[モビルスーツ発進3分前、各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す。発進3分前、各パイロットは―――] アナウンスがかかり、格納庫はいっそうけたたましくなった。 発進シークエンス前はどうしてもあわただしくなる。 すでに終わらせて出るだけの俺は、端に放っていたヘルメットを装着して『アルケミス』を起動した。 今回の任務はユニウスセブン粉砕作業の支援だ。初陣の時のような戦闘はないだろう。 そう思っているのに、俺はなぜか一抹の不安を抱えていた。 短期間にこれだけの騒動が起き、さらにはこのコロニー墜落。 安定周期に入っているはずであったコロニーが、いくら人が住めない状態になっているとはいえ、簡単に軌道から外れることなどない。 全てが偶然とは思い辛かった。 人為的な力が備わっている気がして。 誰かの策略に乗せられているのではないかと思うものの、こんなことをして誰が得をするというのか。 不可解な予感は、ぐるぐると不快感をつのらせるばかりだった。 そうこう考えている所に、通信が入り、俺は回線を開いた。 「どうした?ルナマリア」 『あのアスラン、参加するみたいよ』 ルナマリアからの通信に何かと思えば、一気に嫌な気分になる。 あいつの話なんて聞きたくもない。 早くオーブに送り届けて、せいせいしたいのに。 あいつは本当にでしゃばるのが好きだな。 『知り合いなんですって?』 「・・・・そんなこと聞いてどうするんだ」 不愉快に歪んだ顔は、いつもの苦笑には戻せそうにない。 そんな俺を見て、ルナマリアの目が丸くなった。 驚いたらしい。 「悪いけど、それだけなら切るよ」 『あ、――――』 あいつの話などしたくない。 俺はつっけんどんに返し、引き留めるルナマリアの声を無視して通信を切った。 続いて今回初陣の『バスターアルケミス』専用の武器のリンク状態を確認する。 ようやく調整が落ち着いたこの機体は、長距離を得意とする装備が主軸になっている。 特に一番特徴的なのが、高圧エネルギー長距離ビーム砲だ。 主にスナイパーライフルとして活用するために開発されたものだが、エネルギー量の上限を変化させることができ、その量によっては連弾や、ミネルバのトリスタンと変わらない威力を備えている。 これを使って少しでもユニウスセブンの破片を細切れにするため、今回使用することになった。 [発進後は、ジュール隊の指示に従って行動してください] いら立ちを振り払って、とにかく集中する。 いらない感情は、邪魔にしかならない。 直後、アナウンスが変化した。 [―――発進停止! 状況変化! ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!] 「えっ」 内容に驚き、俺以外にも通信から驚きの声が上がった。 [各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更してください!] そして、さらに事態は驚かせる。 [さらにボギーワン確認! グリーン25デルタ!] よりによって、あいつらも出てくるのかよ! 『どういうことだ!』 [わかりません。しかし、本艦の任務がジュール隊の支援であることに変わりなし。換装終了しだい、各機発進願います!] 発進シークエンスから、装備変換に変わる周りから、一人武装を整えていた俺はブリッジへ回線を開いた。 そう装填に時間はかからないだろうが、応援に行くなら早い方がいい。 「先行します!」 そう告げると、やや間をおいてグラヴィス艦長が頷いた。 『お願い。――。貴方の事だから大丈夫とは思うけれど、無茶しないようにね』 「はい」 カタパルトに乗り、搭乗口が開くのを待つ。 発進の合図とともに、『アルケミス』のバーニアを吹かせた。 広域センサーにはすでにジュール隊と交戦している『カオス』『アビス』『ガイア』の3機がいた。 とにかくまずは破砕用兵器『メテオブレイカー』を持っている機体から引き離す。 接近する速度は保たせたまま、高度スナイパーをかまえ、今にも打ち出そうとしている『カオス』の兵器に打ち込んだ。 しかし、それに気付かれ、『カオス』が避ける。 そのまま何度か撃って距離を引き離し、そこから体勢を立て直して長射程ビーム砲を構え振りかぶるジュール隊の『ガナーザク』が映り、俺は別の方へ移動した。 『ガイア』と『アビス』が別方向に向かっている。完全にザフトを邪魔するつもりらしい。 そしてさらにその先では『メテオブレイカー』を運ぶ『ゲイツ』を撃ち落としている『ジン』の姿があった。 どういうつもりなんだ。こいつらは。 ザフトが何のためにここにいるのか、わかっていないわけではあるまいに。 そう考えると、つまりこいつらはユニウスセブンを落としたいのだということになる。 嫌な予感が的中してしまったのだ。 だが、そんなことをして一体何になるというんだ。 