俺が軍に入った理由。 キラの気持ちを知ること。 キラが何に傷付いていたのかを肌身に感じること。 これはただの俺のエゴだから、だから、そんなことのために誰かを傷つけることはしたくないと、人を殺さないことを誓った。 それと同時に、世界がキラにとって、そして誰にとっても安寧であるようにと願った。 そのためなら軍に使われることになってもいいかと思っていた。 だから、デュランダル議長の言葉を真に受けないでも、軍人として使われることは気にとめなかった。 俺は俺のために、この世界を守りたい。 世界が滅んでほしくない。 だから、戦争なんて、争いなんて起こってほしくない。 誰かが戦うことは辛い。 誰かが死ぬことが辛い。 誰かが傷付くことが辛い。 なのに、世界は争いを求める。 それが摂理だというように。 今だって。1年前の事実すら忘れたように、また戦争が火蓋を切った。 オーブ軍港に停泊しているこんな短い間でも、世界は酷い方向へと向かって突き進んでいる。 先日グラディス艦長に召集されたクルー全員は、今回のユニウスセブン墜落の報復とばかりに攻撃をした連合とザフトの攻防戦、そして今後の情勢を聞かされ戸惑いを隠せなかった。 もはやつかの間の休息という雰囲気ではなくなり、ミネルバはとにかく数日でも早くザフト軍基地に戻るための準備に明け暮れることになった。 オーブが今現在、中立の立場にいるとはいえ、いつどうなるか、そしてそのままでいるかはもはやあやしい。 そんな噂が流れ始め、クルーの中では不安も出ていた。 早く脱出した方がいいのではないのか。と。 そんなおり、再び艦長がクルーに渡した情報は、再び戸惑わせるものになる。 噂ではなく事実としてオーブと大西洋連合との同盟の締結が近いとの情報。そして、すぐさまオーブを脱出する旨が伝えられた。 まるで追い出される様に『ミネルバ』の出港が決まり、忙しなくなった港にカガリが来た時、その情報は正に真実で。そして、オーブすら戦争という激動の流れを変える力が残されていないのかと、項垂れた。 「何しにきたっ!」 一番に反応したのはシンだった。 怒りの形相をあらわにしてカガリさんに突っかかるシンに、誰も止めることができない。 「あのときオーブを攻めた地球軍と今度は同盟か!? どこまでいい加減で身勝手なんだ、あんたたちはっ!」 シンほどではないにしろ、オーブに対しては誰しもが失望していた。俺も、シンを止められないくらいにはそうだ。 「敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!こんな国!!」 「シン!」 何も言えない、言わないカガリに言い放って、シンはそのまま去っていく。ルナもシンを追いかけ、レイはカガリに頭を下げてから二人の後に続いた。 3人を視線で見送って、俺はシンを目で追い掛けてうなだれるカガリを見つめた。 後ろに着いている護衛には、とても奇妙に見えただろう。 一介の軍人と国の代表に、接点なんてない。そういえば。あの馬鹿ばどこに行ったんだろうか。カガリの護衛役じゃなかったか? 「・・・・・・」 じっと見つめ続ける俺へ、カガリが叱られると思っている子供の様な顔で伺ってくる。 こんな顔のこの人に何かを言うのは辛い。それでも、この人を信じている一人として、言っておきたいことがある。 「あなたを信じていた国民は、きっとあなたに失望する」 「っ・・・・!」 この時の俺は知らなかった。カガリさんには今、真実頼れる人がいない状態だということに。 アスランは旅立ち、キラも遠く離された今、助言も相談も誰にもできず、孤独な状態のカガリには、この言葉は本当に胸を抉った。 「どんなに責任逃れをしたとしても、事実は変わらない」 「でもったった1人で、私は・・・・っ!」 この時のカガリには、ようやく弱音を吐ける人物が俺だった。 泣きそうなカガリを、それでも俺は、きちんと、どうにかしてほしくて激を飛ばした。 「しっかりしろ! カガリ・ユラ・アスハ!!」 弾かれた様に、カガリの身体が震える。 「あなたが惑わされるほど、この国の行く末は酷くなる。