<メリーメリー > クリスマスソングも、飾り付けられたツリーも。 何もかもが嬉しくない。楽しくない。 だって、わかりきっているじゃないか。 「が居ないのに・・・どうして楽しいなんて思えるんだよ」 部屋の中で僕は独りごちた。 家の中は毎年よりも少し豪華にクリスマスに彩られていた。 きっと母さんが気をきかせてくれたんだろう。それとも、母さんも寂しいのかもしれなかった。 が造ったロボットと一緒に、いつもより明るく振舞って料理を作ってる。 父さんもそれに付き合って。 でも、僕はその気になれない。 プラントに行ってしまった大好きな弟がいない。 それどころか年末年始も帰ってこない。 それだけで寂しくてたまらない。 のいた空気が家からなくなっていくことが悲しくてたまらない。 「プレゼントも・・・無駄になっちゃった」 デスクの上にある包装も、カラフルな色のはずなのに寂しく見える。 あの子の住所を知っていたけど、きっと帰ってきてくれるって思っていたから、送らなかった。 でも・・意地を張らないでおけばよかった。 こんなに寂しい思いになるくらいなら。 「会いたいよ・・・」 君は今、何をしているんだろう。 『キラ様、オ手紙デス』 軽いノックオンの後に聞こえたドア越しの声に、僕はドアを開けた。 見下ろすと、彼が残したロボットのストライクが手紙を差し出す。僕はそれを受け取って、「ありがとう」と役目を終えたストライクを見送り、部屋に戻った。 真っ白い、何の変哲もない封筒。 誰だろうと差出人を見て。 「!」 急いで封筒を破り開けた。 『 キラへ いかがお過ごしですか。体を崩したりしていないでしょうか。 こちらは元気に毎日を送っています。 ・・・なんか、他人行儀みたいだな。 手紙書くなんて今までしたことなかったから、何書けばいいのか悩みながらこれを書いています。 年末年始、家に帰れなくてごめん。 どうしても暇が出来そうにないんだ。落ち着いたらとも思うけど、当分なさそうだからせめてと思って手紙にしました。 電話も、なにもしなくてごめん。たぶん心配してるだろうな。 でも、こっちは全然大丈夫だから。こういう時、頑丈な体で良かったって思うよ。』 からの、手紙。 その文面を見て、読んで、僕は泣きそうになっていた。 忘れかけていたの息遣いを。ぬくもりを。ただの文面で感じ取ることができる。 紙の手紙と郵便局がまだあることに感謝せずにいられない。 さっきまで遠く感じていたが、こんなに、近くに感じることができるなんて。 『キラ、人様に迷惑かけてないだろうな。 何が一番心配って、お前が奇行に走ってないかが心配だ。 あのデコはともかく、母さんと父さん、カガリさんやラクスさんに迷惑かけるなよ?』 「失礼な。迷惑かけたことなんて一度もないよ」 『暴走されると後始末が大変だから、絶対おとなしくしててくれよ。頼むから。 こっちのニュースにされたら叶わない』 言いたい放題言ってくれるなあ・・・ すごく憎たらしいことが書かれているのに、でも僕の気分はとても浮き上がっていた。 ああ。の気持ちだ。 僕を思ってくれる。ただそれだけで嬉しい。 『なんか変なことしか書いてないじゃないか・・・キラのせいだからな。 まだしばらく音信不通になると思うけど、俺のことは本当に心配しなくていいからな。 今、周りのヤツらといるのが楽しいんだ。すごくいい毎日を送ってる。 お前も今、笑って毎日を送っているといい。 いつか帰ってきたとき、元気な姿を見せて欲しいです。 メリークリスマス。 そして、良いお年を。 』 「変な文面・・・」 呟いて、僕はくっと喉の奥で笑った。 笑った後が苦しくて、鼻水までたれてきそうで、僕は鼻をすする。 そして顔を袖で擦った。 苦手なのに、書いてくれた君の手紙。 嬉しい。 嬉しいよ。 でも・・・・ 「やっぱり、会いたかったよ」 の手紙を抱きしめて、僕は蹲った。 優しい手紙。 残酷な手紙。 返事を書こう。あの子へのプレゼントも添えて。 会うことが叶わないなら、ぜめて僕の思いを彼へ届けたい。 「ありがとう。も、良い年を迎えられますように」 手紙を折りたたんで大切にしまう。 そしてその愛しい筆跡に、唇を落とした。 |