ずっと考えていた。 どうして君が離れて行ってしまったのか。 君を危険から遠ざけるために突き放してしまったからだろうか。 僕の我儘を優先させたから? 君の気持ちを、考えようともしなかったから。 言い訳にしかならないけれど、僕は参っていて。 約束を守れた君だけが心の拠り所で。 そう。 たぶん、誰でもよかったのかもしれない。 僕は守れなかったことに後悔した。 あの人と同じ汚いもので、結局は最後に飲まれてしまった。 それを認めたくなくて、何も知らないままでいられた象徴が君で。 聡い君はそれに気付いてしまった。 それが君の自尊心を傷付けた。 すがることが、じゃない。 君にとって誰かに頼られることは嬉しいこと。 でも僕はただ君をお気に入りのヌイグルミにするように可愛がるだけ。 黙って聞いてくれるものを求めただけ。 不満を言わずに傍にいてくれるものを欲しがっただけ。 君が一番嫌いな方法で、僕は君に縋りついた。 ああ、そうだね。 僕は君を傷付けた。 だから僕は置き去られた。 いつだって僕を一番に考えてくれている人を、僕は最悪な方法で、そうとわからずに切り捨ててしまったのか。 淋しいのに。 僕は君が帰ってこないことを心底ホッとしている。 だってもう縛り付ける事もない。 僕のエゴで、我儘で、自分勝手な都合で、君を苦しめることもない。 君のために僕ができることは、君の帰る場所を守ることだけ。 だから、オーブを。 僕達の故郷を火の海にするわけにはいかなかった。 僕たちの故郷が、他の国を傷つける状況は阻止したかった。 その為にカガリを連れ去ったのは強引だったとは思う。 でも他に思いつかなかったから仕方ない。 階級はあっても僕は威光を持つ部外者だから、発言力はない。 でも、カガリを毒するものからは遠ざけることはできた。 僕たちは考えなくちゃいけない。 何の為に、何をしなければいけないのかを。 その為に必要な情報は、至る所に散らばっていて、真実を知るには難しい。 衛星を落としたゲリラがコーディネーターだからだといって、プラントに戦争を仕掛ける連合。 その横では独立を望む国を阻止しようと部隊を動かしている。 プラントは献身的に支援を出して、救援を求める声に手を貸している。 現状、善悪で二分できる様な二国間。 だけど、僕らは他の誰もが知らない現実を知っている。 それは、僕たちがオーブを出ることを決意した原因だ。 ラクスの暗殺未遂。 そして、プラントにいるラクスの偽物。 そこから導かれる答えは、プラントを、デュランダル議長を信用することができなくなるものだ。 現状、僕たちが動いても、ただ混乱させるだけになる。 じっと待つしかない。 決定的な何かがあるまでは。 深海を停留するアークエンジェルの中、お風呂にでも入ろうかと廊下を歩いていた僕は、カガリの姿を見つけた。 カガリは海を見渡すことができる見晴らし場にたたずんでいた。 そのとなりに立って、見守るのはラクスだ。 何をしているんだろうと近付こうとして、カガリの呟きに足を止めた。 「私は弱いな。1人じゃ、何もできない。そしてそれを、自分で知ることもできなかった」 その言葉に、カガリをさらったその日の事を思い出した。 自分を犠牲にしようとしたカガリをたしなめたことを。 まだ何もわからない僕達だけど、選ぶ道を間違えたら、行きたいところへは行けない。 だからカガリも一緒に、みんなで答えを出さなきゃならない。と。 そう言った後、安心するみたいに泣いたカガリを思い出した。 あれから事態はちっとも進んでいないけど、カガリを落ち着かせる時間ができたのは良かったかもしれない。 「そういえば」 ふと、何かを思い出したのか、カガリが顔を上げた。 「にも、言われたんだったな。 人を頼れ。味方してくれる人を作れ。自分を守れない人に、何かを守ることはできないって」 ずきりと胸が軋んだ。 名前を聞くだけで、心を騒がせる。 そんなことをいつ言われたんだろう。 僕がまいって入る時の記憶はあまりない。 