<生活風景> とある休暇のお昼時、シンと二人で部屋の掃除をしていたら、シンが文句を漏らした。 「ずるい」 「え?何が」 ベッドのシーツを取り外している最中に言われて、俺は振り返る。 ユニットバスを掃除していたシンが、洗い終えたのか腕まくりを解いて不服そうに睨んでいた。 「水場全部の掃除になったのはシンがジャンケンで負けたからじゃないか」 「そうじゃない!」 じゃあなんだろう。ん?と首を傾げると。 「俺のベッド、入口に近いからいつも見られてる気がするんだよ。お前だけプライベートがあるみたいでずるい!」 言われて、目を瞬いた。 ここに暮してずいぶん日が経った。あと半分も暮らさない部屋の割り当てに、今さらな感じの不満だなあ。 ちなみにこの部屋の間取りは、水場も入れて縦軸の長いL字型で、部屋から入って右側にちょっとした収納スペース。そのちょっと奥に洗面トイレバスへの扉があり、逆サイドにシンのベットが。その奥には二段ベットの上段より少し高い位の狭いロフト、そこが俺の寝床だ。天井が低くなったその下には俺のデスク、ロフトの出っ張りから外れた所にシンのデスクがある。 まあ一番奥に俺の寝床があるし、一見隔離されてるから、シンの言いたいことも分からなくもなかった。 実際、俺が寝る時はシンが丸見えだし。 「えーと・・・・・じゃあ、ベッド、変えるか?」 別にその場所に未練がある訳でなし。俺はそう進言してみた。 「匂いが気にならないようにマットまで変えたし、これでいいだろ」 「おう」 完了したプチ引っ越しに、ほんの少しシンの機嫌が良くなったのが分かった。 やれやれ。俺もほんとシンに甘いよなー 「荷物はまた今度にしよう。俺疲れたから先寝るな〜」 細々夜まで働いてさすがに眠い。明日も早いし、新しい寝床に潜り込んだ。 (なんか・・目線が低くて変な感じ・・・・・) まあでもすぐに慣れるだろ。と目を閉じる。 シンもロフトに上がる音が聞こえた。 「っと、忘れてた・・・」 意識が落ちていく中、シンの小さい呟きが耳に入る。 ゆっくりと近くを歩いて、少し遠のいたら動きが速くなり、パタンと扉が閉まる音が聞こえた。 ああ・・・・トイレか・・・・・なんて思いつつ、さらに意識は遠くなる。 一瞬寝てたんだろう。けだるい身体が大きな水音で目覚めた。 扉の開閉と動く気配。 やっぱり気配は俺の近くに来るにつれて緩慢に移動し・・・ 「〜〜〜っ、おい!!起きろ!やっぱりいい、戻せ!」 「んん?何?」 あとちょっとで眠れたのに揺すり起こされて、俺はしょぼつく目を何とか開けて起き上がった。 「寝てるの気にするほうが嫌だってことに気がついたんだよ!いいから向こうのベッドへ行け」 「なんだよ・・・わがままだな・・・・」 ものすごいわがままなんだが、正直眠いし早く寝たいしで、俺は素直にロフトへ向かった。 そのまま潜って眠りに就く。 匂いとか微妙に違うけど、馴染んだ高さに俺の意識は簡単に落ちていった。 その俺の下で、 「何してんだ・・・俺」 シンが自問している声も届かなかった。 |