「シン!『フリーダム』との接触は極力控えてくれ!」

猛攻を繰り広げる『フリーダム』に向かおうとするシンを引き留めるためにそう伝えると、急制動した『インパルス』は異論を抱く反応をした。

『なんでだよ!あんなのにっ、あれに!好き勝手させろって言うのか!?』

噛みつくシンの言葉は、当然の疑問だろう。
唐突な介入者に混乱しない訳はない。
それ以上に反発しているような違和感があったが、戦闘中という状況のせいだろうと考えて俺はシンを諭す。

「『フリーダム』を相手にするほうが厄介だ。連合の戦力を減らしてくれるのなら、それでいい」
『あいつらにまかせるのかよ!!?』
「そうじゃない! こっちにまでいらない被害を受けたくないんだ!」

激昂するシンの言葉に、俺も叫んでいた。
『フリーダム』は俺には止められない。

キラが戦うのは見たくないが、止める術がわからない。
『フリーダム』の機動力は予想以上に早い。俺では適わないだろう。
人海戦術を仕掛ける連合の攻撃をいなしながらでは、なおさら不可能だ。

それに、今のミネルバの中で『フリーダム』と戦って傷を負わずに勝てる誰かがいるとは思えなかった。

シンはしばらく黙った後『わかった・・』と承諾してくれた。
ミネルバを守るために動くように頼んで、俺はこちらに向かってくる連合のモビルスーツに対応するために構えなおした。

『フリーダム』の他にも向かってくる相手はいる。
数で襲い掛かるモビルスーツを『インパルス』と協力して打ち倒し、俺は戦況を確認するために周りを見回した。

飛行できない『ウォーリア』『ファントム』はミネルバと連携して数を落としていた。
『グフ』は『ガイア』と戦闘中だ。

俺は地上での攻防で、『グフ』だけが孤立している事に気付き、こちらの周りには敵がいないことを確認してからそっちに向かった。

その間にも『フリーダム』の猛攻は続いており、敵意や戦闘意欲を示しているものに対して攻撃を行い、この戦いを強制的に終わらせようと動いている。
『フリーダム』に撃墜されないためにも、1人での戦闘は、今は極力避けたい。


向かう間にも『グフ』と『ガイア』の攻防は続いている。
『ガイア』は無闇に『グフ』に攻撃するが、ハイネはそれをいなしていた。

この調子ならハイネさんは大丈夫だろう。

ハイネの優勢に内心胸を撫で下ろすが、近くに『フリーダム』が迫ってきていることに気付いた。
明らかにハイネさんと『ガイア』を狙っている動きだ。
安心する暇も与えてくれないな!

『ハイネ!』
「ハイネさん!」
『くそっ 冗談じゃない!』

俺とアスラン、ハイネさんの声が重なる。

『ガイア』と『グフ』の交戦に割って入ろうとする『フリーダム』。
気付いた『ガイア』は『フリーダム』へ牙を向けるが、『フリーダム』は『ガイア』の動きを最小限で交わし、両前足を切り裂いた。
『フリーダム』はさらに、応戦のために構える『グフ』のチェーンを右腕部ごと切り落として、次の場所を探すように別の方向へ向かおうとした。
それでこの戦闘が一時的に終わる。

機体は損傷したがハイネさんは無事だ。
そうほっとした矢先に、状況がよくないことに気付く。

こちらを振り見た『フリーダム』と『グフ』の向こう側、『ガイア』が胴体のブレードを左右に開いていた。


―――――――――2人が切断される光景が浮かんで、頭が白くなった。


感情の爆発より先に、体が動いた。
急接近しつつ『ガイア』のブレードの付け根に照準を合わせ、左ブレードをライフルで破壊。
『グフ』を庇うために機体を『グフ』の背面で『アルケミス』を急制動。海側に落ちる『ガイア』や他の機体がこちらに仕掛けて来ないか見張り、仕掛けてきそうな『ウィンダム』機の武器と肩を破壊した。

頭が回転しだしたのは、ウィンダムが煙を上げて落ちかけている状態になった後だった。

周囲を見ると、『カオス』が『ガイア』を回収していた。
そのまま母船へ引き返す2機が対応できないところまで去っていくのを確認し、背後を振り返る。

「ハイネさん、大丈夫ですか!」
『五体満足だよ。機体以外はな』

『フリーダム』はすでに別の所に移動しており、損傷した『グフ』だけが留まっていた。
軽口が飛ぶハイネさんの声に、ふと安堵の息を小さく吐く。忌々しい声音もあったが、生きていてくれるだけでいい。