その時だろうか。 カガリの呟きに、ラクスは驚いたようだった。 「に会ったのですか?」 「あ、ああ。えっと、うん」 狼狽えるカガリに、ラクスはそうですかと納得していた。 しばらく黙り込んでラクスも告白した。 「わたくしも、に会いましたわ」 「ええ!?」 カガリの驚きの声が、僕の気持ちと重なる。 どういうことなの。 どこで会ったの? 飛び出して、気が付けば2人の前に来ていた。 驚き、ばつが悪い顔を2人同時にする。 「カガリ、ラクス。どういうこと?」 に何があるっていうの? 2人は黙りあい、カガリがラクスを見る。 目を閉じて、ラクスは「との約束を破ってしまいますわね」と苦笑を浮かべた。 「カガリ、今はザフトにいる。そうですわね」 「―――ああ…」 硝子がひび割れする感覚が身体に起こったら、こんな感じなんだろうか。 力が入らなくなりへたりこむ僕を、2人が気遣う。 ―――――――ああ、。・・・・・・・・・・・・・・。 僕がしてしまった結果が、これなのか。 立ち直れない僕を、2人は部屋まで連れていってくれた。 1人にしてしまうと心配だからと2人とも部屋にいてくれた。 嬉しいけど、辛い。 に会えない以上に辛いと思うことが、あったのか。 今すぐにを連れ戻したい。 でもそれをしたら君は絶対に僕を許さないだろう。 「そうでなければと思っておりました」 「あいつも、なんであんなことしたんだか」 離れた場所で、ラクスとカガリが話しているのをじっと聞いていた。 2人は僕が寝ていると思っているのか、ささやき程度の声での事を話していた。 「それが、キラの、いいえ。きっと、自分の為だと、思われたのかも。 は、傍観者でいることがお嫌いのようですから」 の行動をラクスは理解しているみたいだった。 うん。そうだね。はそういう子だ。 たとえ自分が及ばないものだとしても、何かを考える子だ。 「だからって、極端なんだよ」とカガリがぼやく。 「わたくしは好きですわ。何かを目指して進む方は」 「まあ、私も、嫌いじゃないが……」 の心は、鋼みたいにしなやかで硬い。 折れそうになったら、別の方向から立ち向かっていく柔軟性もある。 たった一つを求めて突き進める強さは、人には眩しく映るだろう。 そんな君が望んでいるたった一つが、平凡なものだって、僕は知っている。 だから、心配になる。 「キラには知らないままでいてほしかったな」 「そうですわね。言えばきっと、何も考えずに攫いにいくと思っておりましたから」 「だよなぁ」 やっぱり飛び出したくなった時に、2人の会話が聞こえて身を硬くした。 「彼は、心配いりませんわ。きっと、どんなに悩んでいても、答えを見つけられる。 自分が求める未来を知っている方ですもの。 めざすものを持っている方は、とても強い」 わかってる。僕が必要ないくらい。 は1人で決めて、してしまうことを。 「強すぎだよな。こっちが入り込めなくなる」 「逆に心配されてしまいますものね」 自分のことも、人のことも、同じように気にして。 疲れているとわかっていても、してしまう。 「そこが心配の種ですわ」と言うラクスに同感する。 「もっと、楽にしてほしいですわ。彼には」 が何の悩みもなく、笑っていたのなら。その時はきっとの望んだ世界になっている時だ。 「あいつが帰ったら、うんと甘やかす」 カガリが意気込んで。 「困るくらい、甘えてしまいましょうか」 ラクスがいたずらを思いついたように楽しそうに笑う。 「キラが嫉妬するくらいベタベタにな」 「ダメだよ」 2人がを独占してしまう気がして、会話に割り込んだ。 「起きてましたの?」なんてラクスがそらとぼける。 絶対気が付いてたな。ラクス。 「許さないから。は僕のだから」 2人を睨んで牽制する。 女の子2人は顔を見合せ、声をたてて笑いだした。 絶対にを取られたくない僕は、現質を取るまで2人に訴え続けた。 大丈夫。 信じられる。 頑張れる。 絶対に見つけてみせる。 君の為にも。 僕はお兄ちゃんだから。 |