迷うなら信頼できる相手に話せ!力がないなら味方を集めろ!あなた自身を守れない人に、この国は守れない」 怯えているようなこの人に、酷い言葉しか言えない。だけど、この国を変えられる人は、この国の人たちを守れるのは、今はカガリだけだ。 「こんなことしか言えなくて、ごめんなさい」 慰めがカガリを楽にするとわかっていても、言えなかった。今のカガリにはどれほど辛くても踏張ってほしい。 「・・・・っ、っ」 「信じています。カガリさん」 なんて、押し付けがましいんだ。 自分の言葉が上滑りしているように感じた。 カガリは心配そうな、不安な顔をしていた。 力になれなくてごめんなさい。心の中で、ひたすらに謝った。 シン達と合流したその後の雰囲気は、刺々しいものだった。 寡黙なレイは相変わらず口を接ぐんで。シンはオーブへの怒りで回りが見えていないし、ルナも盛り上げようとするが空回っていて。拾う役の俺も、そんな気分にはなれなくて上の空だった。 ずっと考え続けている。 どうやったら、争いは止められるんだろうかと。 答えはでない。 いつまでたっても。 どんなに考えても。 単純なすれ違いのせいで、凝り固まった心理のせいで、どうやっても、上手くいかない。 何か、共有できるものがあればいいのに。 閉鎖された世界の壁を壊すものがあればいいのに。 なのに、悪意はどこまでも追い掛ける。 『コンディション・レッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!』 メイリンからの指示と警報に、その場の全員が耳を疑った。 まだ領海を出るくらいの場所だ。いくら連邦とザフトが臨戦態勢にあるとはいえ、こんな場所で戦闘があるとは普通思わない。 「レッドって、なんで!?」 「知らないわよ!なんで私に聞くの!?」 待機所を飛び出すものの、パニックを起こすシンとルナマリア。 その中で、俺は、ああ、やっぱりと確信に似たものを感じていた。 『艦長、タリア・グラディスよりミネルバ全クルーへ』 その想像通りに、艦長から情報が提示される。 格納庫へ入った俺達は、流れる情報を逃すまいと意識しながら、戦闘準備をしていった。 『現在本艦の前面には、空母4隻を含む地球軍艦隊が。そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である』 「空母4隻!?」 「後ろにオーブが・・・?」 ルナマリアとシンは、未だに混乱している。 それを説き伏せるように、判断を冷静にさせるために、艦長の言葉はゆっくりと、状況を詳細に、そして作戦を語りだした。 『地球軍は本艦の出航を知り、網を張っていたと思われ、またオーブは後方のドアを閉めている。 我らには、前方の地球軍隊突破の他に活路はない。これより開始される戦闘はかつてないほどに厳しいものになると思われるが、本艦は何としても、これを突破しなければならない』 混乱は、誰もが大小ながら払拭されていた。 クルーを重んじてくれる、優秀な上官。この人の隊に入れて良かった。何でもない時なら、そう思えただろう。 だけど今の状況では、些細なことだ。 『このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する!』 オーブの支援はない。それどころか、敵に回る場合もあるだろう。 故郷だったオーブが、敵になる。 「くっそおお!!」 艦長の言葉に、もう何度目になるかわからない絶望を感じた。 シンの声が、同じように響く。 『ねえ、』 胸の痛みに悩みながら、『アルケミス』の起動と武器の確認をしていると、同じく準備をしているルナマリアから通信が入り、俺はモニターに顔を向けた。 『オーブが、ってことは、あの人、アスハ――』 「カガリさんじゃない」 こんな時に、何を言ってくるんだ。 不安に顔を潜めるルナマリアの発言を、被せて否定した。 「あの人は、こんなことしない」 それは、ミネルバの中で俺が一番良くわかってる。 「今、オーブの情勢はあの人の手から離れてしまっている。