「ミネルバに戻りましょう」

『グフ』を連れ帰るために近寄ると、『グフ』は拒むようにミネルバの方向を向いた。

『1人で戻れる。お前は他の奴らを。
 あと―――』
「はい?」
『さんは付けなくていいって言ったろ?』

に、と笑う人好きの顔でそう言われて、「ハイネ・・・」と、応える。ハイネはそれに満足そうに頷いた。

『悪いな。後は頼んだ』
「はい」
『――――――やっぱお前も、議長のお気に入りなだけあるな』
「え、?」

どういう意味か問う間もなく、『グフ』との通信が切れて、『グフ』はミネルバに戻っていった。






その後、連合の主力機が撤退したことで事態は終息を迎えた。
引いていく連合側を見て、混乱した戦いに誰もが疲労し、安堵のため息を吐いていた。

戦闘終了後は再度プラント軍基地へ戻り、損傷と補給のためにクルー中があわただしくなった。

ミネルバは主砲であるタンホイザーを撃ち抜かれた以外には大きな損害を受けずにすんだ。
小破した機体はあるものの、パイロットは全員無事だ。辛勝でもいいほうだろう。

それでも、戦争であるかぎり、やはりどうしても死傷者は出てしまう。

タンホイザー起動時に撃ち抜かれたミネルバは、幾人かの整備班の命を奪っていた。
犠牲者の遺体収容に親しいものが泣き、心を痛める。
今までの戦いだって命を落とした人がいなかったわけじゃないが、今回ほど無意味な戦いと思ったことはない。
しかもその元凶は、『フリーダム』を操ったキラだ。

戦闘中に死んでいった兵たちに黙祷をささげて、俺はまた、次の戦いにも『アークエンジェル』が、キラが介入してくるのだろうことを憂いた。

敵でもない、味方でもない。そんな相手が、止めるためだけに武力介入し、そして、被害を及ぼす。
それを良しとみるのか、悪と見るのかは人それぞれだろう。
その不条理と同じかそれ以上に、俺はキラがまた戦いに出たことを、カガリが、アークエンジェルが、あんな方法でオーブを止めたことに気持ちが滅入っていた。
この先もまだ続くのかと思うと、胸が裂けそうに痛む。

こっちはしたいことの入り口にも立てていないのに。命ばかりがなすすべもなく消えていく。

無力感で、押しつぶされそうだ。


!ここにいたのかよ」


大声で呼ばれて降り仰ぐと、ハイネがこちらに向かって手を振ってきた。
駆け寄ったハイネは俺の顔を見て苦笑する。

「なんて顔してるんだ。この後の主役だろ?」

意味深な言葉に、そういえば艦長にアークエンジェルについて説明しなければならないと思い出した。

正直、逃げ出したい。

俺の気持ちをどう受け取ったのか、ハイネは笑って肩を叩いた。

「そんなに気構えるなって。取って食う訳じゃないんだから」

それはそうだろうが、下手すると俺は投獄される状況にあるんじゃないだろうか。
俺の不安も意気地ない気持ちもあっさりと流して、ハイネは艦長室へ促す。

「うじうじするなよ。難しく考えたって、どつぼにはまるだけだぜ」

全部を知っているのかいないのか。そんなことを言うハイネに、俺は何度目かわからない腹をくくった。






***







艦長室に集まったのは、艦長と副艦長のアーサーさん、フェイスのハイネ、レイとシンだった。
アスランとルナの姿がないことに説明を求めると、アスランはアークエンジェルとの接触のために個人行動。ルナは別任務が入ったため にミネルバを離れていると説明された。
なんとか彼らを止めるために説得したいと進言し、飛び出していったアスランのことを聞いて、きっと期待はできないだろうなと思いつつ頷いた。
無謀でも行動できるあいつは少しうらやましい。

「さて、聞かせてもらいましょうか。貴方が隠していることを」

そう促したグラディス艦長は、言った後で苦笑した。

「少し言い方が悪かったかしらね?」
「いえ」

いいも悪いも事実だから仕方ない。
腹をくくるには意気地がない理由しかないが、俺は少しだけ考えてから説明を始めた。

「―――俺と、アスハ代表に関係があることは、皆知っていると思います。
 アスランとは幼なじみですが、アスハ代表とはそれほどつきあいは長くありません。
 知り合ったのは、先の大戦中の話です」

