それは、幸せが舞い降りた日。
「キラはお兄ちゃんになるのよ」
まだ二つにもなっていないキラは、両親にそう言われて目を丸くした。
兄という意味をよく知らないからだ。
「おにーちゃ?」
「そう、お兄ちゃん」
母さんのお腹に手をつけられて、そのお腹から小さな振動が伝わる。
「ここにキラの弟がいるんだよ」
「ぼく、おにー…ちゃ」
小さな感情は、やがて大きく大きくなる。
生まれて8ヶ月になった弟は、それはもう動き回る暴れん坊になった。
「、ダメ〜」
弟の手の届くものを片っ端からどけていって、また届くところに置いてを繰り返して奮闘するキラは、両親に微笑ましいと見守られていた。
「ああぅ」
「もーっないないなの〜っ」
除け切れなかったクマのぬいぐるみに食いつくを、キラはダメだと言って離させようと奮闘する。
どうして分かってくれないんだろうとキラは思う。
自分は分かっていることが、この子には分からないんだ。
ぼくが、ちゃんとしなきゃ。
そう思うのは、当たり前のことで。
「うー」
「きゃぅっっ」
何気なく離したの手と、勢い良く引っ張っていたキラによって、の手から抜けたクマのぬいぐるみはキラへと飛び込み、キラはバランスを崩して後ろにあったテーブルの角へと、頭をしたたかにぶつけた。
「うわああああん」
「ふやああああああっ」
痛みで泣くキラと、突然の大声にびっくりして泣いたの合唱は、隣近所にまで響いた。
感情は願いへと進み。
「きらっ」
友達のアスランと、海まで遊びに行こうと外に出てすぐだった。
袖を引っ張る手に振り返ると、まだ3歳になるかならないかの。
「もう、ついてきちゃったの?」
まだ家を出てからそんなにはたっていない。キラとアスランはを帰そうとした。
「ダメだぞ。ちょっとあぶないんだから」
「やだ!きらっ」
しかし、はキラの服を掴んで離そうとしない。さらにアスランには、キッと睨んでくる。
ブラコンの弟は、兄の傍にいたいのと、兄を取られまいと必死なのだ。
そんなことは露知らず、アスランは邪魔だなと考え、キラは可愛いなあと和む。
「アスラン、つれていこうよ」
「えっ、でも…」
「だいじょうぶ。ボク、ちゃんとみてるから」
おにいちゃんだもの。
弟は守らなければ。
キラは言い出したら聞かないのだ。
願いは、意思になる。
「うっううぅっひっく…」
「キラぁ…」
「きら…」
べそをかいて歩くキラを、二人は困ったように見つめていた。
一人は隣で、もう一人は背中の上から。
「がっ…がしんだっら、うえっ、どおしよぉ…」
「きら…」
死ぬ訳ねえじゃねえか!!と突っ込みするには、当の本人は幼すぎた。
三人で行った海岸の岩場で、は足を踏み外して落ちた。
幸いそのその岩場は地面から低く、落ちた場所が砂だったのとで、の傷は脚を大きく擦り剥いただけで終わった。
が、出血が大きかったせいだろう。大人からみれば命にかかわるものではないとすぐに分かっても、子供に判断できるはずもなく、兄の使命を果たせなかったという思いもあって、キラにはそれが足を切断したほどの衝撃があったのだ。
ワンワンと泣き喚いて歩く兄を見て、本来は痛さで泣いているはずの弟は、兄の背中の上で溜息を吐いた。
横のアスランも、何だか疲れた顔をしている。
「きら、おりる。あるくの」
「ダメ!!あるけないっ」
「じゃあ、おれがおぶるから。つかれただろ?」
「ダメ!!ぼくがするのぉっ」
何を言っても聞かないキラ。
心配されているのはこっちのはずなのに、だんだんはムカムカと腹が立ってきた。
どーしてこの兄は、頑固で人の心配をさせるのだろうか。
「おりる!!」
は無理やりキラの背から飛び降りて、アスランがハンカチを撒いた側の足を庇いながらかけていった。
「きらのバカ!!」
そう言い捨てて。
兄に世話を焼かせないように、強くならなければいけない。
逆に兄を世話できるくらいまで。
明確にではなくとも、はそう思った。
当の兄は、
「うええええんっが、ハンコウキ〜っっ」
と、泣き喚いて隣の友人を困らせていた。
そうして互いに、成長していく。
というわけで。
兄弟モノというちょっぴり(?)珍しい設定でお送りします。
でもきっとキラ夢オチ
2007.9.26
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