だから、オーブは連合と組んでしまった」 でなければ、こんな状態には決してならなかった。 義理堅いあの人が、ミネルバへの恩を忘れるような事態にさせたりなんてしない。 カガリのせいじゃない。 「裏表もできないあの人に、こっちを騙す芸当なんてできっこない。」 だけど、オーブが牙を向いていることも、変わらない。 「ルナ、今は逃げ延びることを考えよう」 『え・・・ええ』 今はそんなこと討論している場合じゃない。 『『インパルス』と『アルケミス』は、戦闘中ミネルバからあまり離れないようにお願いします!』 「了解」 メイリンからの指示が入り、ルナマリアとの通信を切って、今度はシンとの通信を開いた。 シンの赤い目が、怒りに燃えているのがモニター越しにもわかる。 機嫌が悪い時のシンは暴走しやすい。俺は少しでも落ち着かせようと声をかけた。 「シン、今回は俺達しか自由に動きまわれない」 『わかってる!』 煩わしく返すシンへ、俺は口調を強める。 「シン!」 『なんだよ!!』 「――怒りに我を失うな。俺たちがやられたら、ミネルバが沈むかもしれないんだ」 頭ごなしに言わないようにするのは、気を使った。 今のシンに上から言うのは逆効果だと今までの付き合いで知っている。 やきもきしているのはこっちも同じだ。シンを落ち着かせることで、自分も落ち着こうとしているのは自覚している。 シンの顔が、怒りとは別の感情で歪んだ。 その複雑な表情が、一体何を表しているのかがわからない。 辛そうな、責めるような、なのに悲しそうな、どれも合っているようで、わからない。 『・・・は、平気なのかよ』 震える声で、シンが問いかけてくる。 『俺は。俺は、オーブを、あいつを、・・・許せないっ!!』 シンはオーブを、そしてアスハを嫌っている。 家族を守らなかったオーブを。 だから、今の状況を許せないと思うは、仕方がない。 同じ故郷を持つ俺も、この事態を許せないと思っていると考えているんだろうか。 だけど。 「俺は」 『だけど!お前はっ!―――違うだろ!?あいつを、信じてるって言うんだろう!?』 予想外の言葉に、俺は驚いて言葉を失った。 「・・・シン」 シンの言葉は、間違いなく俺が考えていることに一致した。 思考が当たったことも驚いたし、シンが俺のことを、自分のことを汲み取ってくれていることにも驚いた。 シンも俺も、次の言葉は出なかった。 こちらを強く見つめるシンに、俺はただ目を丸くして見返すだけだった。 『発進シークエンスを開始してください』 その空気を破ったのはメイリンからの発進要請だった。 お互いに今の状況を思い出し、改めてシンを見る。 今は言い合いをしている時じゃない。地球軍をどうにかしない限り、ミネルバの全員が死ぬことになる。 今抱えているわだかまりを全部忘れて、戦うことに意識を切り替える。 「生き残ろう。絶対に。守る」 それに、シンも強く、頷いた。 『インパルス』が発進し、続いて『アルケミス』もハッチへと流される。 「・ヤマト『アルケミス』行きます!」 近接戦闘を得意とする『デュアル』で飛び出し、見渡した大空と海原には、敵の艦隊とモビルスーツの大群が広がっていた。 ミネルバの情報を収集し、確認すると、空母4隻の他にも20隻以上の軍艦が隊列を組んでいるのがわかった。 それぞれにモビルスーツを抱えていると考えれば、もう数える方が絶望する数が揃っているのは間違いない。 事実、今目の前に広がる光景は、連邦のモビルスーツで作られた黒い雲で、空が埋め尽くされて染まっているものだった。 なんて、数だ。 たった一隻にこれだけの戦力なんて、聞いたことがない。 こっちがいくら新型だといったって、これでは最悪欠片も残らずに全滅することになる。 全力でしかけなければ、殺される。 これじゃあ、また、殺すことになる。 殺さなきゃ、生き残れない。 ミネルバが、仲間が殺される。 『インパルス』が敵陣へ向かって突き進み、ビームライフルを放った。 敵モビルスーツが海へ向かって落下して、ようやく頭が働き体が動くようになる。 シンの攻撃によって向こう側の隊列が乱れ、その隙にシンが再びモビルスーツを撃ち落とした。 