マスターは私にとって創造主である。
マスターのためならば私はどこへでも行くだろう。
マスターのためになるならばどんなこともするだろう。
マスターの害になるものはどんなものだろうと排除しよう。


マスターは私にとって、何にも変えがたい存在なのだ。






<17.5話 〜あるロボットの呟き>






帰ってきたマスターのその背後に張り付いている物体が、私に危険信号を発生させた。

『オ帰リナサイマセ。マスタ』
「ああ」

しかしマスターへ挨拶をしなければ失礼に当たる。私は生真面目にそのアクションを起こした。
マスターは少し疲れた顔をして返事を返した。やはり背後のものがマスターへ害を及ぼしているに違いない。

『マスタ、ソノ方ハ? 排除シマスカ?』

だから私は訊ねた。
マスターに害をなすものを人間と認識したくはなかったが、データは人間だと答えを出している。
ならば私はどんなことがあろうと呼称を変えることはできない。

「気にするな。これは空気だ」

しかし、マスターの答えはあっけないものだった。
いつにも増して重い足取りだが、ごく自然に腰を下ろす。

・・・お兄ちゃんに向かって・・・酷い」

そして害人は、嘆かわしくもマスターへ不満を言った。なんと不敬な。

「何だよ。追い出されるほうが良かったのか」

マスターが不快に返す。

「あんな説明のしかたってないよ。傷ついた」

しかし害人はまたも不敬を働いた。私の判断では速やかな排除が必要だ。
しかし、マスターが「気にするな」というのならば、身体的被害が及ばない限り行動は起こせない。

二人はしばし睨みあいを続ける。

しかし、この害人。マスターと顔が似ている。
気品や美しさなどマスターとは比べ物にならないが。
そして、聞き漏らすことのなかった集音機から送られた『おにいちゃん』という言葉。
もしや、これがあの、マスターの兄なのだろうか。
マスターが安否を憂い、奥様が悲しまれ、旦那様が気を揉んでいらしたあの兄なのか。

いや、そんなはずはない。
こんな人間が、マスターと同じDNAを持っているわけがない。

酷い酷い!こうなったらキスしてやる!舌入れてやるんだから!」
「っやーめーろ〜っっ!!」
『マスタヘノ危険確認。排除。排除』

そうだこのような輩がそんなものなど、あってはならない。
推測データからそれを抹消して、私は害人からマスターを救うための行動に出た。



そして、本当に奴がマスターの兄だと知ったのはその少し後。


心底嫌がっている様子でいらしたのに。
なぜ同じ布団で眠られるのか。


マスター、私にはマスターの心が理解できません。