年が明ける。 また新しい年になる。 夜も完全に更けて深夜。 今年最後の日の名残とでも言うように、鐘が鳴り続く。 名残惜しむように長々と、何度も。何度も。 「なんで除夜の鐘って何度も何度も鳴らすんだろう・・・・」 近くの寺から聞こえる鐘をうんざりと聞きつつ、俺はぼやいた。 こたつで暖を取りながらみかんを頬張る。 ああ、古き良き文化を作った日本人はホントすばらしいな。 最高の発明品だよ。 一種の破壊兵器だ。極楽へと連れて行ってくれる。 「何?急に」 隣にいるキラが、見ていたテレビから目を外してぱちくりと瞬く。 「鐘の音嫌いなの?」 「嫌いって言うか・・・・・・何度も聞くとウザイ」 そう言えば、ふうん。と首を傾げられた。 その間にまた鐘がなる。 何十回目か分からない音に顔を顰めると、キラはポツリと言った。 「除夜の鐘って、108回鳴らすんだって」 「・・・・・・・・・・・・へえ」 108回。何でそんな多いんだよ。しかも中途半端な。 「人間の煩悩を鐘の音で落とすんだって。108つもあるんだってさ」 「・・・・・・・・・・ほぉ」 俺の心を読み取ったのか、それとも口に出ていたのか説明するキラ。 煩悩の数ね。 人間煩悩の塊みたいな物だ。 だから108もあるのか。 それとも108しかないというべきなのか・・・・ そんなことを無駄に考える。 「そうして来年を新しく、綺麗な心で向かえるんだって」 「綺麗な心ねぇ」 ただの気休めでしかないな。 そんなことで煩悩が無くなる訳がない。 いつだろうがなんだろうが欲に溺れまみれているのが人間という物だ。 「夢見なさすぎ。何でそういう考えになるかな」 「だって正にその通りじゃないか。どうやったって欲は尽きやしないんだよ」 でなければ、よく聞くニュースの事件や事故なんて、起こりはしないんだ。 戦争だって起こらない。 幸せな世界に、ぬるま湯みたいな世界になるのに。 「いいじゃない。そうやって穢れが落ちるって考える人たちがいるのなら」 「だってウザイ」 「はワガママだなあ」 俺のぼやきに苦笑して、何かを思いついたのか、じゃあこういうのは?と言い出した。 「鐘が鳴ったら何か一つ、今年やった失敗や恥ずかしかったこと、悔しかったことを思い出すとか」 「ムカつきが増すだけじゃないか」 「反対に嬉しかったことや、楽しかったことでもいいんだよ」 キラの意図がわからなくて首を捻る。 「そういうことを思い出して、来年はもっとうまくやろうとか。もうやらないとか。もっと頑張ろうとか、来年の目標を上げていくんだ。 そうしたらきっと来年が楽しみになって時間なんて忘れちゃうよ」 にこにこと言うキラ。 なんて夢思考な兄貴だろう。 というか、本気でやるのか?それ。 ボーンとまた鐘が鳴る。 余韻を残して消えていく音。 その後すぐに、「ハッピーニューイヤー!!」とテレビから聞こえてきた。 スピーカーから鳴る爆発音と拍手。 それを聞いて、年が明けたんだと気がついた。 もうそんな時間だったのか。 「実行する前に終わっちゃたね」 「・・・・・・そうだな」 正直、やらずにすんで良かったと思わなくもない。 せっかくいい暇つぶしだと思ったんだけどね。と言うキラに適当に相槌しつつ、胸を撫で下ろした。 だって恥ずかしいだろう。どう考えても。 「あけましておめでとう」 「うん。あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」 兄弟揃って年始の挨拶。 あっという間に去年が終わって今年が始まる。 ボーンとまた鐘が鳴る。 最後の響きは始まりを祝福するような気がした。 煩悩が消えたかどうかなんて分からないし、消えたとも思えない。 尽きない物を抱えて、今年が始まる。 毎年そうやって、年が始まり、終わるんだ。 |