しかし、それでも数はものともしない。 別の方向から来る『インパルス』への火戦。『インパルス』がそれをかわし、さらにそれを狙った敵が攻撃しようとする隙を狙い、ビームライフルを撃てるだけ撃ち、撃った数分だけ相手モビルスーツの機動力を奪って沈黙させた。 重ねてきた練習の積み重ねは、間違いなく発揮されていた。向こう側の動きを想定して機動力部分を攻撃することは、難なくできた。 できるだけ殺さずに、今まで気を揉んでいたことが、確実に体に染みついている。 俺はシンの動向に気を揉みつつ、敵の数を減らしていくことに専念した。 確実に、敵は減っている。 それでも、敵の数は限がなかった。 シンが奮闘しても。レイとルナが頑張っても、ミネルバが敵艦を落としても、活路が開けない。 向こうの壁のような攻撃が、こちらをいつまでも苦しめる。 苦しくても、モビルスーツに囲まれ、ミネルバの進行ルートを開けようと奮闘する。 しかしそこで、海の中からこちらへ向かう敵影に気付き、その情報に気を取られた。 「不明機!?」 姿を現したその機体は、形状からしてモビルアーマー。モビルスーツと比べるとほぼ4機分の大きさだ。緑色の、カニのような有機的なフォルムに、交差して伸びる4本の足。その関節部分にはそれぞれに砲門が付いている、データにはない機体だった。 連邦の新型機であろうそいつは、まっすぐにミネルバへ向かって海上すれすれを波しぶきを上げて飛び迫る。 新型機の接近に気付いたのだろう。ミネルバの艦首から砲門が現れた。 タンホイザーを撃つのか!? 確かに得体のしれない機体の接近を許すわけにはいかない。確実にしとめることが正解だろう。 大気圏では放射能を発生させる陽電子砲だが、今は使う以外に最善の手はない。 タンホイザーが新型モビルアーマーへ向かって発射され、その後方にいた戦艦ごと光の渦で飲み込んだ。 戦艦を爆発させた陽電子砲は、しかし、そのモビルアーマーに傷一つ負わせなかった。 「ミネルバ!!」 なおも接近する新型に寒気を覚え、これ以上近寄らすまいと、俺はビームライフルを放ちながら新型に向かった。 陽電子砲と同じく、ビームは機体にあたる前で弾かれている。 リフレクターを発動して、攻撃を無効化しているのだ。 これでは、遠距離から奴を倒すことはできない。 歯噛みし、追い打ちをかけるように上空にいる敵モビルスーツがこちらへ向けてライフルを放ってきた。 それの回避をしたせいで、ミネルバとモビルアーマーとの距離が離される。 何度も撃ちあい、回避してを繰り返し、周りを蹴散らしている最中、『インパルス』がモビルアーマーと戦闘し、押されていることに気がついた。 「シン!」 気を取られた一瞬の隙が、『アルケミス』へ放たれたビームを被弾させる。 「うわっ!!」 ライフルにあたったそれは銃身を爆発させ、攻撃の術を一つ奪う。 間合いを近付かせ、包囲する敵モビルスーツは、間違いなく俺の首を狩る為の布陣を組んでいく。 「くそっ!邪魔するな!」 だからって、このまま死ぬ気はない! 背中に装備してあるビームサーベルを引き抜き、敵陣へ突っ込んだ。 近接戦闘が苦手だろうが、『インパルス』よりも性能の高い『アルケミス』の機動力があれば訳はない。 敵の攻撃をかいくぐり、武器を持つ手足を切って突き進む。 <ザフト軍艦『ミネルバ』に告ぐ――> その時、領海に並びつつもずっと沈黙していたオーブ艦隊から、警告が発せられた。 <貴艦はオーブ連合首長国の領域に接近中である。我が国は貴艦の領域への侵犯を一切認めない。速やかに転針されたし・・・> いつの間にか、ミネルバは領海近くへと追いつめられていた。 これ以上近づけば、本気でオーブ艦はこちらへ攻撃してくるだろう。 だが、ミネルバが前方に行くためのルートはない。 「くそぉ!!」 半狂乱になった俺は、全部を無視してミネルバへ急いだ。 しかし、敵はそれを許さない。 仕留めようと牙を向く。 そして―――――― 「シンッッ!!!」 