これも周知だろうが、念のため繰り返した。
そしてここからは誰にも知られていない話だ。

「つながりができたのは、とある事件がきっかけでした。
 オーブのコロニー『ヘリオポリス』が壊滅した時に、俺の兄がアスハ代表と会ったことがきっかけです」

『ヘリオポリス』という言葉に艦長と副艦長、ハイネの顔が曇る。
壊滅の原因はザフトのせいだと知っているのだろう。

「俺の兄はヘリオポリスに暮らしていて、そこで戦火に巻き込まれました。
 ほとんどの住民はオーブ本国に避難することができましたが、兄は避難船では帰ってこなかった。
 様々な事情から、連合の軍人として戦うことになったんです。
 ―――――――――当時兄は、モビルスーツのパイロットとしてアークエンジェル搭乗機『ストライク』、そして、クライン派のモビルスーツ、『フリーダム』に乗って戦いました」

そこまで言い切って、レイを除くその場の全員が息を飲んだ。

「『フリーダム』の・・・・!」
「英雄の、弟?」
「俺自身は先の大戦で戦ってないですが」

俺にはアークエンジェルと関わりはない。
アークエンジェルのクルーに家族がいただけだ。
たったそれだけのことでも人は何かを勘ぐるし、悪用しようとする人も現れる。
だからこそ俺はそれを隠そうと思った。
議長とも一度は対立した。
キラがまた戦いに巻き込まれてほしくなくて。
誰も傷つかないでいてほしくて。

「俺が話せなかったのは、そもそも俺自身には何の価値もないことと、兄を再び戦いの場に引き出すことをしたくなかったからです。
 元々巻き込まれただけの一般人なのに、そのあとも英雄として持ち上げられて、これ以上いらない心の傷を増やさせたくなかった。
 ・・・・結局はまた、ああして飛び出されてしまいましたが」

人の気も知らないで。なんて、俺が言えた義理ではないけれど。

「アークエンジェルとの直接のつながりはないですが、大戦後、その人たちと話せる機会がありました。
 彼らがどういう志で動くのかは、わかっているつもりです。
 だからこそ、今回の戦闘の介入で、敵意と戦意を持つ者に対してだけ向かってくることも予測できました」

つまり、何かを積極的に傷つけようとしなければ襲ってこないだろうと踏んで、艦長に提案したのだ。
その通りアークエンジェルはこちら側への介入はほとんどなく、戦いを終息することができた。

「俺が知っていることは、これが全てです」

言葉を閉めて反応を伺う。
納得がいくこと、疑問に思うことが出るだろう。
「なるほどな」と、合点がいったように最初に口を開いたのはハイネだった。

「お前の戦い方と『フリーダム』の戦い方が同じだと思ったんだ」
「・・・・ええ。参考にしています。
 でも、その戦い方がどれだけリスクが大きいかも、結局犠牲が減るわけじゃないこともわかりました」

意外なところを突っ込まれて、それでも動揺せずに答えた。

あの戦い方が間違ってるとは言わないが、もう正しいとも思えない。
人の神経を逆撫でる自己満足なんだと今回で気付いた。

しばらくの間を置いて、次は艦長が話を進める。

「関係についてはわかったわ。それで、これからだけれど。あれはどう動くと思う?」
「・・・彼らは、先の大戦のとおり争いを止めるために今回も武力介入したのだと思います。
 半分以上はオーブが戦争をしてほしくないっていう、アスハ代表のわがままだと思いますけれど。
 オーブ軍が関わる限り、彼らは割り込んでくるでしょう。
 それに、もう姿を現して行動していますから、非道な戦い、彼らの理念に反する戦いは阻止しようと介入すると思われます。
 それが状況を悪くする手だとしても」
「―――――まるで正義の味方のようね」

俺の言葉に、艦長はあからさまなため息を吐く。

「それなら、彼らにこちらから支援を求めてはいけないんでしょうか?」

そんなアーサーさんの発言に、艦長がまたため口を吐いた。

「アーサー、貴方は忘れていない?彼らはこちらから先に撃って来たのよ?」

そう。ミネルバが連合を殲滅しようとタンホイザーを放つのを、砲門を破壊することで阻止したのは紛れもない事実だ。
そんな真似をされてから味方になってくれと言うのは無理な話だと分かっている。

第一、彼らがザフト――プラントにつくのかもわからない。

しばらく沈黙して、艦長は俺へ顔を向ける。

、貴方に止められないのかしら?
 それとも、―――――――――――止めたくないのかしら?」

その眼は嫌疑が籠っていた。
アーサーさんが「艦長?」と意図が分からず首を傾げる。

「アスランは彼らの行動を止めたいと言ってくれたわ。正直引っ掻き回されるこちらには有益なものじゃないし。なんとかしたいの」

俺はその眼をそらさずにいるのに苦心した。

「―――止められるかは、彼らの持つカード次第だと思います」

ザフトの軍人として今後の行動を考えることは当たり前だ。
俺だってどうにかしたい。
それでも彼らがどんな意図をもっているのか確証がない以上、どう対処するかは今答えが出ることじゃないだろう。