それに、先にジュール隊と戦っていたアンノウン、改造型の『ジン』だ。 旧型とはいえ、ザフトの軍事モビルスーツが、同じザフトのモビルスーツを撃っている状況は、つまり敵だということを示している。 こいつらは仲間同士なのか? いや、それにしては連携も取れていないし、『ジン』はあの3機へも銃を向けている。 そうすると、この2組はまったく別の集団ということになる。 先にいたのは『ジン』を率いている集団。 つまり――――――ユニウスセブンは人為的に、彼らによって動かされたということになる。 そして、ユニウスセブン解体阻止のために、ジュール隊と激突したのだ。 なら、あの3機を奪取したボギーワンの正体はなんだ? ―――――お前たちは何のために戦っている。 そう問いかけたい衝動に駆られた。 もしも、俺たちをこのヘリオポリスを落とそうとしている敵と認識し、向かっているのなら、それは悲しすぎる。 『!』 呼びかけに、俺は思考をいったん端において画面に映るシンを見た。 シンたちも追いついたらしい。 俺はすぐにシンたちを3機に向けることに決めた。 「シンたちはあの3機の相手を! 俺は『メテオブレイカー』の安全を確保する!」 『わかった!』 『了解!』 ルナマリアの応答も聞こえ、俺は目の前でまたかまえている『ジン』の腕を狙って撃つ。 腕部を破壊された『ジン』は勢いが減少し、『メテオブレイカー』との距離ができる。 『目的は戦闘じゃないぞ!』 『わかってます!けど撃ってくるんだもの!あれをやらなきゃ、作業もできないでしょう?』 アスランの批難に、ルナマリアが反論する。 それで納得したのか、わからないが、アスランの乗る『ザク』は隊長機である青い『スラッシュザクファントム』へ向かっていくのがセンサーで見えた。 厄介な相手をシンたちに任せてしまうことに責任を感じながらも、シンたちならあれと互角に戦えると踏んでいた。 改造型『ジン』の集団の要素が不安だが、あの『ヤキン・ドゥーエ』を生き抜いた隊長率いるジュール隊もいる。 その戦力を信用してもいいだろう。 いつもオープンにしている『ミネルバ』の回線から、デュランダル議長が『ボギーワン』へ説得の文書を送るよう命じたのを端に聞き、これであっちは引き下がってくれるかもしれないと一縷の望みができた。 あの人を本当の意味で信じることはできないが、知略は信用できる。 後は、改造型『ジン』の集団をどうにかするだけだ。 後退した『ジン』を見ると、別の武器をかまえて再び『ゲイツ』を襲おうとしていた。 さらには別の『ジン』1機が俺の方に迫っている。 そちらを追い払うために銃口の向きを変えて蹴散らす。 頭部と左脚部を撃ったそれは止まり、片腕のない『ジン』へ照準を合わせた。 狙う場所は、残りの腕部と両脚部。狙った分撃ちこんだビームが、四肢を破壊する。 「これで身動きはとれないでしょう。降服して下さい!」 回線を開いて投降するように促す。 しかし、目の前の『ジン』はさらに機体を加速させた。 『これしきの障害で我らの思いを挫けると思うな!』 「!?」 手足をもがれ、胴体と頭だけになった機体が『ゲイツ』へ突貫する。 『ゲイツ』はそれを避けることができず、『ジン』とぶつかり爆発した。 「・・・・な」 なんで・・・・・そんな。 起こったことに混乱し、頭が真っ白になる。 死ぬこともかまわず、阻止するために自爆するなんて。 信じられない。 どうして、どうしてそこまでして。 彼らの想いが一体何なのか、どうしてそこまでして突き動くのか。俺には理解できなかった。 ただの自棄なのか? そんなにも、あの地球が・・・そこにいる者たちが憎いのか? どうして、そこまで憎むんだ。 どうして、自分の命を無駄にできるんだ!! 『アルケミス』の移動を止めて呆然としている間に、アラートが敵の接近を告げる。 我に返って振り向けば、もうすぐそこまでビームサーベルを構えてやってきている。 さっき見た衝撃が、またフラッシュバックされる。 迷う暇も、狙う暇も、そこにはどこにもなかった。 長い射出口のライフルを『ジン』に向ける。 そして俺は、その胴体めがけてトリガーを引き絞った。 目の前で桃色の・・・・・エネルギーパックが爆発する光と煙が噴き上がる。 おそらく鼓膜が破れるだろうと思う爆音と、目が焼かれそうな光は、機体と遮光ヘルメットのおかげで防がれた。 だけど、この衝撃は、誰も、何も遮ってはくれない。 運び手の無くなった『メテオブレイカー』が漂っている。 それへ向かって『アルケミス』を移動し、広域センサーで周囲の状況と他の『メテオブレイカー』の居場所を、ユニウスセブンの状態を探る。 「くそうっ」 手を休めずに、俺は悪態を吐き出した。 頭の冷静な部分では『メテオブレイカー』をどこに埋めれば効率がいいかを探しながら、自分をなじってしまいたい衝動が止まらず、目頭が熱くなる。 ずっと、疑問に思っていた。 どうして、敵となったものを殺さなければならないのかと。 