サブモニターで捉えた『インパルス』が、新型モビルアーマーのクローに捕らわれたのを見た瞬間、全身に氷水をぶつけられた気分になった。 『インパルス』はクローに挟まれたまま振り回され、その間に『インパルス』のヴァリアブルフェイズシフト装甲が落ち、鮮やかな青のカラーリングが灰色に塗り替わった。 装甲による防御がなくなった『インパルス』は、たやすくクローによってその足をもぎ取られる。 支えを無くして振り飛ばされた『インパルス』は海面を水平に飛び、それを追ってモビルアーマーが止めを刺そうと迫る。 なすすべが、ない。 どうすれば、どうすればいい? シンが殺されてしまう。 シンが、死んでしまう。 皆が、死んで―――――――― 『ミネルバっ!デュートリオンビームを!』 目の前が真っ白に染まったのを引き戻したのは、―――――シンの鋭い声だった。 シンっ―――――― 一筋の光明が、絶望に染まった戦場に降り注ぐ。 装甲の復活していない灰色の機体が、まるで息を吹き返したかのようになめらかに動き、ミネルバへ迫っていた。 さっきまでの劣勢なんて嘘のようなその動きは、打って変わってモビルアーマーをものともしなかった。 ミネルバの上空へ戻った『インパルス』がデュートリオンビームを受けてカラーリングを元に戻す。 その後のシンの戦いぶりは恐ろしく激しいものだった。 パワーが戻った機体を翻して、さっきまで苦戦していたモビルアーマーの攻撃をなんなくシールドで弾き、ビームサーベルで破壊した。 その後、すぐさま『インパルス』を機動力のある『フォース』シルエットから『ソード』シルエットへ変換し、戦艦へ飛び移る。 そして長刀を振り回し、戦艦を次々となぎ倒し、沈黙させていった。 その姿は、まるで鬼神だった。 「こんな・・・」 バーサーカー。狂戦士。 そんな言葉が当てはまる。 どこかで聞いたことがある。戦闘時にまるで振り切れたように力を振るうことができる人間がいると。 シンの今の姿は、間違いなくそれだった。 今まで見たことのないシンの姿がある。戦闘スキルは誰よりもあったが、それでもこれは、いつもなんかと比べ物にならない。 「シン・・・っ」 なぎ倒し、爆発していく戦艦の間を飛び回る、赤い装甲。 その光景に見入り、そして襲ってくる寒気に襲われて、一瞬で変わった戦局に呆然としていた。 地球軍は撤退をしている。 たった1機のモビルスーツに瞬く間に戦艦や空母を蹂躙、破壊され、逃げて行った。 海の上に、火の華が咲き乱れる。 それは、人の死を招く、地獄の華だ。 俺が嫌いなものだ。 だけど、そうしなければ、生き残れなかったものだ。 「俺、は・・・!」 呟いたものの、それは何の意味もなかった。 何を言いたかったのかもわからない。 ただ、いいようのない不安が襲って、言葉を紡がせた。 「・・・っ」 呟いたその後に続く言葉は、もちろんない。 いつの間にか、周りには敵機はいなかった。 手のひらを見つめて、俺は何をしているのだろうか。 『『インパルス』!『アルケミス』!シン!!帰艦してください!』 メイリンの声に、我に帰れた。 ああ。そうだ。帰らなければ。 帰って。みんなの無事を知りたい。 機体を返して、ふと、海に目を向けた。 そして、ぎくりと体が強張った。 海の上には絶え間なく、一面にバラバラの金属の破片と、そして人の形をした何かが浮かんでいた。 いくつも。 いくつも。 まるで、俺を中心にして広がっているそれは、自分がしたことのように思えて。 ああ。あれは間違いなく、俺が落とした機体だ。 あれも、切った覚えが、ある。 さっき以上に、思考が真っ白になる。 シンの時が何も考えられなくて起こった思考の空白なら、今は頭の中を襲う、形のない言葉の羅列に振りまわされた白さだ。 手が、震えた。 誰かが嗤っている。 それ見たことかと、嗤っている。 お前の覚悟なんて、無益で不毛なことなのだと嘲笑っている。 人を、殺したくないのだと言い張って、結局、誰一人救えないのなら――――――― 「ただの、偽善だ・・・・っっ!」 何度も、もういらないのに何度も思い知らされる。 今まで自分がしてきた事の無意味さに、押しつぶされそうだった。 |