俺の意図を察して、今度は艦長は提案を持ち掛ける。

「なら武力行使は?」
「彼らを止めながら連合と戦うのは不利です」

居所の知れない彼らを叩くことは難しいし、対峙するときは連合がいる時が確立が高いだろう。

「連合とまとめてでなければ?『アルケミス』の探査機能なら――」
「俺がミネルバに帰れなくなると思います」

これは間違いなく断言できる。
ミネルバがそばにいるなら別の話だが、『アルケミス』単体で動いた場合、十中八九拉致監禁だ。

「まあ、身内が来たならそうかもしれないな」とハイネが相槌を打つが、艦長は疑惑の目で俺を見ている。
兄の俺に対する執念を言ってもいいだろうが、信じてくれるとは思えず、俺はそのまま黙り込んだ。

「打つ手なし。か?」

ハイネが軽いことのように周りを見て笑う。
打つ手はないわけじゃないが、それでも情報は少ない。

「対策をたてるのは、アスランが帰ってからでも遅くないと思います」

まずあいつが持ち帰ってくる情報を聞いてから動いても遅くはないだろう。
もう彼らが動いた時点で遅すぎたのだから、これよりひどくなることはおそらくない。

それに、アスランは間違いなく帰ってくるだろうし、アスランとアークエンジェル側とのやり取りは、別の形でも知ることはできるはずだ。

「ルナマリアを見張りにしているんですよね?」

俺の推測を艦長に言うと、やはり冷めた目で艦長は俺を見上げた。

「なぜそう思うのかしら?」
「彼があちらにほだされる可能性は高いですから」

元々アスランがあちら側にいたのは事実なのだから、仲間が戻って来いと言ってきた場合、説得されるのは3割といったところだろう。
あいつはあれでも自分の意志でザフトに復隊したのだから、生半可な説得では向こう側に寝返ることはない。

ただしそこに実力行使が使われれば、アスランが逃げられるのは5割以下。これは向こうがアスランを仲間にすることを目的で動いた場合だが。

カガリはあいつに戻ってきてほしいだろうけど、キラやラクスさんはどっちでもいいだろうな。
アスランに何かを求めていることはないだろうから。


「本当にか?」


どっちも説得に失敗してすごすご帰ってくる感じになるかなと予想していた所で、予期しない所から疑惑の声が上がった。

振り向いて、その声の主―――シンを見る。

「ほだされるのは、の方じゃないか?」

真紅の瞳が怒りに染まって、俺を睨んでいた。

「シン?」

今までずっと黙っていたシンの突然の発言に、俺は少し戸惑う。

いつもとは様子が違う。
敵意のようなその顔は初めて向けられるもので、だけど、その顔をどこかで見たことがある気がした。

「だってそうだろ?あいつらは、の身内みたいなもんじゃないか。それとも本当は、あいつらのスパイなんじゃないのか?」

言い返す言葉が思いつかない俺へ、シンは艦長が直接言わなかった疑問をぶつけてくる。

「ま、そういう行動は確かにしてたしな」とハイネが呟き、アーサーさんはオロオロと周囲を見渡した。
顔色を変えない艦長とレイは、シンと同意見だろうか。

「気持ちでは、俺は中立です。アークエンジェルについては、ザフトの立場として見ることはできません。
 ―――――軍人として最低ですが」

曖昧な答えを返した俺への目は、そのまま変わらなかった。

わかっていることではあったし、艦長とレイにはそういう目で見られてもおかしくないと思っていた。

ただ、それをシンに言われるのは以外で、俺は力なく想定していた言葉を紡ぐだけだった。


そのまま話は終わり、今回は解散。
俺のことは、その場にいた人間だけの秘密ということで終わった。



艦長室から出て、シンの背中を見ながら俺はようやく思い出した。
シンのさっきのまなざしが、いつかカガリへ向けていた眼と同じだったことを。

まさか、と思う。
だけど、シンは確かに以前言ったんだ。



『俺の家族は、アスハに殺された』と。



以前の戦いの時にオーブ内で戦火の被害にあったのは二つだ。


『ヘリオポリス』と『オノゴロ』――――――――――――――


士官生時代に、オノゴロの報道があったとき、シンはひどく動揺していた。
オーブそのもの以上に、カガリを、アスハを恨んでいた。
そして、さっきの戦いでは、何かに固執しているみたいに激昂していて。



閃いた答えに、背中が冷たくなる。

これを、俺は聞いていいんだろうか?



