<くらやみとぬくもり>







休日に、久しぶりに家族全員で出かけることになった。
施設の大きな海浜公園を歩き回り、初めて訪れた水族館に、幼いは瞳を輝かせて水槽に張りついた。
母が作ったお弁当を広げて平らげ、広場で一通り遊び。

家路に着いた頃には、すでには睡魔に襲われ、夕飯を前に船を漕ぐ状態になっていた。

「父さん寝そうだよ」
「こらこんなところで寝たら風邪を引くだろう」

ソファーの上で目を開けようと頑張っているがにはあらがう事ができなかった。
目の前のもやもやした幕の外からキラと父の声が聞こえてはいるのだが、体が動かない。
結局はそのまま夢の中へと旅立ってしまった。


夢のなかでは昼間の続きのように、広場で遊んでいた。

近くにはキラがいる。
遠くで母が笑っていた。危ないわよと注意されて、大丈夫とは答えた。
近くにいた父がの体を抱き上げ、頑張って登ろうとしていたアスレチックに乗せてくれる。
は嬉しくなり、そのまま縄梯子を登っててっぺんへとたどり着いた。
自分の功績に誇らしくなったは、下にいるキラや両親に褒めてもらいたくて、アスレチックの下を見下ろした。

しかし、家族の姿は、どこにも見えなくなっていた。

「かーさん?とーさん?・・・・・・・・キラ?」

不安がを足元から飲み込んでくる。

「とーさん!かーさん!キラァ!」

は何度も声を上げ、辺りを見回した。
の周りには誰もいなかったとアスレチックを残して、何もなくなった。

「とーさ・・・・きらぁっ」

自分は置いて行かれてしまったのだろうが。そんなはずはない。絶対にそんなことしない。
なのに、誰もいない。

「キラー!キラッ――――――あっ、!!」

は足を踏み外して、そして何も見えない深い闇に包まれた。



「―――――っ!!」

バチッと、水の底から這い出たような目覚めでは飛び起きた。

真っ暗な闇は、変わらずにの周りを囲んでいる。
だがそこは何もない空間ではないがよく知る子供部屋だ。

さっきまでの夢を忘れてはリビングにいた自分がどうしてここにいるのかわからなかった。

わからなくて、なのに、のしかかってくる恐ろしいものが背中の後ろにいて。

うっく、とは声を震わせた。
この場にいたら、後ろにいる化け物が襲いにくる。
は急いでベッドから飛び降り、ドアに飛び付いて部屋から出た。
階段の下から、明かりが漏れている。
その明かりにむかっては階段を掛け降りた。

「うぷっ」
「ぁ、っ!」

登ろうとしていた誰かにぶつかっては体当たりをかけていた。
ぶつかった相手はに倒され、床との間に挟まれる。

「あら、起きてきたの?」

母の声が聞こえてはがばっと顔を上げた。
ぜいぜいと息を荒くして涙ぐんでいるを見て、母は目を瞬かせた。
はその姿を見たとたんにぼろぼろと泣き、人を下敷きにしたまましゃくり上げた。

「一人にされて寂しかったのかしら」

ひぐっひく、と嗚咽するに、母が寄り添い、抱きしめてくれた。
母の温かい腕に包まれてはようやく安心して息を吐いた。
しばらくあやされて、母とは別の手が、の頭をなでるのを感じた。
横を向くと、キラが撫でていることが分かった。
困ったような笑顔を向けるキラは、胸をさすっている。さっき下敷きにしたのがキラだったのだとはようやく気がついた。



「さあ、2人とも、もう寝なさい」
「おやすみなさーい」

カリダとキラの間に挟まれて再び戻った子供部屋。とキラはそれぞれのベッドに入り、母に諭されて眠りにつかされた。
明かりが消えて、キラの気配が近くにあるが、さっきまで襲っていた怖さは、暗闇になったとたん再びの中に膨れ上がってた。

「ぅ・・・」

心細さに喉の奥で泣くの毛布に、誰かの手が乗せられた。



キラの声が耳元で聞こえる。

、大丈夫だよ」

の手がキラの手に握られて、暗闇の中でもキラの顔が見えた。

「怖くないもの。ほら」

ぎゅ、と握られた手は、とても温かい。
さっきまで母に抱きしめられていた時よりは心細くても、それでも1人じゃないと分かる温もりだった。
キラは、少し上の兄は優しくを言い含める。

「僕が一緒だって、わかるでしょう」

こくん

「夢でもと一緒だよ。怖くないよ」

こくん


そうだ。怖くない。
怖くないなら、眠っても大丈夫。


そうしては安らかに。
今度は穏やかな夢の中へ、キラと一緒にまどろんでいった。





END






小さい頃って暗いのとか、一人とか怖がるよなって話