SEEDIF










祈るような気持ちとは、こういうことを言うんだろうか?









生きていて欲しい。

無事でいて欲しい。

何事にもなっていないで。

傷ついていないで。

最悪なことに巻き込まれていないで。















ここにいて。

帰ってきて欲しい。









そういう想いの、もっと細かく、もっと分かれたいろんな物が、ごちゃごちゃと混ざりに混ざって一つになりそうでならない。
そんな気持ちが胸の奥で、収まりきれない勢いで大きく膨らんで。





そうして何にも考えられなくなる。




いてもたってもいられなくなる。

















オノゴロ島、オーブ軍施設。
そこへ向かって車は走り続けている。

規制を守って走るその車が遅く感じて、もどかしくて、俺は手を握り締めた。

車内から見下ろしたそこは、海に面して広がるように敷地がある。
建物が転々とあちこちに散らばり、兵器を運ぶためだろうタンクと広すぎる道。
見た感じ戦艦も戦闘機も見えないけど、建物や地下にでもあるんだろう。


―――――――――――ここに、キラがいる


ただそれだけで、早く早くと競りたてる。
見えているのに、入り口にもまだたどり着かないことがもどかしい。
隣にいる母さんも、落ち着かない様子で外を見たり俯いていたりした。










キラの連絡を受けたのは、ついさっきだ。


もう心配かけさせないと誓ってから1週間後。
それでも何とか行方を調べようと、キラ譲りのハッキングやなんやらで、犯罪ギリギリのところをかいくぐって情報を得ようとした。
それだけやっても、結局何も分からずじまいで。さらに報道はもうシャトルは来ないと伝えていて。
戻ってこなかった人は、死亡扱いにされた。

そんなことを言われて、納得なんてできるわけがない。
でも、もう無事を確認する方法も思いつかない。


そんな時に飛び込んできた、キラの無事。

寝耳に水とはまさにこのことだ。
混乱する母さんを引きずってタクシーに乗り込み、持つものも後にオノゴロへと急いだ。












「カリダ。
「あなた。本当にここにキラがいるの・・・・?」

基地についてすぐに、先に来ていた父さんと合流した。
母さんは不安そうに父さんに聞いて、父さんは母さんを抱きとめてしっかりと頷いた。


すぐに連れて行かれた先は、ドックを見下ろせる休憩室のような場所だった。

ガラス越しに見えた戦艦は、船と呼ぶには少し違う形で、着水している船部は中心の船体から伸びた二つの足に見える。
装甲は白で、おそらく艦首塔であろう中央後ろ気味に伸びた箇所の先端は黄色。船底と翼の部分が赤く塗られている。
たぶん本来は空を飛ぶ物なんだろう。船尾には巨大な噴射口が並んでいた。
よく機械工作の参考なんかで軍の機体を見たりしてるけど、これは見たことのない奴だ。
オーブの新型艦なんだろうか。
装甲はどんな素材を使っているんだろう?
動力源は?エンジンは?
回路はどんな構造だ?
誰の作品を使ってる?
操縦部は?
管制室は?
内部構造は?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、いかん。
なんか発作が出てきた。


キラを忘れて夢中になっていた事に我に返る。
ああ。そういえば、キラが行方不明になってから全然作ってないな・・・

今度は何を作るかとぼんやり創作意欲に燃えていた時、さらに人が部屋に入ってきた。

その人物に、俺はギョッと目を見張った。

(な、なんで代表首長が!!??)

オーブ、連合、プラントにかかわらず、政治の組み方はすべて同じだ。
簡単に言えば各国、各市、集落から出された代表達が話し合い政治を組む。
オーブは、貴族のような一族の世襲制で政治を執り行っている。
そして、その中の一人であり、代表をまとめ上げる実質上現オーブ最高権力者がウズミ・ナラ・アスハ。

その人が、今目の前に立っていた。

テレビで見た事のある、威厳と厳格を背負ったかのような姿。
ここが軍事施設で、彼はこの国をまとめているんだから、いてもおかしくないんだろうが、なんでまたこんな一般市民と同じ部屋に来るのか。
あまりに唐突な登場で、俺の手と背中にじっとりと汗が湧く。

。お前は外に出ていなさい」

固まっている先に父さんに言われて、俺は頷いた。
お偉い人と一緒の空間にいたくはないし、会話なんて絶対に無理だ。断言する。

「ああ。待ちなさい」

ギクシャク動いて出て行こうとする俺に、ウズミ様が声をかけてきて、心臓がひっくり返った。
カチコチに固まっている俺が、何とかウズミ様を見ると、ウズミ様は厳格な顔に柔らかい笑みを浮かべて、

「これを持って行きなさい。これがあれば自由に見学できる」

と、パスを手渡してくれた。

「あ、ありがとう、ゴザイます」

気分は卒業式の証書を受け取る時の何倍もの緊張だ。
恐々パスを受け取って、深々と頭を下げ、俺は逃げるように部屋から出て行った。

(うっわ・・・・びっくりした・・・)

まさかまさか声をかけてくるなんて思わなかった。
扉が閉まっても心臓はバクバク言ってて止まらないし。嫌な汗が全身から出てる。
あーもう。落ち着け俺。もう危機は去ったぞ。
あんな緊張する場所の近くにいたくなかった為、廊下の端まで行って、何度か深呼吸して落ち着かせる。
じっとりと湿った手のひらを服でこすりながら、俺はこれからどうするかを考えた。

ここに来た目的はキラに会うことだ。
キラの無事を確認することだ。
だから、キラに会わなきゃいけない。

その為には、ここで待っているのが良いのか、それとも探しにいったほうが早いのか・・・
ここに来る事は伝えてあったんだから、キラにも当然伝わっているだろう。
だったら、会う算段も向こうでしているんじゃなかろうか?
その場合この広そうな(外から見たらめちゃめちゃ広かったもんな・・・)ここを闇雲に探しても、時間の無駄の上にすれ違いになりかねない。
だったら、ここで話が終わるまで待っている方が良いんじゃないか?

そう考えて、まだ手に持っている、代表から頂いたパスを思い出した。
これがあればどこでも見学できると言っていた。
代表がどこでも、と言ったら、どこでもなんだろう。
施設の中心、開発部や制作部、訓練場も見学できるということだ。
つまり最新の技術を見放題・・・・・ってことか・・・・?

うずッと、俺の中の好奇心が騒ぐ。

たった一枚の紙切れで、自分の欲を満たし尽くしてくれる情報を全部見せてくれると言うのなら、・・・・それは、使わなきゃ損ってやつだろ。

思わずもれる笑み。
近くに誰かがいたら、目がキラキラしてるとか言うかもな。

そうと決まればあの戦艦を見に行ってみようかな。
近くで見てみたい。
キラの件については・・・・・・・・・まぁ。もし会えなくても母さんたちが会うだろう。






悪いな兄貴。俺はあんたより自分の趣味に走るよ。















代表。自分の娘の従弟にえこ贔屓(笑)

あっれー?出会ってない・・・な・・・・・(汗)