<ついった診断 種編 ―暑いから好きな人に冷たい飲み物を渡してみったー より―> 夏の盛りに突入してずいぶんたつ。 家の中で冷房をつけて涼んだり、標高の高い内陸や木々のある避暑地へ行ったり、逆にこの暑さに浮かれ、海やレジャー、行楽地へ行くなど、人々は思い思いにこの季節を満喫していた。 で、俺たちはというと、その類に漏れず、みんなで海に遊びに来ていた。 オーブは島国なため、海水浴場には事欠かない。遊ぶにはうってつけだった。 「あれ? キラは?」 盗難防止のために荷物当番を交互に決めて遊んでいた俺たちは、そろそろ昼時ということで、海から出ていた。 荷物当番だった俺は、みんなの分の飲み物を買って配り、唯一いない兄の姿を探した。 「さっき忘れ物したからって、海に戻っていったぞ」 カガリがスポーツドリンクを飲んでから答える。 この人ごみの中で見つかるんだろうか。 ちょっと心配になった俺は持っている飲み物をそのままに、海へ向かった。 「キラー」 少し探すと、キラはすぐに見つかった。 動いている人の中で、海を眺めて立ち止まっているキラは、逆に目立った。 「キラ、どうした?見つかったのか?」 「うん。流れたサンダルを探してたんだけど・・・やっぱり見つかりそうにないや」 遊んでいるうちにサンダルを流してしまったらしいキラの手元に片方だけのサンダルがある。 周りには海水浴にきている客であふれ、砂浜も海の中も探し物をするには無理と一目でわかる状態だった。 「これだと、見つかるのは難しそうだな」 「靴は別に持ってきたからいいんだけどね。砂浜は何が落ちてるかわからないから」 確かにな。砂とか、貝がらとか、時々遊びに来た客がそのまま置いていくものが埋もれてるから、素足で歩くのは心もとない。 しかしなくなったとはいえ、ここにいてもしょうがないので、俺はキラを先導して、みんなの所に戻ることにした。 「ほら、キラ。とりあえずこれ飲めよ。のど乾いてるだろ?」 キラの分の飲み物を渡して、俺は周囲に危険なものはないかを探る。 「うん。ありがとう」 ペキ、と空ける音がして、キラがのどを潤している間にルートを決めて、変なところを通らないようにと無意識にキラの手を取った。 「ほら、行くぞ」 そうして振り返って。 冷たくて柔らかい感触が唇に落ちた。 「お礼だよ」 不意打ちに固まった俺に、キラはとてもとても優しい笑顔を浮かべている。 よりによって公衆の面前で。 人の優しさに漬け込みやがって。 お前なんか足を怪我すりゃいい。 そう思いつつも、結局俺はキラの手を引いて先導することはやめなかった。 END |