


『ファントム』への集中砲火はまだ続いている。レイはそのすべてを切り抜けているが、いつ当たるとも限らない。
援護しようとライフルを構えるが、見透かされたようにこちらに火の手が迫り、逃げるしかなくなる。

「レイ!・・・っ、くそ!」

シンも同じ状況だった。
こっちは三機もいるっていうのに、なんて奴だ!!


だが、それもすぐに終わりがきた。

レーダーがミネルバの接近を告げ、それと同時に攻撃がやむ。
なぜと辺りを見回せば、あのモビルアーマーとポッドの姿はなくなっていた。


退却した、のか?


あんなに執拗に攻撃していたのに、こちらの母艦がきたとたんあっさり帰った敵機に拍子抜けした。

なんて引き際がいいんだ。逆に感心してしまう。

反応もできず帰してしまったことと、もう姿も見えないことから追うことは無謀だろう。
俺の諦めを促すように、ミネルバから帰還命令の三つの信号弾が放たれた。

『帰還命令!?なんで!』
『命令だ』

シンの不満をレイが嗜める。
あれだけの攻撃を受けていたのに、レイの息は少しも上がっていなかった。
俺なんて息が上がってるってのに。
違いを見せつけられて、嫉妬するよりも逆に尊敬してしまった。

「もう一度戦うにしても、補給しないともたないよ」

でもきっと、シンには面白くないんだろうな・・・

納得してないだろうシンへ言うと、不承不承『・・・・・・わかった』と返ってきた。


それにしてもあれは、あの連中は、一体何者だったのか。
連合の人間だとしても、どのパイロットもずば抜けていた。
いいようのない不安が押し寄せる。


。機体、大丈夫か?』
「あ、ああ、うん。装甲を換えればいい程度だから」

シンの伺う声に応えると、今度はレイの嫌味が飛んでくる。

『被弾したのはお前だけだったな』
「言うなよ」

というか、あの攻撃で落とされなかっただけ褒めてほしい。
そう考えて、あいつらに撃たれた仲間を思い出し、悔しさで奥歯をきしませた。

『戦場ではいつ何が原因で死ぬかわからないんだ。余計な種は作るな』
「・・・・・・わかってる」

あの時集中砲火されていたら、俺はきっと死んでいた。生きていたのは、運が良かったからだ。

だからって、また運が向くなんてことはない。


『各パイロットへ。帰還次第、ブリーフィングルームへ集合してください』


メイリンの通信が入り、それから後はただ黙々と、着艦作業を終わらせた。













安息となるはずの場所に、一大事があるとも知らずに。


















「初陣早々、怪我して帰ってきたね」

コックピットから出るなり、マークスさんの嫌味が降ってきた。

「すみません」
「いいんだよ。君が無事で良かった」

けれどそれは馴染みがあるからこその冗談だったようで、謝ると安心したように微笑んだ。

「肩パーツはすでに用意している。内部破損はしていないから、技術家じゃなくてもすぐに終わるよ」

マークスさんの言葉に俺は息を吐いた。
帰る最中に接続経路のスキャニングをして大丈夫と確認していたが、不安もあった。

「僕としては、あれ位壊れているほうがやりがいはあるんだけどね」

また冗談混じりに言ったマークスさんに、何のことかと疑問に思った。
ルナマリアの『ザク・ウォーリア』かと思ったが、違った。
マークスさんが指したのは、大量生産型の緑の『ザク・ウォーリア』だった。


あれ・・・・・・・・・あの『ザク』・・・・・・


左腕の部分が破損しているその機体には、見覚えがある。

アーモリーワンの工廠内の戦いで、シンが戦っていた近くにいた『ザク』だ。

でも『ミネルバ』の『ザク』はすでに全機載せていたはずだけど・・・・・・

「あの機体に乗っていた人物、ひょっとしたらとんでもない人かもしれないね」
「え?」

意味深な発言に、マークスさんを振り仰いだ。

「乗っていたのはうちのパイロットじゃなかったんだよ。君よりは少し年上かな?男女の二人だった」
「え?!」


予想外の答えに驚いた。


確かあの工廠では、セレモニーを控えていたため一般人も立ち入っていた。
でもそれは一部の施設のみで、工場近くまで入ることはできなかったはずだ。
それに、よしんば入れたとして、例えコーディネーターだとしても訓練していない人間が乗りこなせるとは思えない。

「一体何者なんですか?」
「本人達はオーブの国家元首だって言っていたね。たしか、カガリ・ユラ・アスハ氏と――」
「―――――なっ」



今度こそ俺は絶句した。




なんで。
なんでこんなところで、そんな名前が!!?




君?」
「なあ、あの機体なんだけど・・・・・・?」

不思議そうに見るマークスさんと駆け寄ってきたシンに肩を叩かれて、ほんの少し動揺が抑えられた。


「すみません。さすがにびっくりして―――っ!」



―――――――今度は振動と爆音に驚かされ、息が詰まった。


何が起こったのか、なんて考えるまでもない。さっきの奴らが攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ブリッジ!どうした!?」

機体から降りていたレイがインターフォンを掴み問いただすが、通じないのか受話器を投げ捨ててブリッジの方へ向かっていく。

「―――くっそぉぉ!」
「貫装終わってるか!?」
「いつでも出せます!」

シンが『コアスプレンダー』へ逆戻り、マークスさんは他の整備と状況を交わし合う。
俺も『アルケミス』のコックピットへ舞い戻り、周囲の状況を探った。


この『アルケミス』は、俺しか使えないのをいいことに、色々機能を付けている。
例えば通信の傍受だったり、艦内の状況だったり、データの閲覧も見れたり。
ミネルバ限定なのは、それを知った館長が、ここだけにしろと嗜めたからだった。
本当はそんな機能外せと言いたかったんだろうが、パイロットが戦況を知ることで動きやすくなると説得し承諾を得た。
ただこれは、エネルギー量がほぼ無尽蔵で、他のエンジンとは構造がまるで異なるSドライブだからできることで、他の機体には搭載されていない。


コネクトを開き、急いで広域データを取得する。
戦況次第ではまたすぐに出なけらばならない。


「え?」


でも、近くにいると思った敵艦は遠く離れた場所にいた。
しかも、どんどん離れていっている。


これは、つまり逃げたのか?


おそらく自軍の消耗を避けるためになのだろうが、逃げるために攻撃してくるなんて。なんて奴らだ。


『全艦に通達する。本艦はこれよりさらなる“ボギーワン”の追撃戦を開始する!』


副艦長のアナウンスがかかり、その声には焦りのようなものが感じられた。
周囲もどよめき、狼狽えている人もいる。


『突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員、日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう努めよ!』


アナウンスが終わり、直後にコンディションイエローに切り替わった。

つまり当分戦闘はない。
一体あの艦がどれくらい足が速いのかは分からないが、1、2時間というところだろう。



それほど遠くない先でまた戦うことになるのかと考えると、気が重くて仕方なかった。






これから始まる争いが、誰もが悲しみ、怒り、そしてあいつを傷付けることになった長い戦争になる気がして。











この調子だと話数の倍になる気がしてきました・・・
2010.7.18