殺さなければ殺される世界で、それでも人を殺すことが嫌で。 殺さないためには、相手よりも秀でるものがなければ駄目だという結論になった。 それが仲間を死なせないことにもつながり、被害も少なくなる方法だと信じた。 だから、そのために銃も、操縦も、ひたすら訓練を積んだ。 誰も死なないように。敵も味方も、誰も死なないように。 武器を持つ腕や頭部を破壊すれば、絶対に戦意をそがれ、沈黙すると思っていた。 誰だって自分の命は惜しい。 だから絶対に、自分が負けるとわかればそれ以上の事をしないと思っていたんだ。 だけど、そんなものは、甘かった。 本当に俺は甘かった。 死ぬこともいとわないで、相手を叩こうとする人物を、俺は知らなかった。 そんなにまで追いつめられるなんて、知らなかった。 そんなになってまでやり遂げようとする人間がいるなんて、知らなかった。 どこまでも甘い自分が、嫌で。 そして、理解できない相手の事が、悲しくて。 こんな、生きるか死ぬかの瀬戸際の場所にいるのに。 叫び出したい気持ちが自分を蝕んでいく。 人を殺したくない。 そのために、努力を続けていたのに。 結局人を殺さない技術を持ったって、止められないなら。 「無意味じゃないか…っ」 雫がヘルメットの中で漂う。 それを掃うこともできないまま、俺は解析したポイントへ向かって『アルケミス』を走らせた。 1回目のユニウスセブン解体が始まり、ユニウスセブンが2つに分断される。 けれど、それだけでは地球の被害はなくならない。 もっと小さくしなければ、大気圏での摩耗を考えても消滅しない。 『ジン』の軍勢は、ジュール隊とシンたちが交戦しているところに固まっているようだった。 改造され、推進力が格段に上がっていても、この『アルケミス』には及ばないだろう。 追手もないため、俺はもう片方の大きな破片を破砕するため全速力で向かっていた。 せめて、地球にいる人たちの被害が少なく済むように。 それだけを考えて移動する。 帰還信号が上がるのが見えた。 『ボギーワン』はようやく引き下がることにしたらしい。 相手の思惑はともかく、俺はそのことに純粋に安堵した。 破片の中央部分にやってきて、『メテオストライカー』を起動させる。 周囲に邪魔をするものがないのを確認して、その真上に浮き上がる。 「Sドライブ、リンク開始。出力、最大」 音声システムが活動し、長距離砲を外周よりやや中ほどに向けてセットする。 バッテリー消費が激しいため、おそらく破砕できるのはたかが知れているが、それでもやれるだけやりたい。 トリスタンと同程度の威力を放ち、外周が砕ける。 90°旋回してまた同じように砲撃を繰り返す。 『ミネルバ』から帰還命令の信号弾が放たれた。 それでも、俺は銃を放ち続ける。 まだ。足りない。 まだ、危機は去っていない。 周囲が赤く染まり、地球の引力が周囲を引き寄せようとしている。 『さん!戻って――――――』 メイリンの通信がザザッと、不快な雑音で途切れ、切れる。 それでも俺は、撃ち続ける。 灼熱のガスのせいで、視界が薄れても、それでも俺は。 『――――我が娘の墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』 通信回線から流れた、ノイズの混ざった呪いの言葉に、手が止まった。 起動させた『メテオブレイカー』がようやくその役目を果たす為に、破片がさらに2つに砕ける。 撃ちこんで作った亀裂も功をそうして、だいぶん小さく砕くことができた。 『なぜ気付かぬか! ―――我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが、唯一正しきものと!』 また、目の前が遠くなる。 どうして。 なんでだ。 許せなければ、すべてを壊すのか? 相手が向かってくるから、そのすべてを滅ぼさないといけないのか? 「違う・・・っ・・」 絶対に、違うはずだ。 「そんなのは、間違ってる!!」 通信はすでにどこにもつながっていなかった。 大気圏に突入し、通信自体が不可能な状態になっている。 それでも、俺は訴えたかった。 さっきの声へ、言いたかった。 「争ったっていい。憎んだって、嫌ったっていい! だけど、だけどな! ―――――――殺しあうことだけは、絶対にしちゃいけないんだ!!」 人が死んで、悲しいってわかってるのに、なんで同じことを、同じ思いをさせないと気が済まないって思える? 誰も味わいたくない苦しみを、どうして与えたいなんて思うんだ。 そんな悲しい世界は、誰も、望んでいないじゃないか。 誰かを傷つけなければ、得られない幸せなんて。 何かを消さなきゃ、得られない幸せなんて。 「――――――――――そんなもの、俺はいらない!!」 誰かを泣かせる世界なんて、いらない。 だって、見たくないんだ。俺は。 泣いて。 苦しんで。 絶望して。 そんなものを、―――――――――もう。 見たくないんだ。 |