<兄が諸々の事情で記憶喪失になりました 2>




記憶喪失になったとはいえ、意識も復活し、大きな怪我もしなかったため、キラはすぐに退院することとなった。

「日常にいる方が、記憶が回復する確率も増えますよ」とは医者の上等文句だ。
記憶が戻らない限りはしばらくお世話になるだろう。


母さんが駆けつけて、家に帰った俺たちは、初めて見たように家を見るキラを案内することから始めた。

息子が記憶喪失になったと知った時の母さんはショックを受けていたようだけれど、今はまったくそんなそぶりも見せずにキラへいつも通りに接している。

「ここが貴方の部屋よ」

最後に自身の部屋に案内されて、キラは他人の家に来た子供のように部屋の中を見まわした。
見覚えがないのだろう。他人のものに触れるのを遠慮するように、机やベッド、収納棚を見つめても触ろうとはしない。

「貴方の部屋だから、楽にしてていいのよ」
「あ、はい・・・」

余所余所しいキラは恐縮しきりだ。
「お茶にしましょうか」と母さんが振って、一息つくことになった。

そうしている間も、やはりキラは固まったまま。仕方のないこととはいえ、なんだか悲しくなってくる。

「マスタ。 出勤のオ時間デス」
「え、もうか」

ストライクが告げてきて、家を出ないとならなくなった。
母さんを見ると、「大丈夫だからいってらっしゃい」と言われた。

キラが心配なのは間違いないけど、母さんがいれば大丈夫だろう。

頷いて支度をすると、キラが「あ・・」と声を出したので何かと振り向いた。
こっちをむいて、何かを言いたそうにしているキラに、「何?」とたずねる。
キラは、やや戸惑いながら。それでも。

「いってらっしゃい」

と、言ってくれた。

「・・・・いってきます」

それが、いつもと変わらなくて、口元が緩んでいた。


はやくこの家に慣れてくれればいいなと思いつつ、大人しいキラもいいのかな。なんて、少し思った。











弟君超のんき・・・