「シン、・・・・・・いいか?」

何度か迷った末に、俺は部屋に入る前にシンに声をかけた。

「なに?」

煩わしげに振り向くシンを、人気の少ないほうに誘導する。
誰の気配もないことと、誰も通りそうにない場所であることを確かめて、俺は意を決して聞いた。

「シンの家族、亡くなったのって、―――アークエンジェルが絡んで――――――」


ドンッっと頭の横をシンの拳が横切り、後ろの壁が悲鳴を上げた。


間近に迫ったシンの顔はギラギラと怒りに燃えていて。
なのに、今にも泣きそうに見えた。

「お前のそういう所、本気で腹が立つ・・・っ」

叩いてはいけない扉だったのは、すぐにわかっていた。
そして、俺の当たってほしくない予測が当たっってしまったことも感じていた。


シンの家族の仇が、アークエンジェル――――おそらく『フリーダム』であることを。


確信を確定にしたかった俺の馬鹿な真似は、シンを傷つけた。

シンは俺から目を背け、去ろうとする。

「っ、シン」

ごめん。
そう言おうとしたのに。


「俺は、一生、許さない」


こちらを向かないまま吐き出したシンの言葉に、何も言えなくなった。


仇の身内の俺が、シンに何を言うべきなのか、見つからなかった。














  ***










ああ、つまらないな。
つまらない。

面白くならないだろうか。


ルイスはそんなことを考えながら、ラボのCPに破棄プログラムがインストールされていくのを眺めていた。

「少佐!悠長な――――――」

ドアから入って早々文句を言ってきた人間を、耳元の小バエを払うように葬る。
その場でぐしゃりと糸が切れた操り人形のように倒れてから数秒。しまったと軽く思った。

(ま、儚く返り討ちにあったって報告すればいいか)

次に飛び出してきた実験動物も眉間に銃弾を打ち込んで、ルイスは完結する。


この研究施設の破棄が決まったのは先日のことだ。
どういう訳かルイスがそのメンバーに選ばれ、研究所内のすべてを破壊するよう命じられたわけだが、ルイスにとっては面白くも何もない掃除に辟易していた。

(それもこれも、ザフトがガルナハンを狩ったせいだけど)

ここから最も近い連合の拠点であるガルナハンが壊滅したことで、この研究施設がザフトの目から見える形になってしまったこと。そしてこの研究施設が不要となったため、今回廃棄することになった。

ザフトの基地に近いため爆破による破壊はできず、作戦内容は内部の殲滅と研究データの破壊なのだが。

(つまらないなあ)

あまりにも作業的かつ、生産性のないこの任務にルイスは飽き飽きしていた。

せめてもの慰めに強化人間側と研究員側それぞれを誑かして殺し合いをさせてはみたが、どうにも面白くなかった。

(こんなことなら、何が何でも残ってミネルバと戦ったほうが楽しかっただろうなぁ)

ふ、とルイスは嘆息する。
彼の眼鏡に叶いそうな数少ない人物、ミネルバのパイロット。

(次に彼に会えるのはいつかな。でも、あまり長く続かないだろうし・・・・)

ルイスの飽きは早い。
いまだかつて、ルイスを飽きることなく楽しませたのは後にも先にもたった1人。
その人物も今はもうこの世にはいない。

(いっそ、この研究所をリークしようか。でも、あの人は面白くないからなあ・・・・あの人の友人だというから期待していたのに)

せめてあの少年くらいは楽しませてくれたら、と思ったところで、ふとルイスの中で道筋が立った。

(彼がどんな反応を起こすかくらいは、楽しめるかもしれない)

思いついたルイスの口元に、無邪気な笑みが浮かぶ。
そうと決まればと、インストール中のプログラムを破棄してルイスは別のデータを入力する。

(期待しすぎだろうけど、僕の予想を超えてくれたらそれでよし)


「見つけてね。君」


笑うルイスの耳に、遠くからの爆音が響いた。

その音はルイスにはジャズのメロディのように感じられた。












予想外に溝ができていく・・・・
そして、なんか企んでます。
あと、ガルナハンあたりの話はねつ造です。念のため。
この作品は管理人の個人解釈、ねつ造、時々勘違いでできてます。
2014.8.11